第235話 ときめいて? メモ・リアル!?
「おい、そこのメガネ! そこで止まれ!」
次にやってきたのは誰かと思えばティンロンだった。というかある程度近付くまで気づかなかった。ていうかオーラがまったくない時はホントに影が薄い。まじでモブ。再会した当初はぜッ殺(※絶対に殺すの意)オーラを漂わせていたから遠くからでも認識できていたんだ。今はまるでそれが、ない。
「フッ! 何様のつもりだ。このオレを足止めするとは。ゴミの分際で!」
「お前も話は聞いてただろ? 今、この先は立入禁止だ。例え実力者だろうと通ることは許されんぞ。」
「ええい! 邪魔をするな! オレはあの塔に行かねばならんのだ! どけい!!」
ああもう! これだからワガママ放題のアホぼんは困るんだ! なんでも、どこでも、いつでも、自分の意向が押し通せると思い込んでやがる! ていうか、なんだ? コイツはあそこへ行って何をしようと言うのだろう? 別に冒険者ってわけでもないくせに! 魔王舐めすぎ!
「いくらお前でも魔王だけは止めとけ! ある意味、蚩尤一族と同じだ。それ以上にお前の知らない魔法ってのがあるんだ! アレは甘く見ないほうがいい! 下手すると完全に動きを封じられたり、即死につながるんだからな!」
「甘く見ているのは貴様の方だろう! オレは刀覇だ! 梁山泊の未来を担うものだ! あの程度の怪異の類など、あっという間に叩いてくれるわ!」
うわぁ……。他のメンバーは警備とか待機したりしてる中で、軽率なこと風のごとし! 人の話を聞かないこと林のごとし!無駄に勇ましいこと火のごとし! そして、無駄に頑固なこと山のごとし! ダメな風林火山コンプリートしちゃってるじゃねえか! こんなん、兵法書にダメな一例として掲載される程のレベルだよ!
「梁山泊の未来を考えてるんなら、絶対に行くな! 一人で行ってなんとかなるようなもんじゃないんだぞ!」
「うるさい! 貴様のような落ちこぼれがナマイキ抜かすな! 貴様のような者の言うことなどきいてられるかぁ!!」
なんとか説得を試みるが全然言うことを聞かない! それどころか強引に突破するために俺に掴みかかってきた。そこから押したり引いたりモミクチャな状態になり、完全な泥試合のような様相へ移行した! その中でヤツの衣服から何か紙切れが落ちた。ちょうど何かが書いてある面が表になって地面に落着した。
「あっ!? しまった!?」
「しまった? ん? なになに?」
《あの伝説の塔のテッペンで待ってます。絶対にひとりで来てね! 〜アナタを見守る天使より♡〜》
ナニコレ? まさか、コレも魔王からの怪文書なの? いやいや、いくらなんでも流石にね……。いやいや、ないない……。いくらなんでも、魔王って言ってもこんな俗っぽい方法使うわけ……。
「お前、マジで信じてんの、コレ?」
「ち、ち、ち、違うわ! オレがこんな嘘くさいメモに騙されるわけなかろうが!」
「ほう? その割には動揺が見られるがどういうことかね?」
「動揺じゃない! 疑われた事に怒りを感じ、打ち震えているだけだ!! 断じて動揺などではないっ!!」
そう言う割には下に落ちたメモをチラチラと見て気にしている。やっぱ非モテってつけ入れられるんだな。俺も一年ぐらい前なら引っかかってたかもしれない。タニシだって余裕で即ダッシュして駆けつけるに違いない。コレが非モテ人間の現実よ。哀しいけどコレ、現実なのよね!
「まず、コレだけは言っとく。……絶対にないから。」
「ああああっ!!!!」
忠告をした途端、ティンロンは取っ組み合いを解除して、頭を抱えながら絶叫した! よほどのダメージを与えてしまったらしい。そして、さり気なくサッとメモを回収して、また頭を抱え始めた。まだこの後に及んでメモの内容に執着しているらしい。
「だから、もうな、お前、ヘンに夢見るのやめろって。そんな都合のいい話なんてあるわけないんだぞ?」
「うるさああい!! 貴様が言うな! 不似合いなくらいの彼女がいるからって見下していいと思ってるのかぁ!」
「そういう問題じゃなくて、状況からして罠ってのは確実だろ? 行ったら、もれなくゴリラみたいな奴にぶっ殺されるぞ。告白じゃなくて死の宣告を受けるだけだぞ。」
「いいだろうが! 夢見たって! 本当にいるかもしれないじゃないか! 誰か確かめたのか? そうじゃないだろう? このオレが実際に突入して確かめに行くんだぁ!!」
だ、ダメだ。コイツ頑なに行こうという意思を曲げようとしない! 確かめに行くって、行ったらとてもとても嫌な現実を見せつけられて、ゴリラ軍団にフルボッコにされた上に、羊の魔王の人体実験されて、妙に影の薄いモブみたいな改造人間にされる末路しか見えない!
「か、かくなる上は……コレを……こうしてやる!!」
「うわあああっ! 何をする! 目が目が、あああ……!!!」
奴の本体、もとい、メガネを掴んで塔のある方向とは逆方向に放り投げてやった! 最終手段だ。コイツを無力化するにはこうするのが一番だ。ティンロンは慌ててメガネを拾いに行った。これでしばらくは戻ってこれないだろう。ていうか、最初からこうしとけば良かったのかもしれない。
「今だ! 私達はその隙を見て、塔へ突き進むのだ!!」
なんか不穏な声が聞こえてきた! 一難去ってまた一難! 今度はどっかで見たことのある変装をした二人組だった。コイツラはコイツラで変装とかして隠れようともオーラダダ漏れでバレバレなのである……。