第172話 久々の街ブラ♪
「久しぶりの外の世界! 生き返るぅ!!」
私達はジュリアさん夫婦の披露宴に参列するためにエル・ダンジュという街にやってきていた。何ヶ月かの間、魔術学院に在籍して勉強ばかりしていたから、外の世界に出ることを新鮮に感じることが出来ていた。
「ミヤコちゃん、あまり羽目を外しすぎてはダメよ。目的は遊びに来たことではないから。」
「いいじゃん! これくらい派手にはしゃいどかないと、また、勉強詰めの毎日に戻った時にもたなくなっちゃうよ?」
「それはそうだけど……。」
学院の中は生活に困らない程度にある程度の施設は充実していた。でもあくまで最低限でしかなかったので、ショッピング等を楽しむという事が出来ない。転移魔術で離れた都市に行くことも出来るけれど、それを可能にするような時間も少ないし、転移魔術も遠い場所であればあるほど魔力の消耗も激しいので容易に使えない。結局、学院の寮に籠もりっきり……なんて日々が続いていた。
「やっぱりお嬢さんのようなアクティブな人には息苦しい空間だったんでしょう。彼女にはこういう華やかな街で活動している方が輝けるんでしょうね。」
彼、グランツァ君も私達と同様に魔術の勉強をしていたのだけれど、スケジュールの空いているときはひたすら剣技の訓練をしている姿を頻繁に見かけた。素振りや体力トレーニングなども毎日休むこと無く、早朝から寝る時間の直前まで行っていたみたい。そういう意味ではミヤコちゃんとは対称的に充実した日々を送っていたんだと思う。
「あの子がはしゃいでいる姿を見るのが貴方は好きなのね?」
「えっ……それは……もちろん、退屈そうにしているときの彼女よりはという、意味で、ですよ?」
「うふふ。彼女のことを良く見ているわね。最近はお互いの性格もわかり合えるようになってきたんじゃない?」
「そこまでかどうかは……。まだ、彼女は僕のことにあまり興味を持ってくれない様な気がしてます。」
二人は一緒に行動するようになってしばらく経ったけれど、未だに関係の進展が進んでいない。初対面の段階で彼が思い切ってプロポーズしたにも関わらず、ミヤコちゃんはその思いに応えなかった。
いきなりの行動に心の準備が出来ていなかったり、気恥ずかしさから、反射的に拒んだだけなんだろうけれど、その結果は今でもずっと引きずり続けているように思う。彼はめげずに献身的な行動を取っているにも関わらず、彼女はずっとそっぽを向け続けている。何か良い切っ掛けがあればいいのだけれど……。
「ねえねえ、見て! ここの服とか結構良さげじゃない? センスよくない?」
私達が話し合っていると、ミヤコちゃんがある店で足を止めて商品を物色していた。その店は衣料品店で、店先には色とりどりの服が陳列されている。その店ではミヤコちゃんのような子が好みそうな、派手だったり奇抜だったりする服が並んでるけれど、正直、私に似合いそうな物はなさそうだった。あんなに露出の激しかったり、派手な服は無理かな……。
「彼女はこういうお店で服を選んでいるんですね。あんな凄い服はどこで手に入れているんだろうとは思っていましたけど……。」
「都会では案外そういうお店があるものよ。特に職業的にそういう人達が必要としている物品だとかを売るお店がね。特にこの街には聖都では禁則になっている娯楽施設がたくさんあるみたいだし……。」
「そ、そういうお店……!? うう、そういう世界もあるんですね……。」
グランツァ君はハッとして鼻から下を手の平で覆った。見ると、顔が少し赤くなっている。どういうお店を指しているのか想像してしまったみたい。この街にやってきた時から何度かそういうのを何度か目にしたけれど、彼には少し刺激が強すぎたみたい。
もちろん健全な施設もあるけれど、聖都では欲求を満たせない人々が多数利用する街という側面があるので多くの場合はそういういかがわしいお店が点在している。彼のような子なら特に気分を害するでしょうし、私も苦手かな……。年齢的にどういう事をするのかは知っているけれど。
「あはは……それは置いておくとして、今ってものすごくチャンスじゃないかしら? プレゼントというか、お代を出してあげたりとかしてみたら?」
「そ、そそうですね!? それは良い考えです! 行ってきます!」
少し動揺を残したまま、彼はミヤコちゃんの元へかけて行った。彼は彼女に中々振り向いてもらえないけれど、チャンスがあるならいくらでも挑戦したほうがいい。たまには気がついて、思いに気がついてくれるかもしれないから。
「……だから、ゴメンナサイ、って言ってるアル! 言葉、通じてないアルか?」
「わからんなあ? きこえんなあ? 嬢ちゃん、この対価は高く付くぜぇ?」
グランツァ君の背中を押してあげた後にホッとしていたら、何やら揉め事の様なやり取りが聞こえてきた。見てみると少し離れた所で、女の子がガラが悪そうなお兄さんたちに取り囲まれているのがわかった。
女の子は見るからに異国の人で、言葉にも独特の訛りが感じられた。あの娘はもしかしたら、ロアやレンファ先生と同じ東洋の国出身なのかもしれない。言葉や文化の違いで起きたトラブルに巻き込まれてしまったのかもしれない。
「一体、いくらで許してくれるアルか?」
「おいくら? そうだなぁ? 嬢ちゃんみたいな娘なら高く売れるだろうよ。」
見ている間に段々雲行きが怪しくなってきた。このままではあの人の言葉通りになってしまうかもしれない。なんとか助けてあげないと! そう思い、新しくなったリュクルゴスを初めて人前で抜くことにした。