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第227話 タニシがさらわれました……。


「決死の思いで繰り出した攻撃でしたが、犬の魔王には及びませんでした。それでこのザマとなってしまいました……。」



 ジムの話や連れ帰ってきたジェイの話によれば、ジムが魔王との戦いに破れた後、ジェイが現場に駆けつけたのだという。魔王は増援が現れたのを見て、タニシを人質にしてその場を立ち去ったのだという。彼らは戦闘を継続することを好ましく思っていなかったのでは、とジェイは回顧している。魔王のサイドに非戦闘員がいたようなので、戦いに巻き込む事を避ける意味もあったみたいだ。



「魔王と戦って生きていただけでも、十分さ。生きていれば次に繋ぐことが出来る。君はとてもいい経験をしたんだ。さらに強くなることは出来る。」



 傷ついたジムは魔王に勝てなかったことを悔やんでいる。例え相手が誰だろうと全力を尽くした上での敗北は辛いものだし、無力感に苛まれてしまう。でもエドが言うように生きていたからこそ、こうやって俺達と対面できているんだろうし、次に活かすことが出来る。



「申し訳ありません、勇者さん。タニシさんを救出出来ませんでした。」


「でも、生きてるんだろ? 怪我とかしてたんなら心配だけど、そうじゃなければ大丈夫さ。お前が気に病む必要なんてないさ。」


「確かにそうですが……。相手は魔王です。何があってもおかしくはありません。なので、心配が尽きません……。」


「魔王……確かに魔王かもしれないが、アイツならまだそこまでおかしい目に合わせるとは思えないから、大丈夫だと思う。」


「大丈夫……? その根拠は一体?」



 俺の発言に周囲の人々の空気が変化した。何かおかしなことを言ったような空気感。俺を訝しむような感じ? 当然だな。魔王という存在は普通、忌むべき存在であり、人類の敵だ。それを信じるというような趣旨の発言をしてしまったのだ。


 そう思われても仕方がない。だが、俺の直感はみんなとは違う。特にあの犬の魔王は俺も実際に対峙し、交戦し、何度か言葉のやり取りもした。その時の経験からあの魔王だけは何か特別な異質感を感じたからこそ、信じるという結論に至った。



「アイツはなんか……違うような気がしたんだよなぁ。他の魔王ともやり合った俺だから言えることなんだけど、その言動、行動に邪悪さは感じられなかった。」


「僕からしたら初めて対面した魔族だったので、そういう印象を感じる余裕はありませんでした。でも、邪悪さよりも戦いを楽しんでいるような様子ではありました。敢えて僕に対して手加減をしてるような……。」



 やはり、俺が感じたことと同じだったようだ。戦いを楽しみ、相手が格下と分かれば手加減をするというような感じだった。他の、虎とか蛇、羊みたいにその行動全てに悪意を感じられるような魔王たちとは性質が正反対だった。他には猿の魔王、アイツはとにかく戦闘狂という印象があった。性質的には犬の魔王に近いものがあったように思う。



「とにかく、アイツならタニシには悪い事はしないと思う。そう思うことにする。アイツも追われることを望んでいないだろうし、追えば逆に悪い結果を引き起こしそうな気がする。それにタニシにしたって、本当に嫌だったら逃げ出すだろうし。俺はとりあえず二人を信じてみようと思う。」


「君らしいな。仲間だけではなく、敵対している相手をも信用する。私も君のことは信じているから、それに従うとしよう。ジム、君も今回のことで気に病むことは止めておくように。今後は次をどうすべきかを考えることに時間を使うのだ。」


「わかりました。イグレス隊長。」



 一度は空気がおかしくなりはしたが、俺が正直に本心を話したことで、みんなは理解を示してくれたようだ。特にエドは俺の信念を汲んでくれたようだ。そろそろ付き合いも長くなってきたので、互いに性格を熟知しているからこそ出来る行動だろう。



「犬の魔王は立ち去る前にこう言っていました。またすぐにとある場所で出会うことになるだろう、と。そして、タンブル・ウィルダネスという名を名乗っていました。以前会った時に名乗り忘れていたから伝えておいてほしいとも言っていました。」


「タンブルっていう名前なのか……。それにすぐに出会うことになる? どういうことだ、それ? 挑戦状ってわけでもなさそうだし……。」


「我々がこの先に直面する問題について事前に察知しているのかもしれんな。そして、彼らもその問題に向き合うつもりでいると。ということは他の魔王が何か行動を起こそうとしていることを示しているのかもしれん。」


「なるほど。警戒しとけよ、ってことか。」



 それが本当に魔王の事を指しているのかは定かではないが、何かしら俺らが対処しなければいけない問題が発生するのだろう。魔王と言えば、聖歌隊に忍び込んでいた鳥の魔王の幹部、俺がタンブルと初めて会った時に現れた羊の魔王の私兵オニオンズ、挙げ始めたらキリがない。


 最近、姿を見せていない蛇の魔王かもしれないし、まだ出くわしていない未知の魔王たちかもしれない。魔王だけとも限らないな。処刑隊もいるし、法王庁の動きも気になる。何が俺達に牙を剥いて襲いかかってくるのかわからない。覚悟はしておいたほうが良さそうだ。



「その前にやるべきことを何かわすれてない?」



 俺達が神妙な顔で次に来る驚異について議論していたら、ジュリアが満面の笑みで茶々を入れてきた。笑ってはいるが、目が笑っていない! これは完全にキレている! なんとかしないとみんなエライ目に遭わされるぞ!



「す、すまない。君たち夫婦を祝うために集っているということを失念していた!」


「いやだって、怪我人もいたんだからしょうがないだろ。大切なことなんだから!!」


「そうかもしれないけど、敵の言ってたあることないことをゴニョゴニョ言っててもしょうがないでしょうが! せっかくのパーティーを台無しにするなぁ!!」



 しょうがない。気分を切り替えないと。これからのことは後で考えるとして、今は楽しむことを優先しよう。ジュリアに暴れられても困るし……。

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