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第221話 お先真っ暗過ぎて未来が見えないぃ!!


「兄上、こんなヒドい姿になってしまって……。」



 シャンリンちゃんは残骸を抱きしめ、涙を浮かべていた。お兄さん…が無残な姿になってしまって、悲痛な表情をしている。予測不能の事態……鬼が現れたことによって、一番の被害を受けてしまったように見える。



「ここなんて、もう取り返しが付かないくらい崩壊してるアルよ。」



 崩壊…なんて表現を使っているけれど、欠けてしまっているという表現の方が正しいのかな…? 彼女がなれていないこちらの言語で表現しているから、齟齬があるのかも知れない。ある意味、そこが壊れてしまうと致命的な感じがするのは間違いないけど。



「もうグシャグシャね。折れてしまってるアル! ここから再生するのは難しそうアルね。いっそのこと取り替えたほうが良いかもしれないアルな。」


「ちょっと! 妹よ……? それは言い過ぎではないのか? そんなこと言われたらお兄ちゃんは哀しいぞ!」



 確かに再生が不可能に見えるほど壊れてしまっている。折れているところもある。ある程度の傷なら魔術で治せるところもあるけれど、絶望的かもしれない。お兄さんは大げさだとは言うけれど、本人からしたら絶望的な現実を直視したくないのかもしれない。



「もうここまで壊れてしまったんだ。諦めな。お前の兄はもう助からない。」


「いやアル! 兄上をこのまま放っておいたら、いくらなんでもかわいそうアル! なんとかして再生してあげた方が良いに決まってるアルよ!!」


「そんなビンボー臭いこと言ってたらダメ。新しいの買ってあげた方がいいから。一応、君ら兄弟はセレブなんだからね。」


「フェイの薄情者! 物には思い入れというものが存在してるアルよ!!」


「ちょ!? お前ら、オレのこと、なんか物扱いしてない?」



 物扱い? 買い換える? なんだか不穏なワードが飛び出してきたわね? フェイロンさんが話に加わって、内容が一層混迷を極めたわ! なんだかよろしくない表現を使われてティンロン君もおかしな事に抗議している。私も話の前提を間違って解釈していたかもしれない。この話題に上がっているのは……、



「それは……オレの眼鏡だ! 確かに腕の良い職人に作ってもらった一級品だが、持ち主のオレを差し置いて心配するのはおかしいんじゃないかぁ!!」


「おかしくないアル。兄上の本体はある意味、コレね!」


「あああ!? やっぱりそんな認識ぃ!? オレは眼鏡の付属品じゃないんだぞぉ!!」


「え? 付属品でしょ? 例えるならその他大勢、みたいな?」


「兄上の成分のおよそ90%は眼鏡で構成されているアルね。ほとんど体は眼鏡の装飾品、いや眼鏡の台座にすぎないアル。」


「うわぁぁぁぁぁっ!? オレは眼鏡なんぞに存在感が負けていたのかぁぁっ!!!!」



 ……ヒドい。ティンロン君は眼鏡以下の存在として身内に認識されていたのね……。確かに身なりを無難にまとめていて、無難に目立たない、ある意味真面目な装いが引き起こした悲劇なのかもしれない。報われていないわね……。そんなかわいそうな彼の肩に手を置き同情しようとしている人がいた。



「お前、なんか可哀そうなヤツだな!」


「そんな目で見るなぁ! 貴様みたいなゴミに同情される筋合いはないわぁ! 余計に惨めになるじゃないかぁ!!」



 ロアったら、完全に彼をからかっているわね。二人の関係性からしたら仕返しのつもりなのかもしれないけれど……。私もあまり人のことは言えないかもしれない。ロアとティンロン君の関係は私とヘイゼルの関係によく似ているから……。



「本当にゴミあるよ。コレはもう使い物にならないアルな。」


「捨ててらっしゃい。ちゃんとこの街の指定に従って廃棄しないと、罰金取られるかもしれないからね。」



 ティンロン君の大切なシンボルが捨てられようとしている。先程も言及されていたけれど、眼鏡の命ともいえるレンズが割れて欠けているし、残っている部分も大きくヒビが入っている。フレームもグシャグシャで折れてしまっている。とはいえ、彼そのものであると認定していたものを捨てるだなんて、それはちょっとヒドイんじゃ……。



「お前らぁ! オレを無視して眼鏡のことばっかり語るなぁ!!」


「あ〜、こっちは生ゴミだな。ちゃんと指定日に捨てないと、野良猫、カラスに荒らされるから気をつけないとね。」


「フェイ! いい加減にしろ! お前、絶対に父上に言いつけて追放してもらうからなぁ!!」


「さーて、あの爺が負け犬の話なんか聞くかなぁ? 若の方が勘当されちゃうんじゃないの?」


「ちくしょー!!!!」



 あのお父様なら厳しい処分を下しかねないわね……。ロアに勝つまでは梁山泊の門をくぐるのは難しそう。もし彼が見放されたら、私達のパーティーで面倒を見てあげないといけないかもしれない。社会勉強にはなるだろうし、ミヤコちゃんが気になっているみたいだから、そのまま帰らない方が彼のためになると思う。



「晴れて、俺と同じ立場になるからいいじゃないか。仲良くやろうぜ、若様!!」


「くそぅ!? ゴミと同じ立場に格下げなどまっぴらだ! 訴えてやる!!」


「訴えるって、誰に? 宗家に訴えたら、お前、間違いなく死刑を宣告されるぞ?」


「うわぁぁぁぁっ!? お先真っ暗過ぎて未来が見えないぃぃぃ!!」


「うん、まあ、眼鏡新しいの作ったら見えるようになるんじゃない?」


「誰がうまいこと言えと!!」



 眼鏡よりも先に傷を直したほうが良いんじゃないかしら? 血は止まっているみたいだけれど、折れたり取れたりしているんだから痛そうに見える。メイちゃんに早く合流しないといけないわね。ファルさんが彼女たちのトラブルを止めに行ってくれたみたいだけれど……。

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