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第168話 迫りくる新たなる脅威……。


※今回の登場人物が他の場面とは異なる口調で話しておりますが、描写ミスや設定を間違えているわけではありません。今回は違う言語、彼らの母国語で会話しているものとしてお楽しみ下さい。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「やあ、珍、久しぶりだね。」


「お久しぶりです、坊っちゃん。相変わらず、ご元気なようで。」



 勇者ロアの旅立ちを見送った翌日、我らが商会、”龍遊迴(ロンイウクァイ)”の総帥の御曹司が私の所へ訪れていた。相変わらず眉目麗しい青年であり、女性であればひと目見ただけで恋に落ちるとも言わしめるほど容姿淡麗なお方だ。その上、頭脳も冴え渡り、武芸にも優れる。


 今回は二人の貴人に異国の姿を見せるために、遠路はるばる参られたという。坊っちゃんはその二人の教育係をそのお父上から命じられているのだ。



「商売が順調だそうじゃないか? 異国にも我が国の食文化が伝わるってのはいい気分がするな。」


「ハハ、おかげさまで。総帥のお力添えとオガワグループの協力があればこその繁栄でございます。」


「オガワ? ああ、あの小国出身の犬人のことだな? 我らよりも先んじて商業ルートを確立していたという者か。その事実は我らにとって屈辱的だが、所詮小国。我らがあっという間に追い抜くであろう。」


「その通りで御座います。」



 オガワグループとは現在提携関係にあるが、いずれは、互いに商業の覇権を争う関係になるだろう。そして、いずれは取り込み東洋全ての商業ルートを取り仕切る大財閥へと発展させる展望を総帥はお持ちである。世界の天下は我ら中華の人間が治める定めにあるのだ。



「ねえねえ? いつまでそんな小難しい話し続けるの? つまんない! 私、眠くなってきたんだけど?」


「ああ、これは申し訳ありません、お嬢様。すぐに粗茶とお菓子を用意させますので少々お待ちを。これ、お嬢様に早くお出しせぬか!」



 旅装束に身を包んではいるが、その身なりにどこか気品を感じさせる少女……この方の名は秦香菱(ジン・シャンリン)。梁山泊宗家、秦白龍(ジン・パイロン)老師のご長女であせられる。まだ一五歳になられたばかりだが、母上に似て、年々美しくなられている。今回の旅はお嬢様のご希望に応える形で実現したのだとか。



「やれやれ、まだまだおこちゃまだな、お嬢は。」


「もう! フェイったら、私を子供扱いして! もう15歳になったんだよ!」


「はいはい。そういう言動がすでにおこちゃまな訳で。年齢が成人に達したからって、その日を境に急に大人になるわけじゃないんだよ?」


「むーっ! 誕生日迎えた日から大人の自覚を持って行動してるもん! ちゃんと”剣覇”にだってなれたし!」



 そう、驚くべきことにお嬢様は”剣覇”に若くして就任されたのである! 長らく”剣覇”不在の状態が続いた梁山泊だったが、晴れて将来の希望の光が差したのだ。近頃、新たに門を叩く者が減り、門下生が減少の傾向にあった。若き天才が現れた事を聞き、再び梁山泊に人が集まってくるのも間違いないだろう。



「はあ……。そういう要素はあまり心の問題とは関係ないんだぞ? お前は武術以外はからっきしじゃないか。人生経験が足りないのよ。だから、社会勉強させるために旅の同意をしたんだからね。ホント、パイロンの爺さんが箱入りに育てちゃったモンだから、俺なんかが苦労する羽目に……。」


「うう〜、私のことだけじゃなくて、父上のことまで貶めるの? ちょっと、聞いてよ、兄上〜! フェイが私をいじめてくるぅ!」


「ハハ、そんな女たらしの遊び人如きの言葉に耳を貸す必要はないぞ。お前はオレと父上の言いつけを守っていれば良いのだ。」



 店内の商品を色々物色していた少年が応接室に姿を現した。妹君と同じく旅装束に見を包み、眼鏡をかけた理知的な雰囲気を漂わせている。この少年がお嬢様の兄上、秦青龍(ジン・ティンロン)である。老師パイロンの長男でありながら、彼もまた若くして”刀覇”を襲名している。兄妹揃って、老師の血を色濃く受け継いだ希望の星なのだ。



「女たらしだなんてヒドい言いぐさだなぁ。俺はただ帝王学の一環で女遊びしてんのよ? あくまで人間としての幅を広げるために必要な活動なわけ!」


「フン、お前はそれだから、父上から失望されているんだ。類まれな才能を持ちながら、自堕落な生活に耽っている。そんな者が未来の梁山泊を率いて行ける訳がない。」


「相変わらず、お硬いねぇ、若は。一体、誰に似たのやら……ってあの石頭のクソジジイだったわ。」


「いい加減にしろよ。止めねば、お前のクビが宙を舞う事になる!」



 一触即発の緊張した空気となった! この様な緊張した雰囲気となるのはこのお二人の日常では当たり前となるほどであるという。お二人は年は一回りほど離れているが、兄弟のように毎日顔を合わす生活をしていたという。実は”龍遊迴”の血筋は梁山泊宗家の分家筋に当たるという。ここにいる御三人は親戚同士でもあるのだ。


「へえ? 出来んの? 今まで俺に百戦百敗以上してるくせに?」


「オレの初の勝利がお前の命日だ!」



 若様は坊っちゃんに幼き頃から対抗心を燃やしており、互いに切磋琢磨を重ねていた事で有名だ。それが積み重なり、お二人は共に五覇に数えられる程の腕前となった。現在も次期宗家の座を巡って争っているのである。お二人を止められるのは身内の特定の二人以外ありえないのである。


 坊っちゃんもまた、五覇の一人、”戟覇”なのである。名は秦飛龍(ジン・フェイロン)。しかも腕前は実質、梁山泊、随一とも言われている。それ故、次期宗家に最も近い場所にいる男と呼ばれているのである。



「やめて、やめて! すぐそうやって、二人共喧嘩する! 珍のオジサンも困るからダメ!」


「す、すまん、シャンリン! お兄ちゃんが悪かった!」


「ハハ、コイツはやられたな。お嬢も意外と気が回るじゃないか。ついつい、いつものクセで熱くなっちまったよ。」



 お二人は犬猿の仲といえど、やはり、自分の妹君からの願いを効かないわけにはいかないのである。その様子を見て、私もホッと胸をなでおろすことが出来た。無問題。



「ところで珍よ、この店にあの男が来ていたという話は本当か?」


「はい、若様。ついこの間まで商業上のコラボレーションを行っていたのですよ。この猫のキャラクターをデザインしたのは、例の人物の友人、しかもゲンゴロウ大人(ダーレン)の息子なのです。」


「これいいよね! 是非、私もその人に会ってみたいな!」


「その犬人はついでだ。オレの旅の目的は”あの男”に会うことだ。それを忘れるなよ、シャンリン。」


「ふ〜んだ! 兄上だって今回、私が旅に出たいって言わなきゃ、ついてこなかったくせに!」


「フン、わざわざ、旅に出てまで会いに行くような事ではないからな。わざわざ来てやったのだ。我らが父上を倒したという輩に!」


「しかもさ、そいつの彼女がまた、エラいべっぴんさんだって言うぜ? あの爺さん、頑固爺の心を動かす程だっていうじゃないか? そんな美女に会わないわけにはいかないじゃないの?」


「また女の話か! お前というやつは!」



 御三人の会いたいという人物はそれぞれ違ってはいるが、今、エル・ダンジュという街に集まるという話を聞いた。彼には悪いことをしたことにはなってしまうが、若様たちとの出会いが大いに刺激となると思って敢えて引き合わせる形を取った。それは若様達とて同じこと。大きな経験となるに違いないと思ったからだ。

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