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第216話 乾坤圏とかではないから!


「ムウウッ!? 我としたことが不覚を取った! 無為の一撃がこの様な事になろうとは!」



 ティンロンと揉めた流れでいらん一言を言われたことをきっかけに、怒りが鬼へと飛び火した。わけもわからず、頭に血が上った状態で考えなしに放った一撃。それは確実に鬼の体を捉え、確実な一撃を与える結果になった。あれだけ当てることも繰り出す事も難しかったというのに何気ない一撃が返って成功するとは……。



「何をしたんだ、貴様は!? 今の技は我が流派に存在しない物だぞ!?」


「今のは……勇者の一撃でもあったし、八刃でもあったような? どちらでもなかったような気がするし……?」


「グムウ!? 傷が再生しないだと!? 転生魄命(てんしょうばくめい)の力が妨げられている?」



 さっきの一撃は鬼の胴体を斜めに走る刀傷を作った。そこからは赤黒い血が流れ出している。傷口は見た目からして深そうだが、出血量は少ない。多分、魔王達と同じで闇の力により再生できるんだろうけど、それがうまく機能していないと本人が言っている。


 転生魄命(てんしょうばくめい)とはおそらくリザレクションの能力に相当するものなのだろう。もしかしたら勇者の光の闘気がそれを妨げているんだろう。ここは流派梁山泊の技にこだわるより、勇者の技に頼った方がいいのかもしれない。



「これなら行けるか? なあ、見ただろ? なんとかすればアイツを撃退出来るかもしれない。俺達が手を組めばなんとかなるかもしれないんだぞ?」


「貴様の手など……。それにオレは西国の剣術など使えない。貴様はオレを盾にして鬼を倒そうとでも思っているのであろう! そのような手に乗るものか!」



 相変わらず、こんな状況でもコイツは頑なだ。偶然にも俺が活路への光明を示して見せたというのに手を貸すつもりはないらしい。俺を疑い、逃げおおせるための作に利用するつもりだとおもっているらしい。


 でもさ、相手は鬼。そんな浅はかな策が通用する相手ではないはず。それをわからせるためにはどうすればいいのだろう?



「じゃあ、俺が囮になる! お前はその間に助けを呼びに行くんだ。レンファさんや戟覇なりをたすけに呼ぶといい。流石に五覇が何人もいれば、例え鬼でも劣勢を強いられるはずだ!」


「だ、だれが、奴らの助けなど! 五覇が助けを頼ったとあれば、一生梁山泊の笑いものになるであろうが!」


「じゃあ、もういい! お前は黙ってそこで見ていろ!」


「うぬが向かい来るか? よかろう。先程よりは面構えがよくなった。少しは我を楽しませることができよう!」



 ちょうど義手の再生もほぼ終わったところだ。これでなんとか戦えるようになったので今度は果敢に攻める! さっきは防戦一方で成すがままにされて、そのまま負けた。一度命を失うも、かろうじて生き残ることが出来た。このチャンスは無駄に出来ない! ここは絶対に生き延びてエルに、仲間の皆に会いに行くんだ!



「うぬの段平の謎が解けたわ! その段平、自らの闘気を刃とし、自らの意で変幻自在に間合いを操る武器なのであろう。その姿、正に”乾坤圏(けんこんけん)”を思い起こさせよるわ!」


「ムッ!? たしかにあの伝説の武器に似ている!? どの様な形をしているのかは知らないが、貴様のようなゴミが何故、そんな大仰な物を!!」


「違う違う! コレは勇者の剣だ! 伝説の魔人が持ってたヤツと違うから!!」



 多分二人が言っているのは、魔人ナタクが用いたといわれる伝説の武具の事だろう。遠い昔の伝説のため、確かな記録は残っていないが、変幻自在の仙術武具だったと言われる。


 仙人が作り、ナタクに与えたとされるが、形状は伝承や地域、文献によって異なっている。剣だったり刀だったり矛だったり、はたまた拳に付ける手甲だったり、結構曖昧であるのは有名だ。


 でも投げたら手元に戻ってくるという性質は共通しているので、その正体は”円月輪(チャクラム)”という説が有力ではあるらしい。南の国で用いられるカミソリの付いた投げ輪みたいな武器のことである。そう考えると、俺のとは違うと思う。



「うぬが魔人ナタクの後継となるか? それもまた一興! 我も”焰帝真魔(えんていしんま)”の再来を自負しておるから、血が滾りおるわ!」


「そんな大げさなこと言ったって、これはただの喧嘩だ。それ以前に俺は勇者だっつうの!!」



 鬼は伝説のなんたらかんたら言い出してはいるが、そんな事知ったこっちゃない! 俺は魔人ナタクとは程遠い存在だし、勇者としての使命を持っている! いや、それですらふさわしくないのかもしれない。俺はただ、生き延びて大切な人に会うことを願う、ちっぽけな冒険者風情に過ぎないんだ!



「うおおおあっ!!!」


「ぐっ!? うぬも我と戦うつもりか! よかろう、二人同時でもうぬらを退けてみせようぞ!!」


「おっ!? やっと協力してくれる気になったか?」


「うるさい! だまれ! 貴様が魔人ナタクと称されたことを認めたくないだけだ! 俺も加勢すればそれは帳消しになる! 真のナタクの再来はオレぞ!!」



 嫉妬心に火が付いたらしい。なんだ最初からそういう風に煽ればよかったのか? これでなんとかなるかもしれない! さっきより鬼の余裕はなくなってきたように見える。胸の傷も相変わらず塞がろとしていないし。



「よかろう、我も更に潜在能力を発揮するまでだ! 存分に”極凄”の技の数々を繰り出せるというもの!!」



 なにか鬼にヘンなスイッチが入ってみたいだ! この後に及んで、まだ奥の手、本気を出す余地が残っているらしい! コイツの実力は底なしなのか……?

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