第245話 まさかの展開……!?
「なんだよ! みんなして、浮かれちゃってさ! なんであんな馬鹿を重用するの? ムカつくったらありゃしない!」
ウチは胡散臭い会議室を出て、クルセイダーズの建物からも飛び出した。そして、思うままに街に繰り出して、気晴らしをしようとしている。でも怒りと悔しさが先行して何もいいアイデアが浮かばない。
「くーっ! 思いっきり気晴らししてやりたいのに、いいこと思い浮かばない!」
イライラしているときなんて全然頭がうまく働かない! 何したっていいことがない! 全部アイツらのせいだ! あの馬鹿女と鼻の下伸ばしたジュニアが悪いんだ! ついでにあのアホ勇者も悪い! もう全部、アイツのせいにしてやろう!
「ん? あれ? なんか落ちてきた?」
町中でイライラしていると、何かが空から落ちてきた。なんかヒラヒラしたやつが。見てみるとそれは紙だった。少し大きめな紙。ウチはそれを手に取り、じっくりと正体を確かめる。やっぱり、何かが書いてあった。
『人材募集中! 素敵な仕事、素敵な職場がアナタを待っている! 未来を切り開くのはアナタだけ! アナタのスキルを役立てる舞台を準備してあります! 気になった方は白い巨塔にお越し下さい!』
なんか人材募集のチラシだった。……といってもコレは罠。あのワケわかんない塔におびき寄せるための魔王の策略。わかってはいても、コレは腹が立つ。しかも内容がウチの頭の中身を覗き見たのかっていうくらいに狙い撃ちに来ている。なんか魔王にもバカにされている様な気分だ!
「オイ、気をつけろよ。それは羊の魔王の奸計だ。それに書いてあるように塔に行けば十中八九、命を落とすことになるぞ。」
ウチが紙切れに腹を立てていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。明らかにウチをバカにするような感じの声。聞いているだけでムカムカするようなナマイキな男の声! 振り向いてその姿を確認した。
「なんで、アンタがこんな所にいるのよ!」
「悪いか? オレはただヴァル様の命で魔王や勇者の様子を探りに来ただけだ。お前に文句を言われる筋合いはない。」
エピオンだった。ウチらの敵勢力、ドラゴンズへヴンとかいう悪の組織の一員だ。ウチより年下のクセに何か人よりも真実を知ってるみたいな態度で、人のことを見下すような態度をとってくるのは相変わらずだった。なんか魔王とか変な組織が関わっている時は大体、ウチらの前に姿を現す。今回も何かちょっかいを出しに来たみたいだ!
「相変わらず頭の悪さだけは一丁前だな。仲間割れをした挙句、魔王にも見透かされ、露頭に迷っている。所詮は遊び人だな。お前にはお似合いの立場だな。哀れな道化そのものだ。」
「クッ! バカにして!」
怒りに身を任せて殴りかかかるもあっさりと止められ、羽交い締めにされてしまった。悔しい! そして痛い! 女の子に対しても全然手加減する気配が感じられない。本当にムカつくヤツだ!
「は、放しなさいよ! 痛いじゃない!」
「お前が軽率な真似をするからだ。これでも手加減してやってるんだ。感謝しろ。普通ならその場で切り捨てているだろうしな。」
「じゃあ、もう、斬っちゃえばいいじゃない! アンタなんかに手心加えられのは、恥でしかないもん!」
「全く、お前はどこまでバカなんだ? 不機嫌だからって、いくらなんでも態度が投げ槍すぎる。だから、勇者たちに見限られるんだ。」
「うるさい! アンタなんかに言われる筋合いなんてない!」
見限られるだなんて、デタラメ言っちゃってさ! あのバカ女にみんな騙されただけ。ウチが見限られるなんてあるはずがない! そんなはずなんて……ない!
「フン、泣いてるのかよ? お前みたいなバカでも本質をつかれると傷付くんだな。」
「う、うるさい! 別に泣いてないもん! 悔しくなんか……、」
悔しくなんかないはずなのに、涙が溢れてきた。泣きたくなんかないのに涙が止まらなかった。しかも、一番、泣いてる所を見られたくないヤツの目の前で! なんで涙が止まらないんだろう? 泣きたくなんかないはずなのに!
「お前が厄介払いされたって言うんなら、こちらとしては好都合だ。」
「そうでしょうね! 敵が仲間割れしてるんなら大きなチャンスだもんね! 敵の不幸は蜜の味って考えてるんでしょ!」
「オレはいい気味だと思っている。コレはあくまでオレ個人の感想でしかない。でも、目的は違う。お前に関してヴァル様から命を受けているからな。」
「あんないけ好かない英雄気取りの化け物がウチに何しようって言うのさ!」
「オレは気が進まないが、ヴァル様の命に背くつもりはない。ヴァル様はお前の能力を買っているんだ。お前の剣の巫女としての能力を買ってくれているんだ。光栄に思えよ。こんな栄誉は誰にでも与えられるものじゃないんだぞ?」
「何? 一体、何が言いたいのよ? あんな悪党が何しようっていうの?」
「フン、一々説明しないとわからないのか? じゃあ、言ってやるよ。 お前をドラゴンズへヴンの一員として迎えるとヴァル様は言っているんだ。」
「アンタ、何言ってんの……?」
まさかの勧誘だった。ウチに対してバカにするような態度をとってきたコイツがウチを味方に引き入れようとしている? コイツの本心ではないみたいだけど、あの悪の組織のボスがウチを味方に付けようとしているなんて……。そんなの……、
「ウチが顔を縦に振るとでも思ってるの? バカにするのも大概にしなさいよ!」
「オレもそう簡単に聞き入れられるとは思っていない。でも、どうだ? 今回、お前は勇者一味にないがしろにされ、一泡吹かせたいと考えてるんじゃないか?」
「な、何よ、それとコレが何の関係があるっていうのよ?」
コイツはボスの指示でウチを勧誘しているみたいだけど、他に何か企んでいる? 仲間に出来なくても、ウチに何かさせようとしているのは明白だった。でも、あまり気は進まない。とはいえ、アイツらに何か仕返しくらいはしてやりたい気持ちもある。
「オレに手を貸せ。一時的でも構わない。今回、一緒に魔王を倒すのを手伝ってくれればいい。そうすれば、お前の有用性は勇者共に思い知らせることができるし、ヴァル様もお喜びになるはずだ。勧誘に乗るかどうかはその後に考えてもらってもいいんだ。」
一時的に……? それなら良いかもしれない。ウチはアイツらにアピールできればいい。手柄を先に横取りしちゃえば、アイツらだって、ウチへの評価を改めるかもしれない。でも、後ろめたさもある。悪の組織に手を貸すことになるんだから。思いがけない提案にウチの心は大きく揺れていた……。