第234話 ココから先は進入禁止です!
「ちょい、ちょい! オッサン、ちょっと待って、ドサクサに紛れて行こうとしてもダメだからね!」
魔王の塔が出現し、街は大パニックとなっていた。エドから聞いた過去に同じ塔が現れた時と同じ現象が発生したのである。なにかに取り憑かれれたように塔へ挑もうとする者が絶えなかったのである。
クルセイダーズや街の衛兵だけでは数が足りないので俺ら勇者一行も警備に駆り出されていた。クルセイダーズ本部からの増援が来るまでの時間稼ぎをしなければいけないのだ。それから作戦が本格的に始動する運びになっているのだ。
「まあまあ、ニイチャン、硬えこと言うなって! ちょいとはしご酒しに行くだけだから! ヒック!」
「酒くせえな、もう! はしご酒って、アレは酒場とかじゃないから! ダンジョンだから! ダンジョンだから、酔っ払ったノリで行ったら確実に死ぬから!」
塔に押しかけるのは老若男女様々だった。大抵は財宝狙いの一攫千金目指してまっしぐらという連中が多いが、時々、今目の前にいるようなわけのわからん層も紛れてくる。
酒を飲みに行くと言って聞かない酔っ払い、バーゲンセールが開催されるからと猪突猛進で突っ込んでくるオバサン、「ソコに山があるから」とか言いながら真顔で通り抜けようとする冒険家とか、挙げだしたらキリがない! ていうか、あの冒険家、やたら顔が濃かったな。太眉毛が印象的なあの顔が忘れられない。何者だったんだろう?
「お? なんなら、ニイチャンも付き合う? 一緒に飲も……ほうおぇぇぇぇっ!!」
「ギャー! 汚えな、もう! そんな状態で行こうとするな! 家でおとなしく寝てろ! そして、翌日、二日酔いの悪夢にうなされるがいいわ!」
ゲロ吐きオヤジを一蹴して追い返した。近くにいた衛兵二人に抱えられ連行されていくのだった。ホッとしたのも束の間、またまた何やらおかしな連中が近づきつつあるのを発見してしまった。なんか山賊風のオッサンの集団である。
「また、オッサンかよ……。」
「へっへー、アニキ、楽しみですなあ!」
「おうよ! 世界スイーツフェスティバル! 俺ももういい歳だってのに、ワクワクがとまらないんだぜ!」
一体、何を吹き込まれたのやら? スイーツとかどうこう言っている。さっきの酔っぱらい同様、財宝ではなく、あの塔が店であるかのように誘導されてきたようだな。例の紙切れはチラシのような内容になっていたのかもしれない。しかし、このオッサン共、ドコかで見覚えがある。どこで会ったんあだっけ? ただの勘違いかもしれないが……。
「ちょい待ち! あんたら、スイーツ堪能しに行くつもりなのかもしれないが、アレは魔王の罠! 行ったら、あんたらがスイーツとして人食いゴリラに食われてしまうぜ?」
「ああ? ゴリラ? 食われる? 何言ってんだ? だったら尚更、早く行かねえと俺達のスイーツがなくなっちまうじゃないか! 邪魔すんな!」
「アニキの妨害するとはいい根性してんな、ニイチャンよ?」
俺に対してもふてぶてしくメンチきってくるチンピラ共! 俺を勇者として認識していない。そう、ココに押し寄せる連中は全て、俺を勇者として見ていない。おそらく羊の魔王の魔力でそうなっている可能性が高い。見境なく一直線に向かってくるので魅了の魔法とか催眠術のように正しく物が見えていないのだろう。恐ろしい魔力だな。
「この方を誰かと心得る?」
「いや、知らないんだけど? スイーツ山賊団の方ですかね?」
「ああ? てめえ、知らないのかよ! アニキはスイーツ界きっての大物、スイーツ親分やぞ!!」
「あ、ああ? あの?」
ああ、なんか思い出した! 聖女様のところへ向かう直前に立ち寄った店で会ったオッサンだ。ミスターXこと、プリメーラのライバルを自称していた連中のうちの一人だったと思う。というか、なんでこんな所にいるんだろう?
「わかったかぁ! わかったら、今までの非礼をお詫びしろ! 菓子折りの一つくらい出せや、コラ!」
「はあ、すんません。さすがにそんな物は持ち合わせてないんで。お詫びにコレでもどうぞ。」
この仕事に駆り出される前にパーティー会場にあった食べ物をポケットに入れておいたのだ。「滋養強壮、栄養補給に、パーシィモン!」、でおなじみの例の木の実があったので持ってきた。切らずにまるごとで置かれていたので痛みにくかろうと思って選んだものだった。しかし、こんなしょうもないことで手放すことになろうとは。とほほ……。
「パーシィモンじゃねえか! 気が利いてんな。菓子折りじゃないが、コレだったら許してやらなくもない。どれ、早速いただくとするか……って、ぎょわああああっ!!!!」
「アニキぃ!?」
「どうしたんでっか!? お気を確かにぃ!?」
「なんじゃこりゃああっ!? 渋パーシィモンやないかぁ!?」
「ああ、まさかの大当たりっすね? オメデトウゴザイマス!」
おやおや、まさかの当たりを引いてしまっていたらしい。食べなくてよかった。実はパーシィモンって干して熟成させなくても甘い品種が存在するらしい。パーティーに出されていた物はそれだったようだが、まれに渋い味の物が紛れ込んでしまうらしい。品種改良したとはいえ、その性質はどうしても出てしまうらしいので仕方のないことである。
「おい、コラ、どうしてくれるんだ? 甘い物楽しむ前に口の中が激渋になってもうたやないか!」
「いやいや、甘いものには渋いお茶が丁度いいって言いますよね? つまりはそういうことっす。これに懲りたら、さっさとお引取りくだせぇ。」
「誰がそんなうまいこと言えと! 渋いって言っても、コレは明らかに不快な渋さだろうが!」
「いやいや、不快な渋みも丁寧に仕込んで干しておけば絶品の甘さになるんですよ? わかったら、家に帰っておとなしく寝て、心の熟成をしてくだせぇ。そうすれば、あらびっくり、ゲキシブ、いぶし銀親分の完成ですよ?」
「……え、何? それ本当か? じゃ、じゃあ、今回は見逃してやらァ。行くぞお前ら! 家帰って、おとなしくおねんねだ!」
「へ、へい!」
「話の意味はよくわからんが、とにかくスゴイ理屈だぁ!」
なんか、俺の巧みな話術による説得(?)に応じてスイーツ親分一味はこの場を去っていった。ふう、なんとか一仕事終えたような充実感があるな! この調子で行こう。人々の安全を守るために頑張らねばならんのだ。……と思っていたら、またしても怪しい人影が接近しているのを確認した!