第243話 恋のドラフト会議かな……?
「さっすが〜! 話がわかるじゃん、鉄仮面の人!」
「調子に乗るなよ! あくまでロッヒェンと組んでダブルリーダーで行けってことだからな!」
「アンタの意見は聞いてな〜い!」
「ムカつくなぁ〜!」
エドから二人組のリーダー制を提案され、自分の意見が通ったものと勘違いしたのか、プリメーラは俺を煽ってきた。反対意見を出していたとはいえ、どうもアイツは俺に対して対抗意識を向けてくるな。ミヤコだけではなく俺も競合相手の一人に数えられているらしい。
「ロッヒェン、異論はないな? お前は彼女のサポートに徹するのだ。そして、彼女が誤った判断をしていると感じた時は是正してやれば良い。それがお前の役目だ。」
「彼女はアイローネを倒したほどの実力者です。ですが、迷宮は疎か冒険者としての経験はほぼ皆無だという話ですよね。僕も経験が多いとは言えませんが、協力して仲間を率いれるのなら心強く感じます。」
「おー! よろしくね! 剣士君…じゃなくてロッヘン君、仲良くやろうじゃないか! やはり、私とキミは共に歩む運命なのだよ!」
「ぐむむ……。」
調子のいいこと言いやがって……。しかも微妙に名前の発音が間違っているところもイラッとさせる要素だ。ロッヒェンをスカウトしようとしてたらしいが、アイツは割と男女の見境なく仲間に引き込もうとしているのも見逃せない。
そして、アイツと組むとなると不都合な人間はどうしても出てくる。ミヤコだ。さっきからアイツは不機嫌そうにむくれている。
「おやおや? リーダーコンビが成立すると不服な方が勇者以外にもう一名いらっしゃるようですよ?」
「あ、あの、ちょっと、お嬢さん、誤解しないで下さい。あくまで彼女とはビジネス的に協力関係になるというだけなので……。」
「あ〜、そう。アンタ、そんなアホ女の肩を持つんだ? 浮気者、薄情者!!」
「うわ〜、妬いてるよ! みっともないね! 彼氏取られてむくれてやんの! だっさいわぁ〜!!」
懸念していた争いが勃発してしまった。今回のダブルリーダー制は二人の間にある火種を燃料投下して火事にまで発展させてしまったと言える。しかもプリメーラも調子に乗って煽るので、さらに拡大をさせてしまっているのだ。モテ男を巡る争いはこういうところから更に悪化をしてしまいそうだった。
「ちょっと、表に出ろ、お前! 一回シメてやるから!!」
「コラコラ、やめろ! 今は編成会議中だぞ!!」
「そなたも同じパーティーに加わればよかろう? この小僧の恋人を自負しておるならば、常に側にいて付け入る隙を与えねばよいのだ。それに問題があると言うのかえ?」
「まず、その女とは組みたくないし、ジュニアはウチの彼氏なんかじゃない! ただの下僕だし、なんか鼻の下伸ばして裏切ろうとしてるだけ! そんな薄情なヤツと一緒にいたくない!」
なんか意地を張ってやがるな? ほぼ付き合ってるようなモンなのに、素直にロッヒェンを認めようとしていない。少し他の女の実績を尊重しただけで浮気扱いとは、器の小さいやつだ。割といつも尊大な態度を撮っている割にはいざとなればこんなものか。
「じゃあ、どうするんだ? お前、今回、誰と一緒に行くつもりなんだ?」
「……行かない。いけ好かないヤツらが仲良くしてるんなら、行きたくない。ウチは今回、あのダンジョンには行かないことにしたから!」
「お、おい!」
ミヤコは会議室から出ていこうとしている。参加しないというのは本気なんだろうか? とはいえお気に入りのロッヒェンはプリメーラに取られたようなもんだし、しかも、タニシが不在である。アイツがよく接している人間が他の所に行こうとしているので行き場がなくなってしまったのも事実である。その中でミヤコを引き留めようとする人間が一人いた。
「あのミヤコさん! オレがいますよ? お忘れですか?」
「は? 何? ちょっと、そこをどいてほしいんだけど? ウチは今、機嫌が悪い。邪魔すると容赦しないよ?」
「オレが一緒に……、」
「断る!!」
「いや、ちょっと、まだ話し始めたばっかりですよ! 話を聞いて……、」
「断る!!」
「まだ何も言って……、」
「だから断るって言いてるだろうが! 死ね!!」
(ドカッ!!)
「ぎゃああ!!」
哀れなメガネ君。引き留めようとするも、全く相手にされず、一蹴され失敗に終わった。あんな機嫌の悪いときだというのに、果敢にアタックしたのはいいが、逆効果になることを予測できなかったのが敗因だろう。また、なんか滑り落ちる結果になったな。更に落ちぶれて情けない顔をしている。
「僕、行ってきます!」
「待て。そなたはそのままで良い。」
「どうしてです?」
「そなたはあの女に十分に好意を示しておろう? 今後はあやつもその返しをせねばならんはずじゃ。いつまでも関係をあやふやにして意地を張っていては、いつまでもそなたらの関係は進展すまい? 少しは試練を与えて成長の機会を作ってやる必要があるのじゃ。」
「相変わらず、ミヤコには手厳しいな、サヨちゃんは。」
「妾が戻ってくるまで大して成長しておらぬのがいけないのじゃ。少しは痛い目に会うのがいい薬となることもあるのじゃよ。」
久しぶりに俺達の元へ戻ってきたサヨちゃんだが、ミヤコの不成長ぶりを懸念しているようだ。何度か旅に同行して経験を積んだとは思うが男女関係は一向に進展していないのが気になっていたんだろう。多少は俺らの動向を見ていたみたいだし、口出ししたくなったんんだろう。
「なんか、あのお姉さん、凄い大物みたいじゃない? やっべーよ! オーラが半端ないよ!」
「うん、まあ、実際、大物だからな。お前が思ってる以上に凄い存在だぞ、サヨちゃんは。」
今までのやり取りを見て、プリメーラはポカーンとしていた。サヨちゃんの饒舌ぶりにあっけにとられていたような感じだ。初対面となる二人だが、なんか今の時点でまた一波乱ありそうな関係性になりそうな気がするのは、考えすぎだろうか……?