第198話 彼には手を出させない!
「フェイロンさん! あなたという人は!!」
「おやおや、俺の居場所を嗅ぎつけてしまったか、お嬢さん!」
フェイロンさんとティンロン君を止める。昨日出会ってから二人の目的を聞かされ、それを阻止しなければならないと思った。今日の内にロアたちがこの街に到着する予定になっていたので説得しに行こうと思った矢先に、今朝、シャンリンちゃんが私達のいる宿に訪れた。
兄たち二人がロアを待ち構えるために出ていったと教えに来てくれた。私とシャンリンちゃん、ミヤコちゃんとグランツァ君、そして先生と三組に分かれて二人を探している内にファルさんを手に掛けようとしている場面に出くわした。
「行き先はわからないはずだというのに、見つかってしまったか。やはり俺と君は運命の赤い糸で結ばれているのではないかな?」
「そんなものを頼りにしていたわけではありません! 私はロアに危険が及ぶのを阻止するためにあなたを探していたんです!」
「でも、どうだろうね? すでにあの男は若によってなます切りにされてるかもよ? そのために妖刀、名刀を持ち出したんだからね。ただじゃあ済まないよ?」
なにか特別な武器を? 昨日、グランツァ君との戦いで見せていた刀は何の変哲もない物だったと思うけど、本気で戦うための物を用意していたと? ただでさえ実力のある刀覇が相手だとロアでも無傷で勝つのは難しいかもしれない。
「そうなる前に私が止めに行きます。」
「男の勝負を邪魔するもんじゃないよ? そういうのは俺達、男には必要なことなんだ。ある意味、君という存在を賭けての戦いだ。」
「ティンロン君は私のために戦っているわけではないでしょう? あなたはその勝負に便乗して、私を誘惑しようとしているだけでは?」
「利用するなんてねぇ? 人聞きの悪い事を言っちゃあいけないよ? だってさあ、直接、俺が手を下したら勝敗見え見えで面白くないじゃない? ちょっとしたギャンブル感があったほうが面白いから、若の思う通りにさせてあげてるの。」
「けっ! そりゃどうかな? お前に俺の相棒は倒せない。弱そうだからと言って油断してたら、アンタの所の宗家みたいに負けちまうぞ。」
「はいはい、負け犬は黙ってなさいよ!」
「ぐうっ!?」
フェイロンさんは壁に磔状態にされているファルさんの腹部に拳を叩きつけていた。無防備な所への加虐だったため、彼はうめき声を上げた跡で気を失ってしまった。ただでさえ傷ついた相手にそのような事を……。私の心にはフェイロンさんへの怒りがどんどんこみ上げてきていた。
「どうしてそんなひどい事を!」
「負け犬が生意気な口利いたんだから、当然じゃない? 負けるってことは、ある意味、”権利”を失うってことなのよ? これはこの世の真理。権利欲しかったら、勝つしかないのさ。特に男の世界ではね?」
「そんな暴挙が許されるわけがありません!」
「許すも許さないも、この世の真理だからね。許さないっていうのも、天に仇なす行為だと思わないのかな? 俺はその方がおかしいと思うよ?」
私はリュクルゴスを展開し、体へと纏わせる。この前の改良で実装した双剣の機能で使うことを決めた。相手は戟覇。計り知れないほどの強敵だから、身を守りつつ戦う形態を選んだ。
「なんだい? 今度は自分が力ずくで止めるって? 止めときなよ。俺には絶対勝てないから。」
「やってみないとわかりませんよ! 私を甘く見ないほうが身のためです。」
「おお〜こわ! 怖い怖い! 体から黒い気が漂ってるよ? これじゃまるで蚩尤一族だ。」
最初からアクセレイション全開で攻める決意を固めた。こうでもしないと相手への牽制にならない。性格的に私を軽くあしらってロアの元へ向かうかもしれなかったから。そうなることだけは阻止したかった。ロア自身は負けるとは思わないけど、この人がいたら明らかに分が悪いというのもある。
「”虎痴翼進”!!」
相手の元へ翼の生えた虎の如く猛進し、相手を貫く戟術。アクセレイションで超人的な加速を加えた上で繰り出す! 相手からすれば、こちらは騎馬での突撃の様な勢いに見えるはず。これくらい全力で立ち向かわないと、相手を倒すことが出来ないと思ったからそうした!
「いいだろう! こちらも相手になる! ”虎痴翼進”!!」
相手も同じ技で応戦してきた。互いにぶつかり合い、すれ違いざまに攻撃を浴びせる。周囲に武器同士が打ち合う轟音が鳴り響いた。お互いに乗馬していないというのに、騎馬戦さながらの様相を呈していた。
「やるじゃない! まだ始めて一年も経ってないのにここまでやるとは! ますます、俺の弟子にしてみたくなった!」
相手は私を称賛しつつも、更に攻撃の勢いを強めて私と打ち合った。互いに助走をつけて激突し、すれ違いざまに激しく打ち合う! 何合も打ち合う毎にその強さを増していっている。その力は相手の方が力が強く、次第に押される展開へと移行していった。
「なかなかここまで俺と打ち合える相手なんていないよ? 普通なら一合目で首が飛んだり、土手っ腹に大穴が空いてるからね。」
戦う前から変わらず涼し気な飄々とした口調で話しつつ、言葉とは対象的に思い一撃を入れてくる。私の腕には次第にダメージが蓄積し、痺れが強くなってきている。これ以上、同じ事を続けていればいずれ瓦解してしまう!
「どう? 俺がどれだけ強いかわかったろう? おとなしく手を上げて負けを認めることをおすすめ…するよ!」
「うっ!?」
今までで一番重い一撃が来た! 私は思わず足を止め踏ん張ろうとしたけど、それでも相手の勢いを止めることは出来ずに、片膝をついてようやく抑えることが出来た。でもこの体勢ではいつまでも持たない。押し込まれれば、そのまま押し倒されてしまう!
「もう終わりだ。ここから立て直そうったって無理だよ? 俺がそうさせないから……、」
(ズゥン!!!!)
私とフェイロンさんの間に何か金属の板のようなものが差し入れられた! よく見ると、これは……剣? 通常ありえないサイズの鉄塊みたいな大型の剣だった!
「いけねえなぁ。俺の獲物を横取りするたぁ、いい度胸だ! よそ者は引っ込んでな!」
剣を持つ手を見ると、それは巨大なかぎ爪! 何か巨大な機械仕掛けの腕だった。その持ち主は巨人のような長身で筋骨隆々とした男性だった。身につけた鎧には見たことのある紋章が付いていた。鎌が交差した十字形……それは処刑隊と呼ばれる人がつけているシンボルマークそのものだった……。