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第197話 曰く付きの妖刀と名刀


「クソ! 貴様ごときに二刀流を解禁せねばならぬとは! 抜かせたからには五体満足で帰れると思うなよ!!」



 ただでさえ凌ぐのが困難だったティンロンの攻撃。それが今から二刀流に切り替えると言うのだ。額に冷や汗が浮かぶのがわかった。これから先は命の保証はない。ちょっとでも気を抜けば、それは間違いなく死を意味する。



「この二振りの刀はただの刀ではないぞ。正当な謂れのある名刀だ。名はそれぞれ”麗姫(れいき)”、”毛菖(もうしょう)”という。」


「なんだって?」


「所詮、ゴミだな。この名前を聞いて何も浮かばなったと見える。どちらも古代史上で謳われる絶世の美女の名だ。」



 もうしょうという人は知らないが、”麗姫(れいき)”の名前は知っている。異民族の姫でとある王に一族を滅ぼされた挙句、妻として娶られることとなった悲劇の美女だったはず。


 夫である王の没後、国に対して政治的混乱をもたらし復讐を遂げる事に成功したが、後に捕らえられ処刑されたという。その後の時代にその美女の名にあやかって刀が作られたとかいう伝説が残っているが実在したなんて……。


 しかも二振り。加えて”復讐”というキーワードが持ち主の目的と一致しているのは偶然だろうか? いや、知っているからこそ曰く付きの武器を探し出してきたんだろう。



「この”麗姫(れいき)”は復讐の姫君の名にふさわしく、相手の血を吸うまでは鞘に収まらぬという曰くの付いた妖刀だ。」


「妖刀なのかよ、やっぱり……。」


「もう一振りは”沈魚落雁”の曰くが付く名刀だ。伝説の上では”毛菖(もうしょう)”は魚や鳥でさえも恥じらって姿を隠すほどの美貌を誇っていたとされている。この刀も同じ。ひとたび抜き放てば、その美しさ故、相手も見とれた隙に首を落とさるのだと、もっぱらの噂だ。それを俺は抜いたのだ。貴様の命など風前の灯に等しくなったも同然だ!」



 確かにどちらも伝説の美女の名を与えられているだけのことはある。まるで水で濡れているかのように、その輝きは見とれてしまいそうなほどに美しい。美術品としての価値も高そうな一品だ。


 双方、対象的なオーラを身に纏っているが、辛うじて躱せた理由はそこにあるような気がする。気配が濃く、ハッキリと認識できるんだ。俺からしたら逆に察知しやすい。


 剣自体もただならぬ気配を放っているのだから、余計に意識してしまうのだろう。それが俺にとっては不幸中の幸いだったのかもしれない。



「対して、貴様は何だ? それは剣か? 見たところ刃が潰れているではないか。剣とも言えぬ無様で粗末な武器よ。貴様そのものを体現しているではないか!」



 確かにこの剣には刃がない。おかしな武器だとは自分でも思う。戦いの道具だというのに、その本来の機能を持っていないんだから。なんとなく相手を倒したくない、殺したくないという逃げ腰の姿勢がこの剣を生み出してしまったのだろう。あちらの妖刀とは正反対の存在だ。



「貴様は剣術という物を舐めている! その様な槌矛の如き武器で剣術を行使しているのだからな! それに先程の蹴り! 剣術家にあるまじき行為だ! オレが剣術を続けていれば、あの様な無様な技など決して使ったりはせぬわ! 恥を知れぃ!!」



 ティンロンは再び樹大招風の体勢に入った! やつの動きは次第に加速していき、旋風を纏いながら、俺の首を狙って襲いかかって来る! 当然勢いも片方だけの時よりも増している。あれは恐ろしい竜巻、いや人の命を喰らい尽くすまで止まらない嵐そのものだ!



「ふはは! 成すすべもあるまい! もう貴様の命の灯火はかき消える寸前だ!!」


「うぐううっ!?」



 俺は必死に凌いだ。躱す、防ぐ、受け流す。あらゆる防御手段を以て、複雑に変化する連撃をやりすごそうとするが、徐々に防ぎきれずに体のあちこちに切り傷が増えていく!


 少々痛みを感じるが、そんな感覚さえも雑念に感じて、それを否定するかのように奮起する! 前々から特訓していた複数の敵や複数の武器を同時に使いこなす相手への対処法を試してみることにした。



「ぬ? 剣の持ち手を変えただと? 利き腕は右ではなかったのか?」


「利き腕の反対側でも剣を扱える様に訓練していたのさ! ちょっと勝手が違うから戦い方も変わるけどな!」


「こしゃくな! その無様な義手を盾代わりに使うなど!」



 俺の狙いはまさしくそれだ。義手を緊急の防御手段にするということ。金属製の義手故に盾代わりに使う運用を考えたのだ。ファルから言われたアイデアを形にしたのが切っ掛けだ。利き腕の反対側でも剣を振れるようにしておくこと、義手の持ち味を活かすことを主眼にして編み出した戦法である。



「ハッ! 無駄だ! そんな俄仕込みの戦法など、我が流派に通用するものか! 目にもの見せてくれる!」



 更に攻撃のペースが速くなり、義手と剣を併用した防御でも手一杯になってきた。徐々に凌ぎきれなくなった攻撃は傷をより一層深くし、俺の体はズタズタになる一方だった! このまま続けていれば、失血で命を落としてしまうだろう……。



「もう終わりにしてやる! 貴様はこれまでだ! ”麗姫れいき”よ、存分に奴の血を吸うがいい!!」



 一瞬、より重い攻撃が俺の側を通り過ぎた。この感じは嫌な予感がする! 相手が速すぎて手元が見えないが、おそらく落月鳳旋を放ったと見たほうがいい。警戒はするべきだが目の前の攻撃は先程と違い、容赦ない激しさ! これでは死角から飛んでくる刀を防ごうとすれば切り刻まれる。逆では確実に首を落とされる! 一体、どうすればいいんだ……?

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