第175話 大人気なくない?
「待ちなさい! その女の子に危害を加えるのはいけないわ!」
「ああん? 誰だ、アンタは? 関係ないだろ!」
あまりにも女の子側には不利な状況に見えたから、仲裁に入ることにした。例えその子に日があったとしても、文化の違いが招いた誤解が原因かもしれない。放っておくと、力づくで場を収められてしまうかもしれなかったし。
「その子は明らかに外国の人。こちらの国の常識を知らなかっただけなのかもしれない。念の為、私が仲裁に入らせてもらうわ。」
「なんだ、このアマ? でしゃばりやがって!」
「でも、兄貴、この女、中々の上玉ですぜ!」
「おお、そうだな。飛んで火に入る夏の虫、ってか。コイツはダブルチャンスってことだな。」
何か目付きの悪い男たちは妙な算段をし始めている。私のこともついでに攫ってしまおうと考えているのかもしれない。困ったな。なんとかここは穏便に済ませて早く立ち去らないと……。
「一つ聞かせて。この子はあなた達に何をしたっていうの?」
「何って、コイツは兄貴の大切なモン、横取りしやがったんだぁ!!」
「え? だから、何を?」
「何をって、数量限定の貴重なアレを……、」
と言って指差したのは、食べ物を売る屋台だった。見てみると何か串に差したフルーツの様な物を売っている店だということがわかった。フルーツの表面を見ると何か光沢があり、何かが塗られているのは明らかだった。アレは何だろう?
「兄貴の大好物、パーシィモンの……フルーツ飴、最後の一個をそのガキがゲットしやがったんだぜぇ!!」
「飴……? ただのお菓子くらいで……?」
「ただの……じゃなぁいっ!! 貴重な限定品だぞ、コラァ! これのために何ヶ月待ったと思ってるんだぁ?」
「お菓子のために……? 何ヶ月……?」
なんだか、拍子抜けさせられた。トラブルの原因が屋台で売られているお菓子だなんて……。確かにパーシィモンは貴重かもしれない。あの食通で有名なサヨさんでさえ、死にものぐるいで手に入れようとするほど美味で、薬効成分も優れている高級食材。最初見たときはそこまで貴重なものだとは思わなかったけれど、後で店先等で見かけたときの法外な値段を見て心底驚いた。
とは言っても、お菓子くらいで怒るのはみっともないような……。しかも、女の子相手、わざわざ外国から来ているんだから、譲ってあげてもいいのでは、と思う。
「あの、大人気ない事をするのはどうかと思うわ。少しくらい許してあげたらいいんじゃない?」
「許せるか! あんな貴重品、次は何ヶ月後に入ってくるかわからんのやでぇ!」
「それに、兄貴が何者か知らんからそんな事言えるんだ! この方を誰かと心得る?」
「知らないんですけど……?」
え……? この人達、地元の有力者とかそういう人達なのかな? いやでも、山賊とか野盗とかみたいな集団のようにしか見えない。偏見で見るのはよくないことだと思うけど、とても荒いお仕事ばかりをしている方たちとしか思えない。力とか体力には自信のありそうな感じだしね?
「兄貴は……あの、”スイーツ親分”なんだぞ!! どうだ、恐れ入ったか!!」
「ぞ、存じないのだけれど……?」
「あああ!? この女、兄貴のこと知りやせんぜぇ!!」
「あの、スイーツ業界にあれほど名を轟かせた兄貴のことを知らないなんてぇ!! そんな事が許されるのかぁ!!」
怖そうな外見と違って、随分と可愛い異名をお持ちな方みたいね? 業界では有名な方なのかな? そういう話には疎いけど、私は知らないんだから仕方ない。いくら有名人と言われても、温かい対応は出来ないから、期待しないでほしいな……。
「チクショウ、こうなったら実力行使しかないな!」
「お前ら、やっちまいな!」
スイーツ親分さんの子分の方たちは斧とかナタを抜いて襲いかかってこようとしている! 私も手にしたリュクルゴスを構えて、迎え撃つ姿勢を取った。睨み合いに入ろうとしたその時、誰かが相手の前に立ち塞がり、守るような動きを見せた。
「あ、あなたは……!?」
「お姉さん、ココは私に任せてほしいアル!」
私の前に出てきたのは言いがかりをつけられていた東洋の女の子だった! しかも手には両刃の剣を持っていた。この子が戦うというの? 確かにその姿は様になっているけれど、相手とは体格差がありすぎて敵うようにはとても見えない。ここは止めないと彼女が返り討ちにあってしまう!
「なんでぇ? 嬢ちゃんが俺らとやり合おうってか? 冗談言わずに降参しな?」
「降参しないといけないのは、オジサン達の方アルよ!」
「んだとぉ? ふざけるのも大概に……、」
(キンッ!!!)
鋭い金属音が響いた。女の子が目にも止まらない程の速さで剣を一閃させた! 私ですらハッキリと目で追えなかった。もし、私が攻撃の対象だったら、今の攻撃は避けられなかったかもしれない!
(……ゴロン!!)
「あああ!? 俺の武器がぁ!?」
「あんな細っちい剣で斧を斬っただと!?」
「戦技一❍八計、破竹撃。その名の通り、まるで竹を割るみたいに何でもかんでも真っ二つにしてしまう技アル。次に真っ二つになるのはオジサン達アルよ!」
破竹撃! この女の子の口からありえない単語が飛び出した! しかも太刀筋からするとあの技のなのは間違いなかった。完全にロアが使う技と相違なかったから。この子は一体、何者なの?