第200話 絶対映える《バエル》から!!
「見てもわかる通り、私は異端審問会の人間です。本来の職務とは外れた仕事にはなりますが、こんな街中で揉めるのはおやめなさい。」
「あぁん? 誰に向かって口聞いてんだ、ゴルァ!」
「やめて、プリメーラさん! もう口調が盗賊とか山賊みたいになってるよ!」
「なんだぁ? アンタ、ウチを誰だと思って生意気ぬかしてんだ、あぁ?」
「ダメです、お嬢さん! 地元のチンピラみたいな事を言っても、僕らはよそ者なんですよ!」
突然現れた異端審問会の少女。プリメーラさんとミヤコさんが街中での喧嘩を止めるためにやってきたみたい。注意されても仕方のないことだけれど、何故こんな所に異端審問会の人がいるんだろう? 時折、街で街の風紀を正すために抜き打ちで見回りをしたりしているという噂は聞いたことはあるけれど……。
「大体、何だ? そんな陰キャが着てそうな真っ黒コーデに、フードまで深く被って顔隠しやがって! 顔見せろや、ゴルァ!」
「くっ!? 何をするのですか!?」
(……バッ!!)
プリメーラさんは強引に少女のフードを外して、彼女の顔を露わにさせた! 中からは私よりも少し若い、他の皆と同じくらいの年頃の少女の顔が顕になった。セミロングの茶色い髪に気品のある顔立ち。雰囲気は違うけど、少しエルちゃんに顔つきが似ているような……?
「うおーっ!? なんだこれ? どうせドブスだろうと思ったら、美少女が出てきたっ!?」
「ああーっ!? アンタはクソ妹じゃん!!」
「あなたはMrs.グランデの従妹のヘイゼルさんでは……?」
エルちゃんの従妹? 話には聞いていたけれど、私自身は会うのは初めてだと思う。前の学院での事件ではゴーレムの反乱に関与していたり、エルちゃんを襲撃したりしてきたとは聞いていたけれど、あの事件の後は行方不明になっていると聞いた。重要参考人としてクルセイダー内部では得てゃ遺書が出回っていたけど、異端審問会に所属していたなんて……。
「身元がバレてしまったのでしたら、仕方ありませんわ。偽勇者一味を探していたら、あなた達に出くわしたので、一言忠告を言っておきたかったの。」
「チュー告だぁ? やかましいわ! エルるんをネチネチ狙いやがって! 逆にアンタをとっちめて、処刑隊に送り返してやろうか?」
「粗野なあなたには用はありませんのよ。そちらの殿方とヒーラーの女性に用があるんですの。」
「僕に……ですか?」
「私……!?」
彼女は私とロッヒェンさんに用があると言う。一体何を? 確かに私達はそれぞれ所属は違うけれど、教団関係者という点は同じ。だから、私達に自覚を持って行動すべき、というような注意をしにきたのかしら?
「あなた方に忠告します。こんな粗野な二人と関わるのはお止めなさい。それがあなた達のためになりますわ。」
「そんな事を言われましても……。自分から関わろうと思って行動しているので後悔とかそういうのはありませんよ。」
「私は……プリメーラさんやミヤコさんは大切なお友達だから……。」
「おお! さすが〇〇子ちゃん! 我が心の友よ!!」
「あぁん? ウチの下僕に命令すんな! あっち行け! しっしっ!!」
関わるなと言われても対応に困っちゃう。確かにおかしいことはしているかもしれないけど、友達だから、離れたくない。どういう意味で言っているのかは知らないけれど……。
「特にあなた! あなたは貴族でしょう? そんな阿婆擦れの様な女と付き合っていると品格が落ちますよ。関わるべきではありませんわ。」
「だ、誰がアバズレか! それに、ウチと一緒にいたらヒンカクとかそんなモンよりも絶対映えるから! アンタみたいないつまでもネチネチしてるような女といるほうがおかしくなるに決まってる!」
「へぇ……? この方みたいに麗しい殿方を奴隷扱いするだなんて淑女の風上にもおけませんわ。」
「う、わわ!? ちょ、ちょっと!?」
「こ、コラ、なにしてる!?」
ヘイゼルさんは大胆にもロッヒェンさんの傍らから腕を組んで、自らの胸を押し当てるというような行為をした! これにはロッヒェンさんも赤面して大慌て! ミヤコさんもその行為に対して怒りを露わにしている!
「うわわ!? ダメですって! 僕にはお嬢さんという人がいるのでそんな事をされても困ります!」
「困る? でも体は正直ですね? 胸の高鳴りが最高潮に達してますわよ?」
「ぐぉあ! お前、困るとか言っといて、喜んでんじゃねーか! この浮気物め!!」
「うあわ!? そのようなことは……。た、た、助けて下さい!!」
「おお!! 略奪愛!! なんと大胆な!! 燃えてきたぞ!!」
「プリメーラさん……。」
ヘイゼルさんに色仕掛けをされ、赤面してしどろもどろになるロッヒェンさんに怒りを露わにするミヤコさん。それを見て何故か興奮するプリメーラさん。さっきよりも大変なトラブルが発生しているけど、どうしたらいいかわからない。どうしよう?
「よし! 決めた!」
「プリメーラさん? 何を?」
「今、私の心は決まった。ヘーゼルちゃんだっけ? あんたを私のパーティーに加わる権利を与える!!」
「は? あなた、何を言ってますの?」
「ん? だから私のパーティーの魔法使い兼お色気担当のね?」
突然のスカウト宣言が始まった! 何がプリメーラさんの心に刺さったのかはわからないけれど、どうしてこのタイミングで……? ヘイゼルさんの横恋慕にプリメーラさんのスカウト宣言。さらに大変なトラブルの予感がしてきた……。