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第207話 ”活”の奥義、”絶”の奥義。


「パイフゥを殺めたのは我だ。この事実が誰も知らなかったわけではあるまい。我であるが故に、報復も成されず、彼奴の死も顧みられる事はなかった。我を恐れ、彼奴も疎んじられておったからであろう。」


「……。」



 師父の死の真実を知ったが、怒りの感情は湧いてこなかった。むしろ、悲しみだけが胸いっぱいに溢れそうになった。剣の腕は誰よりも認められ、おそれられていたとはいえ、師父は梁山泊で浮いている存在だったのは事実だ。


 師父の存在を疎ましく思い、弟子の俺も訝しい目で見られていた。多くの人間にとって、師父の死は好都合だったのだ。そう思うと、悲しみが、涙がとめどなく溢れてくる。師父の死は多くの人間に望まれていたのだ。



「何故、哭く? 彼奴に死を与えた我に憎しみを、怒りを向けよ。さすれば、うぬは更なる力を手にすることになろう。」


「なんだよ、それ? 俺を殺しに来たんじゃないの?」


「八刃を極めたからには我と雌雄を決する運命にある。だが、我らの波動に反転させれば、我に成り代わり、修羅道を突き進むことも出来よう。」


「師父がかつて辿った道を、俺にも歩ませようっていうのか?」


「我らが互いに歩む道は表裏一体。うぬにもその可能性がある。その足掛かりを得る機会を与えてやっているのだ。」



 技が似ている一方、精神性は全くの正反対。逆にそれをひっくり返せば、修羅道、暗黒道の世界にまっしぐらだと鬼は言いたいのだろう。俺にも可能性はあると? 皮肉なもんだな。


 味方であるはずの梁山泊には全く期待されていなかったのに、その敵対勢力である蚩尤一族には期待されてしまうなんてな……。いっつもそうだ。望んでいることと全く真逆の結果になる。師父の死、破門、鬼からの勧誘。なんでいっつもこうなるんだろう?



「俺が断ると言ったら?」


「うぬと蚩尤を決する事となろう。もっとも、うぬが修羅道を突き進むと決めたとしても、それは変わらぬであろう。修羅道とはそういう物だ。うぬが我から逃れるという道はない。退路はなし。うぬの身の振り方を決するがよい。」


「ヒドいな。どっちに進んでも、俺に明日はないのか。」


「明日があるかどうかは、己に聞いてみよ。我に勝てれば、明日はある。」


「でも、負けてくれる気は無いんだろう?」


「答えるまでもない。」


「……。」



 逃げ場もなく難儀な選択を迫られ、どちらを選んでも戦いは避けられない。しかも、どちらでもほぼ確実に殺される。理不尽だ。あまりにも理不尽だった。でも、ある意味、俺の人生そのものを表しているような感じがする。進んでも地獄、逃げても地獄。いや、逃げるという選択はそもそも潰されていることのほうが多いような気がする。



「己の歩むべき道を選ぶべし!」


「……だが断る。」


「断るなどという選択肢は無い。選ぶべし!」


「断る!」


「選ぶべし!!」


「断る!!」


「選ぶべし!!!」


「断る!!!」


「選ぶべし!!!!」


「断るーっ!!!!!!!!!!」


(バギャン!!!)



 怒りに任せて、鬼を殴った! ティンロンを殴った時と同じく、義手に備わった謎の伸縮機構で殴る結果になった。でも、さっきとは違い鬼はしっかりと左の手の平で義手の拳を掴み防御している。



「天の邪鬼なことよ! 言動とは裏腹に戦いの意思を示すとはな! やはり、うぬは我の見込んだ通り、戦の勘を持ちうる者なり!」



 殺気! 鋭く刺すような殺気が俺に迫る。それは鬼の右拳! 見れば、まもなく俺の腹部に命中するところだった。奇跡的に見えてはいるが、防御が間に合わない!



(ドゴッ!!!)



 鈍い痛みや衝撃と共に後ろに吹き飛ばされた。鬼からの攻撃をまともに腹部へ受けたはずだが……痛みが思ったより鈍い。気を失いかねない一撃だったはずだが、緩和されている。その理由はいつの間にか手元に戻っていた剣によって守られていたからだ。



「剣で防いだか。我とて必殺を狙ったのだがな。」


「知らない! いつの間にか手元にあったんだ!」


「世の理を凌駕する能力。これが八刃の”活”の力よ。通常では有り得ぬ事象が起きうる。生への渇望が引き寄せた事象なり。」



 八刃を極めた事による事象? 今までの軌跡はただの偶然とも解釈できるが、これは流石に偶然とはいえない。たまたまとか偶然の結果で手元に剣が戻ってくるはずがない。俺が無意識に引き寄せていたのか? 今までの不思議な現象も……?



「うぬらの奥義だけではないぞ。我らの”凄旺”の奥義も”絶”の事象を引き起こす。」


(ミシッ!!!)



 剣から何か軋むような音が聞こえた。見ると剣の峰の部分に殴りつけた跡が出来ていた。見事に歪んでしまっている! 今まで滅多に壊れたことなんてなかったのに。羊の魔王に壊された時以来だ。



「”絶”の奥義は、一度食いついた獣の牙の如く、相手が絶命するまで食い込み続ける。一度狙ったからには確実にその命を刈り取るものぞ!」



 恐ろしい技だ。たとえ防がれ、躱されたとしても、世の理を無視して何らかのダメージを与えるだなんて……。八刃が生への執念なら、あっちは殺意の執念が引き起こす事象なのだろう。何が何でも生き残るか、何が何でも相手を殺すのか、という違い。あまりにも強い執念が世の中の法則を捻じ曲げるというのか?

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