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第174話 梁山泊を改革します!


「あの娘を宗家に……!? そんなことが認められるのか!」


「俺を担ぎ上げようとしてる連中は大勢いる。でも正直、気が進まないんだよね。俺ってトップにいるよりかはその側にいた方が自由に動けるっていうか。」



 今の時点では企みの全貌が見えてこないが、実際、この男を次代の宗家にと推している者は多い。人格はともかく、その腕は現宗家パイロンとほぼ互角とさえ言われている。年齢というハンデを考えれば、若干この男に分がある。半世紀程はパイロンに膝をつかせた者はいなかったと言われているが、この男は10代の頃に達成している。



「あの爺の就任以来、梁山泊門下生の質は上がったと言われてるけど、人は減ったよね? あまりにお硬いもんだから大勢去って行ったらしいじゃない? まあ、才能なしの無能を切り捨てるって意味では成功していると思うけど。」



 パイロンは若い頃から史上最高の天才と謳われ、梁山泊の宗家に若くして就任した折には梁山泊は最盛期を迎えたとも言われていた。その名声を聞きつけ多数の入門者がその門戸を叩いたと言われているが、パイロンは苛烈な運営方針を取ったため、付いていける者はその中でもごく少数だったようだ。そのため返って門下生が減少する傾向を辿る結果となった。



「質は上がったかもしれないけど、人は減ったし、その分、収入も減った。収入源が減ったからねぇ。一般の入門者からお代取れなくなっちゃったら、その分財政が厳しくなるし。困ったもんだよ。」


「その話とあの娘を宗家に担ぎ上げる話にどう関係があるんだ? 話を逸らせているようにしか見えないが……?」


「その減ってしまった財源を復活させるのにアンタの弟子の力が必要になるのさ。」


「あの娘を利用するだと……?」



 あの娘をどう利用しようというのだろう? あの娘は私の目から見ても才能にあふれているし、このまま成長を続けたら五覇に推される程の実力を持つ程になるだろう。


 しかし、それは本人の望むところではない。推されようと自ら辞退を申し出るに違いない。あの娘はそういう娘なのだ。異国の人間が梁山泊の要になるような地位になることの影響を何よりも気にする性格なのは私がよく理解している。



「トップ張るにはカリスマ性ってのが必要になるんだよ。梁山泊を盛り上げるためにはそういうのが必要なんだよ。女性でもトップになれるっていう風潮を演出をしたいんだ。」


「貴様がトップでもそれは変わりないだろう? 貴様を推している者は多いのだから、何も問題はないはずでは?」


「でも、その内約はだいたいオッサンとか爺ばっかりじゃない? それじゃ意味ないんだよ。」


「意味が……ないだと?」


「それじゃ革命にならない。梁山泊って相変わらず男社会でムサ苦しいトコじゃない? それを変えようって、俺は言いたいの。」



 この男の企みが少しずつ見えてきた。確かに梁山泊は成立当初から女子禁制の男所帯だ。私が性別を隠して活動していたのも、その体制の中に入るためだった。私は生来、戦うことしか知らなかったため、せめ養父の力になるためにと、腕を磨くことにしたのだ。私が入門の道を選んだのにはそういう背景があったからだ。



「アンタも正体隠して梁山泊に入らなきゃいけなかったんだし、今後はそういう風潮を失くしてしまいたいと思ってるわけ。」


「それに何の意味がある? 私の様に武門を志す女性などほとんどいないのが現状だ。来たとしてもごく少数の並外れた才能の持ち主程度だと思うが?」


「そりゃね、アンタやその弟子みたいな娘達は少数派だろうね。別にさ、そこまでの才能がなくたっていいじゃない? 例えば、護身術を学ぶみたいな感じでね?」


「一般層を取り込むというのか?」



 一般層への護身術の手解き、確かに考えてもみなかった話だ。現状のように武術を極めようとする者たちだけに門戸を開き、その資格を持たないと判断されれば、問答無用で排除される。私の義弟ロアもその体制の犠牲になった一人だ。あの子以外にも大勢、その様な目にあった人間は存在している。それとは真逆の方針と言えるが……。


「そう! 一般のか弱き娘たちに護身術を習得させ、無理やり手篭めにされるような悲しい事態をなくしたいのさ。それにお貴族様ならこぞって護身術を習わせたがるだろうから、ある程度の料金頂いても問題ないだろうしね。戟覇の俺が手取り足取り教えるって事になりゃ、箔が付くってもんでしょ?」


「余計な虫が付くだけでは?」


「そのためにもアンタとかその弟子の力を借りたいんだよ。同じ女性が教えるんなら安心感はあるでしょ?」


 エレオノーラをトップに据え、私や弟子たちを師範とすれば、安心して女性も門戸を叩けるという流れになる。確かにそうかもしれないが、現宗家やご老師方といった古くからの方針に慣れ親しんでいる人々をどう説得するんだろう? 容易に事は運ばないと思う。



「呆れた……。商魂たくましいものだな。」


「実家は商売もやってるんでね。武術の道を極めるだけじゃ飯は食ってけないのさ。秦の分家である俺ん家の初代も梁山泊の懐事情を憂いていたから、商売の道に入ったわけだしね。俺もその考えを受け継いでいるわけよ。」


「人気商売に走るとは……。流派そのものが形骸化してしまいかねないから、私は容易に賛成できない。」


「人聞きの悪いことを言わないでほしいねぇ。これでも、梁山泊の将来性を考えた上での構想だよ。」



 このまま固く武術の道を極めることに努めるが故に選ばれし者達だけを待ち続け衰退するか、軟化をして多くの人々に技を継承させたはいいが、その質の低下を招いてただの護身術になるまで低俗化するか。そのどちらも明るい未来が待っているとは言えない。でも忘れ去られ、消滅してしまうよりは何らかの形で後世に伝わるほうがいいのかもしれない。

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