第203話 羅刹剛体術
「極凄螺旋豪!!」
私の覚悟、かの流派への対応策を持っていることを知り、鬼は私と正対し戦闘の意思を示した。その展開からどの様な技で来るのかと思いきや、自らの暗黒闘気を螺旋状に練り上げたエネルギー弾を撃ち出してきた! 正に黒い破壊衝動の塊! これをまともに喰らえば粉微塵に吹き飛び、暗黒に食い尽くされ無残な死に様を見せることになるだろう!
「凄まじい技だ! だが私は避けたり逃げたりしない! これを避ければ街に被害が及ぶからだ!」
「その意気や良し! だが生半可な対応では滅ぶのはうぬ自身よ! この一撃のみで死んでくれるな!」
鬼自身は私を試すために敢えてこの様な大技を放ったのだろう。この技を凌げないのであれば、自身と戦う資格なし、その様な意志が感じられる。対する私は上級魔族との戦闘を想定した技を用意している。それを使ってこの技を凌ぐつもりだ!
「シャイニング・スクリーン!!」
(パチィッ!!!)
「ほう? 光の闘気膜を生成したか。」
奴の言うように光の闘気で防御膜を生成し、暗黒の力を受け止める。上級魔族ともなれば破壊力の大きい闇属性魔術を多用してくる。7属性の精霊魔術とは異なり純粋な破壊のエネルギーのため、凌いで力を四散させても、元の元素へ還元されない。
断片となった後でもその場を汚染し続けるというたちの悪さを見せ続けるのが闇という属性なのだ。それを防ぐために光の力で浄化した上で威力を殺すのが最適解となる。この技もそういった用途に特化している。
(ギュワワッ!!)
「ムウ? 光の膜で我の暗黒闘気を包み込むというのか?」
「サークル・エンヴェロップド!! 円で点を包み込む!!」
全方位から明かりを当てれば、影は発生しない。その原理を利用した技だ! 闇の力が光に弱いのは、その姿を光に覆い隠され力が減衰してしまうからだ。念入りに光の膜で包み込めば浄化しつつ無効化することが出来る。それが私のとっておきの技の全貌だ!
「これはたまげた。その様な発想で暗黒闘気を抑え込むとは。純粋な暗黒闘気の技であることが返って欠点となりうるとは思わなんだわ!」
「貴公なら、その体術のみで私と五分以上に渡り合えるのだろう? 私はそう仕向けるために敢えてあの技を披露した! あの男、パイロンと戦うために用意した技の数々を使うためにな!!」
「ぬかしおるわ!!」
鬼は私に向かいつつ跳躍し、飛び蹴りを浴びせようとしてきた! 私は寸前で躱し、お返しの一閃を放つ! しかしそれをものともせず、相手は剣を両の手で挟み込み受け止める。その状態で相手は剣を捕らえられ動けない私に回し蹴りを放ってきた!
「せいっ!!」
「はっ、その程度の攻撃なら想定済みだ! 喰らえシャイニング・ブラインド!!」
胴を払うような回し蹴りを跳躍して躱し、その勢いを利用して相手の顔面に両足を蹴り入れる! 相手はたまらず、剣を離し、両の腕でガードして難を逃れた。これでは技の名のブラインドの効果は得られなかった。惜しい! 本来なら顔面に蹴りが入り、意識と視界が真っ白になる様を表した技名なのだが。
「むうう! 剣だけに囚われぬ闘法を使うとは! 流石にパイロンに辛酸を舐めさせられただけのことはある。貪欲に研鑽した所作は認めてやらんでもない。」
「最大の褒め言葉だな。ジェイを相手に模擬戦を繰り広げた甲斐があったというもの。」
「だが、あくまで通常の闘法では、という前提の上での話だ。わが流派の奥義の数々は凌ぐ事は出来ぬであろうな。」
その時、鬼は奇怪な動きをその場で始めた。腕、脚、全身を使って自らの戦意を鼓舞するような複雑な印をいくつか結んでいった。まるで今までは軽い準備運動だった事を示しているかのような変貌ぶりだった。ただでさえ強かった殺気が更に濃厚なものへと変貌したのだ。これはまるで……アクセレイションそのものではないか!
「羅刹剛体術。我ら蚩尤一族は暗黒闘気によって、その身体能力を倍化する事が出来るのだ。あの梁山泊へ堕ちし者共が外法として切り捨てた技術の最たるものの一つよ。」
「その源流たる貴公らはその術を受け継いでいると?」
「左様。それ故、人としての限界を超える事は敵わず、技を極めることなど出来ぬのだ。我らは常に悪鬼羅刹を目指し、冥府魔道の修羅道を突き進み高みを目指しておるのだ!」
私は瞬時に防御体勢をとった。その一瞬で体を貫くような殺気を感じたからだ。だがそれは正解だった。またたく間に鬼が瞬時に間合いを詰め、私の眼前に迫っていたからだ! しかし、直感的にそれさえ遅かったのだと悟った。鬼は低い前傾姿勢から既に技のセットアップに入っていたのだ!
「極凄龍旺覇!!!」
気付いたときには既に私の体は宙を舞っていた! 顎を突き上げる強烈な打撃を叩き込まれ、凄まじい膂力で上空へと打ち上げられたのだ! 拳の力だけでここまでの威力を叩き出すとは……。
(ドシャァァァァァァッ!!!!)
「骨身に沁みるであろう? これが奥義の極み。極凄の技の真髄なり!!」
地面に叩きつけられた私は薄れかけた意識を落とさぬよう己を鼓舞させようとするが、体が鉛のように重く感じられ、その抵抗も無駄に終わった。鬼の足音がその場から遠のいていく気配を感じながら、そのまま意識がブラックアウトした……。