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第218話 一念岩をも通す。


「馬鹿めが! オレ相手に油断をするから、その様な目にあうのだ!」


「……。」



 自分たち自身を囮にして、落月鳳旋を当てることに成功した! 鬼の背中には妖刀が突き刺さっている。刃も、根本までとはいかないがかなり深く食い込んでいる。この刺さり方なら何らかの臓器を傷付けているに違いない。普通だったらこれは致命傷なレベルのはず。



「死んだ……のかな?」


「死なないはずがない! 刃は深く食い込み、刀自体も並のものではない! 伝説の妖刀、しかもアレは相手の血を吸い尽くすまで抜けはしないだろう! それが妖刀の妖力というものだ!!」



 鬼はピクリとも動かない。目をカッと見開いたままで微動だにしない。俺達の剣も離そうとしないため、生きているのか死んでいるのかわからない。大打撃を与えたのだろうが、これで死ぬとは思えない。


 妖刀が徐々に殺す方向へ働いてくれるのならいいが、何か引っかかる。鬼に妖刀なんて効くんだろうか? 呪いで悪魔を殺す、みたいなもんだ。同じ様な邪悪な属性が効くんだろうか?



「この男の命は風前の灯! 妖刀にじっくり血を吸いつくされて……、」


(バギャッ!!!!)



 ティンロンが余裕を見せつけていた所へ、鉄拳が飛んできた! それは顔面を真正面から捉え、大きくめり込んでから、奴の体を後方に大きく吹き飛ばした! 鬼は生きていたのだ! 俺自身も身の危険を感じ、剣をその場に残して、離れようとした。



(ガンッ!!!)



 その最中で蹴りが俺に放たれた! とっさに義手で防ぐも、その衝撃は凄まじく大きく吹き飛ばされる結果になった。途中で受け身を取ったものの、そのままゴロゴロと転がされた上でようやく止まった。



「い、生き……ゲフッ! ガボッ!!」



 ティンロンは死にはしなかったものの、更に顔面が崩れた。前歯も両方折れ、崩壊した鼻からは大量の血が出ている。当然口からもだ。



「我はこの様なことでは死なぬ。当然、妖刀など効きもせぬわ! これしきの妖力が我に通ずるとでも思うたか! 怨霊など取るに足らぬ。我はそれをも凌駕する、悪鬼羅刹ぞ!!」



 鬼は肩の関節をありえない方向に曲げ、背中へと腕を回した。その流れで如何にも普通のことのように背中の妖刀を引き抜いてみせた。効かないだけじゃなくて、背中に突き刺さったものを自分で抜くだなんて誰が想像できるだろう? 底の知れない恐ろしさに俺は身震いした。



「見せてやろう。我の闇の闘気を! 妖刀など我の前ではただの段平にすぎぬわ!」



 手にした妖刀から暗黒の闘気が黒い炎のように燃え広がった! 吹き出すその勢いに負け、妖しい美しさを持った妖刀はまたたく間に醜く朽ち果て錆びついた刀のようになってしまった!



「で、伝説の妖刀が!? なんということを……!?」


「このような物に頼っておるから、うぬは強くなれぬのだ。」


(ガシャン!!!!)



 鬼はボロボロになった妖刀をティンロンの足元に放り投げる。地面に落ちると同時に無残にも砕け散る結果になった。ティンロンはそれをあたふたと拾い上げようとするが持ち上げただけでも崩れてしまう。妖刀は完全に崩壊してしまったのだ。伝説の武器というにはあまりにも無残な最後を遂げることになった。



「対して、うぬの武器は壊れぬな。闘気を込めようとしても、力が篭もらぬ。拳では凹ませるのがやっとだ。この剣は明らかに異形の品よ。まるで生きているかのような鼓動も感じる。」


「そりゃそうよ。それは俺の体の一部になったんだからな。そう簡単には壊れない!」



 壊すのを諦めた鬼は俺の剣をこちらに投げてよこした。闘気の力では壊せず、物理的に破壊をするしかないということなのだろう。現にさっきは義手を壊されたし、”絶”の真髄を見せつけられた時は剣が少し窪んだ。


 とはいえ、義手は再生したし、剣もいつの間にか元に戻っている。義手はあくまで付属品だから強度に劣るみたいだが、剣は更に頑強に出来ている。専用の勇者の武具は伝承の上では壊れないはずなのだが、”絶”の真髄には影響を受ける。おそらく八刃も効くだろう。それでも完全に破壊できないのは、歴代勇者の加護の影響下にあるからなのかもしれない。



「うぬら渾身の策も我を倒すには至らず、刀覇は茫然自失。残るはうぬのみ。結局、また、振り出しに戻ることとなったな。」


「だけどまだ諦めるつもりはないぜ! この命尽きるまで戦い続けるつもりだ!」


「よく心が折れぬものだ。勝てる望みなどありはせぬのに。」


「それでも俺は戦い続ける! 俺は勇者だからな!」


「肉体を破壊するよりも、うぬは心を壊さねば倒せぬのかもしれぬな。その心、打ち砕いてみせようぞ!」



 鬼はまたたく間に間合いを詰め、俺に向かって振り上げた拳を打ち付けようとした。それが俺に到達する寸前で異変が起きた! 鬼の拳が突然裂けたのだ! 何もしていないのに拳の方から裂けた!



「うぐ!? な、何事ぞ!?」



 拳がまっぷたつに裂け、そこから次第に亀裂は腕にまで到達し、肘のところまでが断裂する結果になった。なにもしていない…なにもしていないが、一つ思い当たる事がある!



「何だ!? うぬは我に何をしたというのだ!?」


「俺の渾身の一撃が届いていたみたいだな。防がれはしたが、しっかり”浸透”したみたいだ。」



 天破奥義、”波紋震倒”! 俺は破竹撃を繰り出したときに無意識に発動させていたようだ。俺の執念は波紋となって浸透し、破竹撃の威力を相手に伝えていたんだ! 「一念岩をも通す」とはよく言ったものだ。正にそれと同じ!

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