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第208話 圧倒的な力


「うぬも分かったであろう。この世の理をも捻じ曲げる。その上でこれから死合に臨むのだ!」



 鬼は複雑な印を手足を駆使して結び始めた。これは体内の気を練り上げるための錬成法だ。由来は故郷の国のはるか南、天を突くほどの山脈の先にある国の行者が、悟りを開くために行うといわれる修練が元になっていると言われる。


 鬼がその動作の一つ一つを組み終える毎に次第に暗黒の闘気が兄妹になっていくのが手に取るようにわかった。これはおそらくアクセレイションと同質の技だ!



「うぬの思い人、あの娘も形は違うがこの技を体得しておったな。だが、精度は我ら蚩尤一族の技の方が上。これを羅刹剛体術と呼ぶ。己の身を悪鬼羅刹に近づけるための錬成法なり!」



 ただ目の前に現れた時ですらその殺気に圧倒され絶望感を感じたというのに、それが更に強大になった。大きさで例えるなら最初は頭二つ分くらい大きく感じ、今は俺の身の丈を遥かに超える巨人の様に感じる。ある意味、死という概念その物がそこにある、という例えが正しいと言えるかもしれない。



「刮目せよ! 悪鬼羅刹と化した我の力をとくと見よ! そして、うぬの生への執念を存分に発揮するのだ!!」



 言葉と共に鬼の気の迸りが衝撃波となって俺を襲う! まるでそれは嵐の時の木々をなぎ倒しそうなほどの暴風となって俺を吹き飛ばした。それを追う形で殺気の塊が迫って来る!



「くっ!? なんだこの黒い塊は!?」



 おそらく鬼が放った物、気の塊。暗黒の闘気を練り上げ敵を破壊するための技だと察した。これを避けるのは吹き飛ばされている関係上不可能だし、防いだりしたら逆に致命傷を負いかねない。だったら、これをぶった切るしか無い!



「霽月八刃!!」


(バスン!!)



 一閃すると同時に暗黒球に一条の光の筋が発生し、そこから真っ二つになった。暗黒球が消滅したと思った瞬間、今度は鬼自身が俺に向かって急激に間合いを詰めてきていた!



「やはりうぬの奥義は本質のみを体現した別物よ! 必殺の奥義としての技術の粋を極めるには至っておらぬな!」



「うぐっ!?」



 跳び足刀蹴り、脚の側面を刃に見立てた蹴り技が俺の腹部に叩き込まれる。鬼はその場で向きを反転させつつ、続けざまに反対側の足で上段回し蹴りを放ってきた。これも防御が間に合わず側頭部を大きく揺すられる結果になった。



「ぐあっ!?」


「うぬの”活”も我の羅刹剛体術に反応出来ぬか? 所詮、うぬは痴れ者に過ぎぬのか!」



 鬼の怒りの奔流が嵐の様な攻撃となって噴出している! 腹部への突き、太ももへの蹴り、顎への突き上げ。その全てが必殺級の威力を以て俺にぶつけられている。相手の攻撃を意識したと同時に技を喰らっている。


 まるで反応が追いつかない。感知できても俺の身体能力、技の技術では防ぎようがない。これは以前にも経験したことがある絶望的な状況だ。あの時、宗家と相対した時と同じだ。



「うぬがどうなろうと我は手を止めぬ。ただひたすらにうぬを絶命させるまで続けるのみ!」



 怒涛の連続攻撃で俺の体は徐々に壊されていった。傷も打撲とかだけでは済まず、骨にヒビ、もしくは折れていたりするかもしれない。次第に全身の感覚が痛みに覆い尽くされ、戦う気力が削がれていっているのがわかった。



「最早、戦う気すら失せたか! ならばうぬに死を与えてやろう! 最後に我が奥義の一端を見せてやろう!」



 立っているのさえやっとの状況で相手の位置を確かめようと、意識が遠のきそうになっている視界で見据えるが、鬼の姿がない。どこへ……と思ったときにはもう遅かった。鬼が俺の懐に飛び込み、身をかがめて、何らかの技のセットアップに入っていた! ここで俺は自分の死を感じ取った。



「極凄龍旺覇!!!」



 鬼の拳が突き上げられ俺は真上に吹き飛ばされた。同時に何かの破片が飛び散っていることに気づく。……義手だ! 認識するよりも先に体が動いていた。とっさに義手で防いだが、その行為も無駄に終わり、無残にも破壊されてしまったのだ。義手を突き破った鬼の拳はそのまま俺の顎に命中し、俺を空高く吹き飛ばす結果になったのだ。



「ぐぼぁ!?」



 落下し、地面に叩きつけられる。口を突くままに断末魔の叫びを上げる。俺は死んだんだ。もう、体の感覚さえ無くなっている。声もこれ以上は発することは出来ないだろう。



「虫の息か。とはいえ一撃必殺の技故に食らった瞬間に絶命していてもおかしくはない。だが、まだ生きておる。義手で技の勢いを削がれたからかもしれぬ。」



 死んだ……と思ったのに、まだ生きている。俺はまた死に損ねた。とっさに右腕が動き、即死を免れたものの、これからどうするんだ? 勝ち目はないというのに? 奥義の本質が自分を守ったのかもしれないが、中途半端に生き残っても勝たないと意味がない。相手を倒さないことには生き抜くことが出来ない。俺に生地獄を味あわせて何の意味があるんだ?



「”窮奇”がかつて見出した男とはいえ、奥義の半分しか体現できぬのであれば、我の追い求めた相対すべき者には程遠い。所詮、見果てぬ夢は無為に等しいということか。」



 鬼は倒れた俺の傍らに立ち、拳を振り上げている。止めを差し損ねた相手に絶命させるための攻撃を入れようとしている。今度こそ本当に死ねそうだ。



「さらば! 我が宿敵になり得なかった者よ!」



 ドズンという衝撃と共に視界が真っ白になった。これが”死”というやつか? 何か切り替わるのかと思ったら地続き……。俺は本当に死んだのだろうか?

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