第199話 てめえの頭はハッピーセットかよ!
「ふう! 食った! 食った!」
私はプリメーラさんの付き添いで一緒に飲食店へついて行った。私は何も食べなかっったけれど、彼女は旅の鬱憤を晴らすかのように信じられない量の料理を食べた。元々、メインのお客さんは男性で旅の疲れを癒やしたり、旅の前の腹ごしらえをするために訪れるようなお店で、男性顔負けの食べっぷりを披露した。
「あー、しかも得した! ただになっちゃったもんね!」
「なかなかそういうのはないからね。お店に感謝を忘れたらいけないよ?」
「わかってるって!」
その食べっぷりに感銘を受けた店長さんが食事代をサービスしてくれるという事態まで引き起こしちゃった。彼女を一目見ようとお店には多くの人が集まり大盛況になったからだと言っていたけど、なにか非常に申し訳ない事をしたみたいな気分。でもこんな現象が起きるのは、彼女が持っている転生のカリスマがないと出来ないことだと思う。
「あれ? ファル様と他二名がいなくなってない?」
「え? ああ、先にお買い物でもしに行ったんじゃない?」
「マジで? ファル様はともかくアイツらが巻き込んで同罪にしようと目論んだに違いない! ファル様を巻き込んだ罪は高く付くぞ➖!」
実はどこへ行ったかは知っている。プリメーラさんと一緒にお店に行ったのはファルさんが指示してくれたから。思念波で手短だったため、詳しいことはわからなかったけれど、危険が迫っているという事だった。
私達やタニちゃんを巻き込まないようにするため人の少ない所へ行くと、後から思念波が送られてきた。だから、今はここにはいない。でも何か争ったような痕跡がある。門の広場の前の地面が荒れている。強く踏ん張ったり、激しく動き回った様な跡が少し残っている。
「でも、目的地はみんな一緒だからまたすぐに合流できるよ。」
「まあ、そうだね。でも、ファル様以外は迷子になったまま戻ってこなくてもいいけど。」
「またまたそんな事を言って……。」
タニちゃんはやらしい行為を彼女にしたからそういう風に思われるのは仕方ないのかもしれないけれど、勇者さんに対してのリスペクトがあまりにも少なすぎる。一度は先輩として接することにはなったけれど、勇者さんはもう男性の姿に戻っている。それでも彼女の態度は今までどおり。彼を勇者様として見るのが照れくさいからなのかな?
「あああーーーっ!!??」
「どうしたの?」
「ファル様と他二名の変わりに嫌なヤツを見つけてしまった!!」
「嫌な人……?」
彼女の目線の先には派手な格好をした女の子がいた。虹色に輝く奇抜な色のショートボブの髪、あんな格好をした人は他に二人といない。エルちゃんの友達のミヤコさんだ! その側には赤いコートを着た少年…ロッヒェンさんもいた。
「なんでアイツがこんな所に!!」
「知っているの?」
「知っているも何も、アレは我が生涯の宿敵、ミヤコ・ヒーラジィーロだ!」
ああ! そういえば、彼女は前に話していた事を思い出した。生涯のライバルと認定した次世代のインフルエンサーを名乗る女の子がいたという話を。啓蒙活動を通して巡り合った二人は活動の場を舞台にディベート・バトルを繰り広げたのだそう。
そこで屈辱的な敗北を喫したのを切っ掛けに生涯を賭けて打倒する事を誓ったと聞かされた……。寝ているときも、「おのれ! ミヤコぉ〜!!」とか「ぎぎぎ! ミヤコ、許さんぜよ!」とか「ラララ! くやしい! 次は負けない!」みたいな寝言をしょっちゅう言っていた……。悪夢に見るほどトラウマになっているみたい。
「むっ!? アソコにアホがいるぞ!!」
「止めて下さい、お嬢さん《フロイライン》! 知らない人に対してそんな物言いは失礼ですよ。」
「アイツ、ウチの知ってるやつだもん。天下一の大アホ。あのゆーしゃに匹敵する逸材だよ?」
「ムキー!? こちらを捕捉した途端にアホ呼ばわりとは、慇懃無礼な女め〜!!」
「だってアホじゃん?」
「アホじゃないやい! 馬鹿だもん!」
「じゃあ、バカ発見!!」
「ムキー!?」
向こうもこちらの視線に気がついて、プリメーラさんを詰ってきた。生涯のライバルと認定していただけあって、互いに古くからの友達のようなやり取りをしている。ちょっと砕けすぎて、二人共、小さい男の子みたいなやり取りを繰り広げ始めている。
「なんでお前がここにいるんだぁ? さてはアレかお前、私が参加する予定のパーティーに乱入するつもりだな? きっと美味しいものを独り占めにして、私を餓死させようと企んでいるに違いない! そうだろう? きっとそうに決まっている!!」
「は? 何言ってんの? そっちの方こそ、無関係なくせに乱入しようと言うのか! ぽっちゃりちゃんを言いくるめて無理やり参加しようったって、そこは問屋が降ろさないからな!」
「ケチ! 恵まれない私に恵んでくれたっていいじゃない! ちょっとくらいお祭り騒ぎにさんかしたっていいじゃないか! 私はそういうにぎやかな場所にいないといけない義務があるのよ!! だって…アイドルなんだから!!」
「お前の脳内、ハッピーセットかよ! お前はせいぜい脳内に出来たお花畑で一生、楽しくキャッキャウフフしてるのがお似合いなんだよ!!」
「んなにぃ〜? 見た目がハッピーセットな奴に言われたかないやい! そんな派手に着飾らないと本性は地味地味な喪女のクセに!! お前の方こそリアルお花畑でお花摘んでるのがお似合いなんだよ!!」
「言ったな、コンチクショウ!!」
「ぐんぬーっ!!」
二人の口喧嘩はますますヒートアップ! ここで止めないと、大変な事になりそう。慌てて私はプリメーラさんを後ろから羽交い締めにしてミヤコさんから距離を取らせる。ロッヒェンさんも同じくミヤコさんの手を引いて落ち着かせようとしていた。
「あらあら、みっともない。女性にあるまじき非常識な行いですこと。」
「何!?」
「ああん? お前は何者だぁ?」
罵り合う二人の間に第三者が割り込んできた。ローブを着てフードを目深に被った女の子らしき人影。そのローブは真っ黒で特徴的な紋章が刺繍されている事に気がついた。私達クルセイダーズの剣十字の紋章の剣を鎌に置き換えたような印。この人は……異端審問会!?