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第191話 忌まわしき記憶。〜死線が見えた時〜


「これで十回か。あっという間だ。まだ全然本領すら発揮していないというのにだ。」



 もう十回……? 立っては倒れ、立っては倒れ、という流れを何回も繰り返しているだけで、回数すら禄に覚えていない。倒れる度に意識が飛ぶのだから、数えるという行為すら億劫になっていた。それがそのまま、自分の命の猶予時間を意味しているというのに。



「ここまで圧倒的とは思いませんでしたよ。」


「それだけ実力が違うってことだろうな。」


「むしろなんでここまで弱いのに、梁山泊にいるんだろうな?」



 なんで梁山泊にいるんだろうな……? それは自分も疑問だった。何一つとして成し遂げられていないというのに。積み重ねた所で修練の成果は薄く、技も稚拙で実戦レベルには程遠い。そんな状態で今の戦いに臨んでいるんだから、無様な結果になっているのだ。



「これではオレもつまらん。オレの方が制限をかけるとしよう。先程までは破竹撃しか使っておらぬのだからな、今後、十戦毎に技を切り替えるとしよう。それ以外の技は封印することとする。」


「名案ですな!」


「若様がここまでご慈悲を下さっているんだ。感謝しろよ!」



 ああ、そうだったのか。今までの一撃は破竹撃によるものだったのか。木剣とはいえ一撃で気を失わされていたのはあの技だったからか。とはいえ達人であれば、木剣でさえ大岩を割る程とされる技だ。手加減はしているのだろう。本気なら最初ので頭を割られて死んでいるはずだ。



「そうだな……次は落鳳波で行くとしよう。」


(ヒュオッ!!)



 急な風切り音と共に胸に何かが当たる感触がして、後ろに吹き飛ばされた! 決めた瞬間から相手は技を放ってきたのだ。大きく吹き飛ばされゴロゴロと転がされてしまった。



「なんだこの手応えの無さは! オレはただ軽く素振りをしただけだぞ?」


「わっはは!! ゴミだけにゴミクズみたいにふっ飛ばされてら!」



 本人は軽くというつもりだったようだが、技の衝撃は大したものだった。そのうえで軽く殴られたような感触しかなかったのだ。うまく調節して寸止めのような行為をしているのだろう。それだけでも相手の実力をうかがい知ることが出来る。俺なんて、同じ技を使っても、数歩先のロウソクの火を消すのがやっとだというのに……。



「今ので一本としておこうか? でなければ気絶するまで撃たねばならぬのだからな。」


「殺さずにというのも大変なものです。」


「若様にいらぬ労力をかけさせおって!」


「お前が弱すぎるからいけないんだぞ!」



 今ので、負けという判定になった。飛ばされて転がっただけだが、ダメだったようだ。まあ、技をまともに喰らって転倒している時点で、致命的なのだ。本当に実戦ならそのまま止めを刺されかねない状況なのだから納得するしかない。



「さあ、速く戻ってこい! あまり飛ばされたまま距離を空けたままにしていると即、敗北とみなすからな!」



 急いで元の場所に戻ろうとする。その間に次は足へ衝撃が走った。そのままその場に前のめりに転倒した。何かに蹴躓いたような……いや正確には足に攻撃を受けたのだ。倒れたところから、顔を上げて見てみると、ティンロンは剣を振りかぶった状態だった。今のは足を狙った落鳳波だったのだ!



「さあ、どうした! そのまま元に戻れないようなら、貴様の負けは確定してしまうぞ!」



 急かされ立ち上がると今度は逆側の足を狙われた。当然、再び転倒した。だが倒れたままではいられない! そのままそうしていれば死へとまっしぐらだ……。



――――その後、即、敗北の判定とはならなかったものの、十回転倒したため10本取られる形となった。続けて技の変更を行いつつも”百修百業”は続き、残り20回というところまで進んだ……。



「案外しぶといな……。八相の技、全てを使い切るところまで続いてしまったではないか!」


「ゴミのくせに何という体力だ!」


「若様が手加減しているとはいえ、何度も喰らっているくせに、何故だ!」



 自分でも不思議だった。体中に攻撃を受け、幾度となくも倒れ、気を失うことが何度もあった。だが、まだ立ち上がることが出来た。正直、勝てる望みなど何もないのに立ち上がってしまう。もう倒れてしまえば楽になれるというのに……。



「フン! もう剣を持つことさえ出来ていないではないか! 己の命をつなぐ剣を杖代わりにするとは、情けない奴め!」



 もう剣を構えることすら出来ていないらしい。言われて気付いた。そうしなければてんとうしてしまうからだ。もう戦うことなど考えていない。ただ立ち上がることだけを目的にしてしまっていた。



「これに持ち替えろ! 使う気がないのなら木剣で十分だ!」



 木剣を投げてよこされた。持ち替えるのも億劫だが、そうしなければこれを口実に何をされるかわからないからすぐに持ち替えた。そしてすぐにそれにもたれかかる。



「もうよい。いっそのこと、このまま止めを差してやろう! 正直、飽きた! ”百修百業”を完走するまでもない!」



 しびれを切らしたティンロンは俺に止めを刺すつもりらしい。一瞬で間合いを詰め、最後の一撃を浴びせようとしてきた。もうダメだ……そう思って身を固めても、いつまで待とうとその一撃は来なかった。なにかおかしい。相手が止まっている? いや、それだけじゃなく、取り巻きの連中も動きが止まっている。これは一体……?


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