第241話 某犬畜生の後釜?
「本当に治るのか? にわかには信じがたいぜ。」
「治るって言ってるでしょうーが! 信じないならやらないよ! 信じるんならちゃんと集中して!」
「ヘーイ。」
ティンロンが約束をすっぽかすというトラブルが発生したものの、壊れた武器の修復作業が始まった。エドの防具の修復に始まり、二番手は戟覇となった。ティンロン? アイツはミヤコの怒りを買ったので一番後回しという流れになった。
「治してくれるのはいいけど、俺、おたくらが勇者と呼んでいる男の敵でもあるんだぜ? 元通りになったら、即、首を取りに行くかもしれないのに?」
「まだその様な事を申すか。本気では思っておらぬのだろう? もし実行に移せば周りの人間全てを敵に回すことになる。それはそなたも分かっておろう?」
修復作業中にも、戟覇は治してもらえる事に疑問を感じているようだ。一応、敵対の姿勢をとっているので、そのけじめはつけておきたいと考えているのだろう。ひょうひょうとはしているが、こういう部分はやたらと筋を通したがる性格のようだ。将来、梁山泊のトップになる野望を秘めていると豪語するだけのことはある。それに比べるとティンロンはまだまだ青臭さがあると感じざるを得ない。
「フフ、お姐さん、馬鹿言っちゃいけない。俺、割と自信あるからね。ここにいる全員倒せるつもりでいるから。だって俺強いもん。」
「ほう、大した自身を持った小僧じゃのう? それは妾を相手にしても同じことが言えるのかえ?」
サヨちゃんの言葉にも一歩も引かず、戟覇は筋を通そうと躍起になるが、サヨちゃんが睨みを利かせた途端、その態度を少し引っ込める感じになった。彼女から放たれるただならぬ気配を読み取ったのだろう。あの男も馬鹿じゃない。達人であればあるほど、サヨちゃんの異質さが理解できてしまうはずだから。
「姐さん、アンタ何者? ただ事じゃない気配を持ってるけど? まるで仙人とか、……いや、ある意味、伝説の女仙、”金丹皇后”か? それくらいの存在でなきゃ説明がつかねえよ。」
「ほほう、察したか? 妾達の存在は東側にも伝わっているのは存じておる。近からず遠からず、案外的はずれな考察ではないとだけ言っておこうかのう?」
「ハハ、当たってたのか? やべえな。危うくとんでもねえ存在に喧嘩売るところだったぜ。」
戟覇が口にした存在は俺らの国では誰もが知っている神聖かつ最も畏怖すべき存在として語り継がれている。古代から聖なる山に住んでいて、仙人達を統べる女王とも言うべき存在だ。基本、人間の姿をしているが、その正体は人智を超越した怪物なのだとも言われている。
こうして思い返してみると、割とサヨちゃんの特徴と重なる部分が結構ある。もしかしたら本当にサヨちゃんの事が伝わって”金丹皇后”の伝説になったのかもしれない。そう考えるとヤバイな。
「出来たよ。こんな感じで良かったんでしょ?」
「げっ!? 本当に出来てやがる! 形は少し違うが、紛れもなく蛇矛だ。なんか西洋風アレンジが入ってるのはキミの手心かい?」
「まあ、そういうこと。元のだと、ちょっと無骨過ぎてダサい感じがしたから、多少おしゃれにアレンジしてみた!」
「おおーっ!? 姉御、凄いアル! まるで魔法みたいアルね!」
「いや、これ本当に魔法だから! 我が家に伝わる秘術なの。代々勇者の剣を守る家系に受け継がれてきた技なんだからね。」
戟覇は修復が終わった蛇矛を見て、色々思うところはあるようだが、すぐに気に入り軽く素振りをして調子を確かめている。西洋アレンジが入っていて、なんというか聖騎士が持っていても違和感の少ない感じに仕上がっている。前のは毒蛇みたいなイメージだったが、聖なる白蛇になったみたいなデザインに変貌してしまっている。
「あ、あの、次はオレっすよね? ミヤコ様、ヨロシクお願いしやす!!」
「ああ〜、かったるいな。なんで粗❍ィンの粗末なモノを治さないといけないのよ。」
「そ、そ、そ、そんな事言わずにお願いしやす! コレがないとまともに戦えないんで!」
❍ィンロンは壊れた刀の破片をミヤコに差し出して懇願している。元は伝説に歌われる美女の名を冠した妖刀だったが、鬼によって粉々に砕かれてしまったため、その姿は黒ずんだ屑鉄のようにしか見えなくなっている。こっからでもミヤコの能力があれば元通りにはなるんだが、本人はやる気がないらしい。アホみたいな幻想を持ってトチ狂った行動をしでかした影響がまだ残っているのだ。
「じゃあ……ホイ!」
(ポンっ!!!)
なんか適当な感じで魔法を使って再生をしようとした。急激にやったからなのか、適当にやったからなのかは知らないが、他では見たことのない変化が巻き起こった。こんな白い煙みたいなの今まで出たことなかったんだが……?
「ああぁ!!?? なんか信じられないくらいなまくらみたいな刀になったんですけどぉ!!」
「ああ、うるさい! お前みたいなんにはそんなんで十分! 疲れたからこれで終了ね。」
「ああぁ! そんな事言わずにぃ、ぜひともぉ!!」
瞬間的に修復され出てきたのは、なんかボンヤリした輪郭の、なんというか、子供のおもちゃみたいな刀だった。しかも刀身に”ようとう”って子供が書きなぐったみたいな字が書かれている。こんなんじゃ、まともに戦えない。妖刀としての威厳が全く残っていない。こんなんで戦おうものなら、相手にフルボッコにされてしまいそうな感じがする。
「じゃあ、これで最後な。……ホイ!!」
(ポンっ!!!)
「ああああぁ!!?? もっと恥ずかしいことになってるぅ!!」
ミヤコは気だるそうにもう一度修復を試みた。さっきよりも適当な感じで。同じように煙が発生し現れたその刀身には「粗❍ィン」、「❍ィンカス」と書かれていた。こんなん持って歩けないだろ。鞘にも収まらない形になった上に恥ずかしい字が書かれている。哀れよのう。
「フフ、ワン公の後釜はアヤツで決まりじゃのう。あの手のキャラはそうそうおらんじゃろう。面白い人材が出てきてなによりじゃわい。」
タニシが不在だからって、アイツをそのポジションにつけようというのか? 確かにダメな部分は共通しているように見えるが……。ということはサヨちゃんにいじり倒されるのは確定になりそうだ。アイツはどこまで落ちぶれるんだろう? 飛ぶ鳥をも落とす勢いだな、こりゃ。