第176話 ”ボウケンシャー”いう人アルか?
「な、何か魔法でも使ったんだろ? 魔法ならそんなに連発は出来ないはずだ! 構わずやってしまえ!」
「うぉりゃー!!」
斧を持った人に変わって、ナタを持った人が女の子に遅いかかる! それでも、この子は落ち着いた様子で凌ごうとしていた。剣の切っ先を下に向けて姿勢を低くしている。この一連の動きも見覚えがある!
「戦技一❍八計が一つ、凰留撃!」
技の名前を聞いた時には既に男の人の体は空高く跳ね飛ばされていた! 構えの動作から一瞬にして技へと移行した。そのため、破竹撃の時と同じで私ですら目で追えなかったアクセレイションで感覚を拡張しないと捉えきれない程の速さ。この子はやっぱり只者じゃない!
「うぐおっ!!??」
(ドシャアッ!!!)
「な、なんだ!? 宙にふっ飛ばされた様に見えたが、俺の見間違いか?」
「あっしも似たような光景が見えやしたぜ!」
「兄貴、痛えよ、こええよ、助けてくれぇ!!」
私でさえ見えなかったのだから、その攻撃の対象となったこの人達も自分たちに起きた事を理解できていないみたいだった。挑みかかったはずが逆に吹き飛ばされ、痛い目を見ている。
痛い目に合わせたとはいえ、相手には一切、剣による手傷を負わせていない。高いところから落ちたときの傷以外は何もなかった。あの威力で峰打ち同然の行為を行っている。これは相当な技術がないと出来ない芸当だと思う。
「これでオジサン達は私に敵わないことがよく分かったアル。これ以上したら、無傷で済ませるれるか自信ないアルよ!」
「なんか生意気なこと言ってますぜ、兄貴!」
「ぐうむむ! こんな娘にこんなだいそれた芸当が出来るはずがない! 何かトリックがあるはずだ!」
あまりにも現実離れした出来事だったため、当事者たちは何か魔術でも使ったに違いないと思い始めている。少しは見える程度の手加減はしてあげた方が良かったのかもしれない。あまりにも女の子がずば抜けて強すぎるからねじれた結果を生み出してしまったのかもしれない。
「トリックとかより、俺のこと、もっと心配してくだせぇ! 痛くて、寂しくて死にそうっすよ!!」
怖そうな見た目で必死に怪我の痛みを訴えている。案外、繊細な人なのかもしれない。これだけアピールしていても、仲間の二人には無視されていた。ちょっと可愛そうになって来た……。
「こうなったら、アレを使わざるを得ないな!」
「兄貴!? まじっすか!? アレをお使いになるんで?」
「わけわからんトリックを使われたんじゃあ、伝家の宝刀を出さなきゃなるまいよ!」
「その前に、あっしの介抱をしてくだせぇ〜! 段々痛くなってきたっす! これ絶対アバラ的なものを何本か持ってかれてるッス! いや、マジで! マジで痛いから!」
追い詰められたので本気を出そうとしているスイーツ親分さん。その子分さんも必死に痛みをアピールしてるけど、まだ気付いてもらえない。なんだか女の子と子分さんのどっちを助けたらいいのかわからなくなってきた。
「スイーツ親分、秘技!!」
「ひぎぃぃぃぃっ!! あば、あば、アバラぐわぁぁぁっ!! ……痛い!」
「……スイーツ的現実逃避!! ……今日の3時のおやつは何かなぁ〜?」
(ダダダダダッ!!!!!)
「兄貴、待って、兄貴ぃ〜っ!!!」
「あば、あば、アバラ走りぃ〜っ!!!!」
親分さんは全力疾走で逃げていった……。その後を追って二人の子分さんも逃げていった。怪我してた人も何事もなかったかのように走って逃げていった。……やっぱり怪我をしたというのは嘘だったのかな……?
「どっかに行っちゃったアル。」
「あ、あの、あなたは大丈夫?」
大丈夫なはずだけど、なんとなくそんな言葉が出てきてしまった。とはいえ、外国に来て怖そうな人に絡まれたというのは大きなストレスになっているはず。ケアはしてあげた方がいいと思うけれど……。
「良かったアル! お姉さんを悪者から救ってあげたアルよ!」
「逆に助けに入ったつもりなんだけど……。あなたが追い返しちゃったけどね。」
「お気遣いありがとうアル! ……ん? お姉さん、なんか武器持ってるアルか? そんなの持ってたら危ないアルよ!」
「あはは……。実はこう見えて、私も武術の心得があるので……。」
「お姉さんも戦えるアルか? 人は見かけによらないアルね!」
まるで自分の仲間を見つけたみたいに嬉しそうにはしゃいでいる。そして、私の武器が気になったのか、色んな角度から観察している。確かに変わった武器なのは自覚しているけど、ジロジロ見られると恥ずかしい。
「なんか変わった武器アルな? どうなってるアル? どこで売ってるアルか?」
「売ってはいないかな? 拾い物というか戦利品というか?」
「西の国、こんなカッコいい物落ちてるアルか!? 私も拾ってみたいアル!」
「あの、普通には落ちてない物なのよ? 怖くて古い地下迷宮に行った時に手に入れた物だから……。」
「”だんじょん”いうやつアルか? もしかしてお姉さん、”ボウケンシャー”いう人アルか?」
女の子は興味津々に色々質問を投げかけてきた! 名前とか出身とかこちらも聞きたいことあるのに中々切り出せなかった。そんな状況でますます謎が深まるばかりだった……。