第177話 通報しますよ?
「……?」
店で服を物色していた時、何か目線を感じた。もちろんお店だから人なんて自分以外に何人もいる。お店の人とかウチのように客として来ている人だっている。それとは違う層の人間! 売っている物を見ているというより、明らかにウチそのものを見ている視線!
「むっ!?」
視線の出所を探ってみたら……男がいた。以外にも歳は私と同じくらい。オッサンとかからジロジロ見られるのはよくあるけど、コレは珍しいパターンだ! でも、全然うれしくない! だってさあ、地味過ぎるんだもん。
「誰? ウチに何か用?」
「え!? あ、いや、用っていうか、何ていうか、ちょっと見とれてしまって……。」
無難な長さに切りそろえられた髪、割と質の良さそうな生地を使った衣服、そして、割と高級そうな眼鏡を付けている。身なりとかを見るといかにも育ちが良さそうな優良物件に見えるけど、全体的にダサい雰囲気が漂っているし、インテリを装っているけど、頭良さそうな感じがしない。
「オレ、賢そうだろ?」的な感じが受け付けない。顔はブサイクではないけど、驚くほど特徴がないので、印象に残らない。むしろ高そうな眼鏡の方が目立っている。言うならば眼鏡君! だってそれしか言いようがないんだもん!
「何? アンタ、痴漢とかそういう類? それだったら通報するよ?」
「な、な、な、何を言うんですか! 失敬な! あなたが素敵なお嬢さんだとお見受けしたからこそ、思わず足を止めて見入ってしまったんですよ!」
「あっそ! じゃあ、通報するか。ちょっと、衛兵さん、ココです!」
「うわあああっ!?」
冗談で言っただけなのに、めっちゃ慌ててる! 何コイツ、超ウケるんだけど! いかにもな立ち回りからも伝わってくる、ダサ男感! クールに受け流したんなら、お恵みで1ポイントくらいはくれてやっても良かったけど、これじゃあ、ねえ? マイナス100ポイントだわ、そのリアクション。ウチの攻略対象から速攻で外れたね。あのゆーしゃとか犬畜生と同程度の存在だな。ど底辺の弱男じゃん。
「話くらい聞いてくださいよ! オレの話を聞いてくれぇ!」
「あ〜、ハイハイ、そういうのは間に合ってるんで。ナンパとかそういうのは却下なんで。」
「ナンパじゃないっすよぉ! そんなチャラい事するわけないじゃないですか! オレ、こう見えても、結構、金持ちなんすよ!」
「あっそ。」
「目、くらい合わせてくれてもいいじゃないっすかぁ!」
あ〜、ヤダヤダ。ほんと、やんなっちゃう。なんなん、コイツ? 今、お前のやってる行為はナンパそのものじゃないか。見とれた女に道を聞くだけとかありえんだろ? これだから非モテは困るんだよなぁ。まともにダダでウチに声をかけれるなんて思うんじゃねえよ!
「ナンパじゃなかったら、何のためにウチに声かけたの? 言ってみろ?」
「いやあ、それはやっぱり、一緒にお茶でもいかがですか、とお誘いしたかったからですよ!」
「0点。」
「え? 何がですか? れーてん? そういうお店でもあるんですか?」
「違う。アンタの受け答えが、ってことだよ! ちなみに100点満点中でな!」
「落第、赤点まっしぐらじゃないですかぁ! 科挙で取ったら一勝の恥さらしなレベルの点数ぅ!?」
叩けば叩くほどボロがボロボロ出てきよる! コイツ、信じられないほどのダメ男だ! ウチを口説く資格がないどころか、近づくのも許されないレベル! さっさとこの店から離れよう。クソ、結構良さげな服とか売ってるのになぁ。こいつのせいで台無しだ!
「も、も、もし良かったら、この店でのお会計全部出しますから! いや、いっそのこと、この店買い取ってもいいですよ!」
「え? 金の力でなんとかなるとか思ってる? ダッサ!」
「それは誤解っすよ! オレなりの誠意なんすよ? それぐらいの財をなげうつ覚悟はあるっていうか……、」
「ていうか、そういう発想自体が非モテなんだよ!」
「それマジで傷つくんで止めてくださいぃ!? かわいい子に言われると破格のダメージになるんですよ!」
ウチがかわいいからディスりの威力が上がっているだと? なるほど、面白い。じゃあもっと致命的な、破壊力のある、痛恨でクリティカルな一言をくれてやろう!
「どうせ、アンタ、童❍なんだろ? 童❍だから、そんなダサくなるの。わかった?」
「ガァァァァァん!? ど、ど、ど、童❍ちゃうわぁ!!」
「図星じゃんか。」
「ごぶぇ!!!」
なんかキモい声出しながらぶっ倒れた。へん、弱男ってのは脆いもんだね。ちょっとした悪口で死にかけるなんて。ダサすぎ。イジる相手としては最適だけどな。
「誰ですか、この人は?」
「ああ、コイツ? ただの童❍だよ。」
「ただの? 見知らぬ人に対してそんなこと言わなくても……。」
「でも、コイツ、童❍のクセにナンパしようとしたからね。当然の報いよ!」
「な、ナンパ? それは聞き捨てなりませんね!」
「く、なんだ貴様は? その子の彼氏か、何かか?」
「え、えーと、なんというか、ボディガードみたいな存在です!」
「なにそれ? アンタはウチの下僕だろ!」
「げ、げ、下僕だとぉ! なんとうらやましい奴め!」
「それって、羨ましいんでしょうか……?」
アレ? なんかダウンしてたクソダサ眼鏡君がジュニアに対抗意識を燃やしている? まあいいや。こんなダサいやつ、ウチの下僕にかかれば一網打尽だろう。さっさとやっちまいな!