第213話 よっ! ションベン大将!!
「ああ、多分、アンタに俺は殺された。でも死ねなかったみたいだな? アンタが言ってた、”活”の真髄ってヤツが俺を死なせなかったのかもな?」
絶命に至った傷はともかく、全身至る所に怪我を負っていたはず? 鬼からの攻撃もあるはずだが、俺が斬り刻んだ結果出来た傷も存在していたはず! だが、それらは塞がっているようにも見える!
「たぶんこれ、”活”の真髄だけじゃ説明できないな。同時に”勇気の共有”が発動したからだろうな。エルの能力、”リザレクション”が発動して傷を塞いじゃったんだろうよ。ギリ死ななかったのは多分それが原因。」
「むう!? 西国の英雄の加護か!? 我は侮っていた! ぬかったわ!!」
勇者だと? ”りざれくしょん”だと? 意味がわからない! アイツはどんな汚い手を使ったんだ? きっと自らの死を偽装する妖術でも使ったのだろう。ヤツの仲間には何人か妖術師がいるという情報がある。
「よっ! お互い、ボロボロになっちまったな? そっちはなんかとんでもないヨゴレみたいな感じになっちまってるけど、大丈夫か?」
「き、貴様なんぞに心配される筋合いはない! 余計なマネをしおって!!」
「ええ〜? 死ぬよりはマシじゃない? 痛いんだぞ? お前は痛い目にあってないだろ? ションベン大将?」
「言うなぁ!!」
屈辱的だ! よりにもよってこんなゴミに失禁した事を指摘されようとは! 殺してやる! 絶対、この後殺してやるからな! 今度こそ、生き返れないように念入りに斬り刻んでやる!
「あのさ、あんま気乗りしないけど、俺と手を組まない? 鬼からは逃げられないだろうし、見逃してはくれないだろうから。一人では無理でも、二人がかりならなんとかなるかも、と思ってさ?」
俺を侮辱しておきながら、手を組もう、だと? そんなこと出来るはずが……。更なる屈辱を味合わせようというのか? 許さないぞ、ゴミ如きの分際で!
「うぬらが共同戦線を張ると申すか? よかろう。そろそろ、うぬらとの戯れにも飽きてきた所よ。後は死するのみ。せいぜい足掻くことだ。」
「ほら、鬼さんは逃してくれるつもりなんてないぜ? だったら手を組んで目にもの見せてやろうぜ。」
ゴミは俺に刀を手渡しながら、オレに手を組むようしつこく催促してきた。刀を受け取りはしたものの視線を敢えて奴から外し、提案を拒否する意思を示した。こんな男の手を借りるなど愚の骨頂。一生の恥となり、梁山泊の笑いものとなるだろう。オレは刀覇だ! 格下に助けられる筋合いはない!
「断る! 貴様の手を借りるなど、五覇の恥となろう。オレは恥をかくくらいなら、誇り高く戦ってから死ぬ!」
「あ、そう? 誇り高くって、鼻折れて、歯抜けになって、ションベン漏らして死ぬことなんか?」
「だから! 貴様はオレをドコまでコケにしたら気が済むのだ! オレはこのまま潔く戦って死ぬ!」
「もういいだろ! いい加減にしろよ! こんな時まで虚勢張るな! そんな無駄死にするんなら、もう既に恥ずかしい目にあったんだからいっそのこと、生き延びてみればいいだろ!」
「オレに説教をするとは何様のつもりだ! 腹の立つ男だ! オレに恥を強要するとは、オレは貴様と違って尊い生まれなのだ! 貴様のようなゴミとは違うのだ!」
(パーーーン!!!!)
その時、大きな音と共に視界が横に向いた。顔を叩かれた? ゴミに? オレの心のうちの怒りは更に燃え上がり、奴へと向き直り様に顔を叩き返そうとした! しかし、それはあっけなく防がれた。半壊した義手によって防がれたのだ! ついさっきまで壊れて無くなっていたはずでは? オレが不可解に感じていると、再び顔を叩かれる結果になった!
(パーーーン!!!!)
「ぶったな、貴様!? しかも二度も! このオレを誰だと思ってるんだ!」
「誰だと、って、お前ただプライド高いだけの、先見知らずで見栄っ張りで、ヘタレで小便垂れのくせにカッコつけて死のうとしている、大馬鹿野郎じゃないか!」
「好き勝手言いやがって! 貴様、貴様という奴は! オレがどれだけ惨めなのかわかるまい!」
「うるさい! 俺に対して陰湿ないじめ繰り返して、惨めな状態にしてほくそ笑んでたクセに! 俺はしょっちゅう惨めな思いしてたんだよ! お前らのせいでな! わかったか、コノヤロウ!!」
「知るか! 貴様のことなんか知るか! オレの苦しみ、立場なんか分かってたまるか!」
(ガッ!!)
オレは怒りを爆発させ、ゴミに掴みかかった。相手も負けじと掴みかかり、俺達は取っ組み合いをする姿勢になってしまった。押したり押されたり、最早戦いなどという次元ではなく、ただの餓鬼の喧嘩にまで成り下がってしまった。
「哀れな事よ。見るに耐えぬ。低次元な精神性など生きるに値せぬわ。」
「やかましいわ、ボケ! てめえの方こそ戦い、戦いばっかりで生きがいなんてなんにもない、薄っぺら野郎のクセに!」
「我を愚弄するか? 修羅は戦いに身を投じてこそ本望なり!」
「うるさい、ボケ! お前が一番低次元なんだよぉ!!」
ゴミはオレをぶん投げ、剣を手に取り鬼に対して一閃した! 鬼は避けようとすらせずにまともにその一撃を喰らっていた。とはいえ、傷を付けられたわけでもない。だが、確かに一瞬だけ奴の剣には光の刃が閃いたように見えた……。