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第204話 処刑隊の男


「アンタの方こそ、誰なんだ? よその土地でやっている自覚はあるが、俺らの流派の今後に対して首を突っ込むの止めてくれないかな?」



 フェイロンさんは戦うことを取りやめ、身を翻して私達から距離を取るように飛び退いた。少しふてくされたようにして大男に愚痴をこぼし始めた。



「ケッ、知ったことか! 俺達のシマで白昼堂々と俺の獲物を横取りしてんじゃねえよ!!」



 突然、私達の間に割って入ってきた大男。彼の狙いはわからないけれど、私は窮地を救われる形になった。でも身につけている物から判断すると、彼は明らかに処刑隊と呼ばれる人達に間違いないと思う。それに彼のかぎ爪の義手には見覚えがある……。



「獲物? まさかアンタ、その娘を取って食おうって言うんじゃないだろうな?」


「食う? ハッ、馬鹿言ってんじゃねえよ。ソイツは俺の処刑対象なんだ。それをお前は連れ帰ろうってんだろ? そんな事はさせん。」


「あらら、冗談も通じないとは。”食う”ってそっちの意味以外の事も含まれてるんだが? それに処刑ってことは首斬る前に色々とお楽しみがあるってもんでしょ? 特に女の場合は?」



 彼の言葉に私は身震いした。捕らえられて処刑されるということはそういう結末を迎える可能性はゼロではないということ。私はその可能性を頭のの片隅に置いていて考えようとすらしていなかった。過去の歴史を見てみても、処刑された女性の中には必要以上に辱められた上で絶命した人もいる。下手をしたら、自分だってそうなる可能性はある。



「俺はそんな趣味はない。部下たちはどうなのかは知らんがね。俺は仕事自体は生真面目にやる主義なんだ。」


「なぁんだ、つまんないの。じゃあ、カマホモの類かよ?」


「あぁ? テメエ、今なんて言った?」



 フェイロンさんの下世話なからかいに、処刑隊の男性はぶっきらぼうな口調ながらもそのようなことは決して行わないとハッキリ言った。どこか、その目には清廉さを感じさせるものがあった。


 皮肉にも私を処刑する事を目的としている人がそんなふうに見えてしまうなんて……。でも、その佇まいには何か戦士としての純粋さが感じられるような気がした。どうしてこんな人が処刑隊に……?



「アンタ、如何にも戦場以外に自分の居場所はないとか思ってるっしょ? 少しは戦闘以外の趣味くらい持っといたほうがいいよ? それが出来ずに戦狂いになって自滅していった奴なんていくらでも見てきたからね、俺は。」


「ケッ、余計なお世話だ。ある意味、もう手遅れなのさ。ドップリと戦にのめり込んじまって、それ以外の生き方は出来んのさ!」


(ギィィィィィン!!!!!)



 彼は言い終わるか終わらないかのタイミングで瞬時にフェイロンさんに対して斬り込んでいた! あの体格、あの大きさの剣で! 信じられない速さだった。私だったら反応が遅れて斬り伏せられていたかもしれない。


「防ぎやがったか。そんな、細っちい矛なんかで?」


「おいおい、いい加減にしてくれよ。コイツは俺の命を預けた相棒なんだぜ? 壊れちまったらどうするんだよ。」


「女好きの優男がいっちょ前に武器の心配してんのか? 俺ぁ、てっきりお前さんが女のケツにしか興味ねえかと思ったぜ?」


「お察しの通り、俺は女のケツにしか興味はない。だからこそ、この矛もおんなじ様に思ってる。この細く靭やかな体、うっとりするような妖艶な輝きを放つ刃。でもな、この相棒が最も輝くのは相手の返り血で赤く染まった時。そんときゃ、そこらの女じゃ敵わないほどの色気を放つのさ!」



 相手の、倍の質量を持つ大剣を弾き飛ばし、フェイロンさんは変幻自在の突きの攻勢を仕掛けた。その矛の姿はまるで蛇! 金属で出来た物だというのに複雑にしなって、その矛先を牙を剥いて食らいつく蛇のように猛然と襲いかかっている! あれは蛇というより多頭蛇(ヒュドラ)と呼んだ方が正しいかもしれない。それほど凄まじい勢いの攻撃だった。



「おいおい、勘弁してくれよ! そんなゴツい段平振り回して、俺の攻撃を躱してんじゃねえよ! その質量、重さで出来たら物理的におかしいだろうが!」



 フェイロンさんの猛攻を処刑隊の男は全ていなしている。あの巨大な剣で! しかもその場から軸足を動かさずに剣捌きだけで全て防ぎきっている! 一分の無駄な動作もなく、単純な動きだけでフェイロンさんの変幻自在の攻撃をものともしていない。この人は間違いなく凄腕の剣士なのは間違いない。



「ハン! こんなモンどうってことはない。それよりもテメエの矛はどうなってやがる? モノホンの行きた蛇、矛に偽装した魔法生物なんじゃねえだろうな?」


「俺がそんなインチキ臭い事すると思う? アンタのその義手じゃないんだから。それだってただのからくりとは思えないほど精巧に動いてるじゃない!」


「生憎、コイツは特注品なんでね。俺の新しい利き腕として一心同体になっているのさ。その辺はアンタの矛と同じだろうぜ!」



 二人の戦い、というよりフェイロンさんが一方的に攻撃しているので、普通に見れば彼のほうが押している。でもわずかずつだけど徐々にフェイロンさんの立ち位置が後退している…様に見える。


 あの大男は防御だけしている様に見えて、相手を追い詰めていっているのかもしれない。明らかに両方があまりにも高度な技術のせめぎ合いなため、私のような武術を学んで間もない人間からしたら、二人が手の届きそうにない高みにいるように思えた。



「ああ、もう! これじゃキリがねえ! ココで決めさせてもらうぜ! 飛龍覇奥義、南斗剝旋(なんとはくせん)!!!」



 フェイロンさんの矛が十字の閃光を纏いながら相手に向かう! その輝きは南十字を思わせるような軌跡を描いている。



「断頭台スペシャルNo.3、チェスト・ブレイカー!!!」



 大男の方は巨大な剣の質量を活かした猛進の突きだった! 正に首へ落とされる断頭台の刃のように恐ろしい殺意を秘めているかのような一撃だ!。



(ゴッギャァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!!!!!)



 金属の塊同士を勢い良くぶつけたようなすさまじい音が響き渡った! 両者が同時に乾坤一擲の奥義をぶつけ合った結果が引き起こした轟音。でも二人は武器を振り下ろした状態でどちらも怪我をしている様子はなかった。



(ビキッ!)

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