第169話 食料がなくなりますた……。
「うま! うま! うま! うま!」
「どうして、こうなったっ!?」
旅の途中の晩ごはん。焚き火の前で俺の作った料理を猛然と掻き込む食いしん坊将軍の姿があった。そもそも、別パーティーで目的も別々のはずなのだが、何故か俺らの食事の場面に乱入してきている。
「おかわり!」
「オイ、こら! おかわりじゃないだろ! それが許されると思ってるのか?」
「だが、断る!」
「何が断るだ! こっちがお断りだよ!」
「でも、断る!」
おかしい。コイツには常識というものが通用しない。今の状況ではそれをすると俺らの分が無くなってしまう。俺の作った”ちょっとどころでは食べるのをやめられない雑炊”がなくなってしまう!
「ずるい! そんなに美味しいものを独占しようだなんて、ずるい!」
「ずるいも何もお前のためにつくったわけじゃないんだが?」
「美味しいものは私が食べるだけのために存在しているのだ!」
「何が、存在しているのだ、だ! タダでこんな美味しいものが食えると思うなよ!」
「え〜? 昔から言うじゃん? 俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの、って!」
「めちゃくちゃ、ワガママでヤンスぅ!!」
ああ、もう! とうとう大昔の豪傑の迷言みたいなことを言い始めやがった! そもそも、持ってきた食料があっという間に底をついたとかなんとかで、泣きついてきたから渋々聞き入れたのだ。しかも、本人が交渉してきたわけではない。引き抜かれたメイちゃんの頼みだったので仕方なく了承したのだ。つまり、自分一人では何も出来ていなかったのだ、コイツは。
「だいたい、旅立って三日もしないうちに食料がなくなるんだよ! おかしいだろ!」
「だってさあ、旅立つときの食料はいくらまでって決まってるじゃない? それを忠実に守ったら、初日で全部なくなりましたっ!!」
「初日でなくなるとかどういう事だ! 日帰りじゃあるまいし! しかも、購入金額が決まってるって、子供の遠足じゃないんだぞ! 楽しいピクニック、ランチ持参で気分ルンルンでなによりだな!」
「あ、そっか! その手があった! それなら2日くらいは保ったかも?」
「保つわけないだろ……。」
だめだコイツ。確実に脳内がお花畑で満たされてるに違いない。四六時中、脳内でキャッキャウフフな展開がエンドレスで続いているのだろう。目や耳から入ってくる情報も全部お花畑補正が入って、おかしなインプットが成されているのだろう。そうじゃないと説明がつかない。完全なアホの補正値が適用されているに違いない。
「ごめんなさいね、勇者さん。私の分の食料をもっと節約して分ければよかったんでしょうけど、それも二日目で底をついてしまって……。」
「メイちゃんは悪くない。むしろ最善を尽くしたと言っていい! ダメなのはコイツ。全ての過ちはコイツに原因があるのだ!」
このおバカを一人にするわけにはいかないということで、ファルとメイちゃんが念の為にと、メイちゃんを試しに同行させることになったのだ。俺は反対したのだが、本当に野垂れ死にしかねないとファルが言い始めたので、その案を聞き入れた。ほんとうにそうなったというか、見事にそれ以上にヒドい結果になった。ファルの予測の右斜め上を行ってしまったのだ。俺らの食料まで底をつく結果に……。
「私を災いの元凶みたいに言うな! 私は勇者を目指してるんだから、逆に災いを解決するのが役目だと言ってもいいのに!」
「自ら災いになってんじゃねえか。お前みたいなのをトラブルメーカーと言うんだ!」
「む? 新手の職業みたいでかっこいいじゃない? マジックユーザーとかカースメーカーみたいな?」
「全然いい意味じゃないから! 職業じゃなくて、負のユニークスキルみたいなもんだから!」
コイツはこれでなんとかなるとか思ってるんだよなあ。何をどうしようと考えていたんだろうか? 仲間をスカウトしつつ旅をするとか言ってたけど、そろうかどうかも怪しいところだ。ただでさえ聖歌隊でも浮いた存在だったのに、コイツについていこうなんて人がいるのか疑問である。
むしろ、メイちゃんみたいに「ダメだコイツ! 早くなんとかしないと!」と思うような人に介護されでもしないと成り立たないのである。戦闘とか歌とか踊りとか並外れた才能を持っているのは明らかだが、肝心の旅をするスキルが欠けている。魔王倒せても、どっかのなんでもないような所で野垂れ死にしてたら意味がない。
「もうさ、お前、おとなしく俺のパーティーに加わっとけ。帰れとは言わんから。俺の元で必要なスキルを身に着けてからでも遅くないぞ?」
「やだ! アンタなんかの舎弟になんかなってたまるか! 今まで後輩だった奴に先輩風付加されるの嫌だもん! 今ですらピューピュー吹かしまくりなくせに! この世で風吹かしていいのはファル様だけなんだからね!!」
「オイ、コラ! 俺にまで飛び火させてんじゃねえぞ。アホのお笑い劇場に付き合わすな、アホ、ボケ、カス!」
「俺までディスってんじゃねえよ!」
「ファル様にディスられますた……。よよよ……。」
アレもイヤ、これもイヤ。困ったもんだよ。だったらどうするつもりなんだろうか? なんとかエル・ダンジュの街に辿り着いてからコイツの処遇を考えたほうがいいかもしれない。こんな野外のど真ん中じゃどうしようも出来ない。今は耐え忍ぶのだ……。