第159話 戦闘狂《バーサーカー》
「お互い義手同士じゃないか? そういう意味でも俺らは競い合う意義がある。勇者の武器と最新技術、どっちが上かハッキリさせようぜ!」
「そんなことに意味なんてないだろ。俺らが争う意味なんて何もない!」
訳もわからず処刑隊に戦いを挑まれ、戦いを繰り広げている。俺は義手の大男と、ファルは身軽な小男と切り結んでいる。互いに共通する敵がすぐ側にいるというのに、何故、争わないといけないのか? 相手の行動理由が理解が出来なかった。
「意味? 別にいいじゃないか。俺は基本的に戦いを楽しみたいのさ。その切っ掛けは別に何だっていいじゃないか?」
「楽しむだって? 馬鹿なこと言ってんじゃない! すぐ近くに魔神がいるんだぞ?」
相手は凶悪な笑みを浮かべながら、驚異的な攻撃を繰り出してくる。背中に下げた剣を一切抜くこと無く、義手を使った攻撃ばかりだが、人を相手にするならそれだけでも十分と言えた。捕まったら一環の終わり。かぎ爪に粉砕され、ダメ押しの止めに杭で打ち抜かれてグシャグシャの肉塊に変えられてしまうだろう。
「俺らの作戦は失敗に終わった。二度も邪魔が入ったのは初めてだ。」
「失敗したって、相手はまだあっちにいる。やり直せばいいじゃないか!」
義手による攻撃は躱すだけでは凌ぎきれず、時には自らの剣で受け流さないといけなくなる。その度に腕ごと持っていかれそうなくらいの衝撃が体に伝わってくる。同じ武器の使い手であるタルカスとは比べ物にならない。あのときはタルカスの動きを読んで威力を軽減して防ぐことも出来たが、この男相手では同じ手は通用しなかった。明らかに戦場慣れした動きが対処を難しくさせている。タルカスみたいに腕力だけでぶん回す攻撃とは違うのがよく分かった。
「そういうわけにもいかんのさ。暗殺じゃなきゃ意味がない。俺らの目的は魔神を倒すことそのものはついでと言ってもいい。」
「魔神退治がついでだなんて狂ってるな。」
「そうだろ? よく言われるぜ、戦闘狂ってな!」
魔神退治をすっぽかして、別の相手との戦いに興じる。相手の行動原理が理解できない。目的を邪魔されて腹が立っているという話はコイツの部下、ファルの相手をしている小男から聞いた。でも、俺への腹いせを優先させていいものなのだろうか?
「俺らの目的は一つじゃない。聖女とか聖歌隊の評判を落とすためでもあったのさ。聖都のまっただ中で、魔神の侵入を許し、ソイツが啓蒙活動に貢献するような働きをしてたんだからな? こんなネタを利用しないわけにもいかないだろ?」
「同じ法王庁だろ? 協力しあって魔神を排除すればいいじゃないか! 何故内輪で揉めるようなマネをするんだよ!」
「甘えこと言ってんじぇねえよ。同じ組織内だろうと絶えず主導権を握るため、優位な立場になるためには競合相手を蹴落とす必要があるのさ。」
「そんなバカなことして何の意味があるんだ!」
「テメエ、勇者だろ? 子供みたいな寝言をいってんじゃねえぞ! 寝言は寝てから言いな!」
相手は怒号と共に背中の剛剣を取り出し薙ぎ払った! 重々しい外見にも関わらず片腕で一閃したのだ! しかも、まるで木切れでも振り回すように軽々と! とっさに身を剣で守りながら躱したが、少し掠めてしまう。その衝撃だけで俺は吹き飛ばされ、舞台上の壁に叩きつけられた!
「俺にこの剣を抜かせただけでも大したもんだ。そして、その一撃目に耐えたヤツはほとんどいねえ。特に人間相手ではな。」
「くっ……くそっ!? なんて威力だ!?」
「面白くなってきたな。甘ちゃんなクセに割と相手になりやがる。徹底的に社会の厳しさを味あわせてから潰してやるよ!」
ずんずんと相手が迫ってくる。早く体勢を立て直したいが、叩きつけられたダメージがまだ残っている。痛みのせいで体が思うように動かない。このままではやられてしまう!
「そらっ! 早くしねえと、ひき肉になっちまうぜ!」
先端の平な部分で押しつぶすように剣を叩きつけてきた。俺はまだ自由の効かない体を引きずるように躱す。そして、躱した先でも同じ様な攻撃が待ち構えていた。それが何度も繰り返された。舞台の床がメチャクチャになるのもお構いなしに、相手は攻撃の手を緩めなかった。
「なんだ? 逃げ回るばっかりじゃねえか? 勇者ともあろうお方がそれで大丈夫か?」
「割と泥臭い勇者だとはよく言われる。例え無様でも戦い抜くのが梁山泊極端派のモットーなんだ!」
「やってみな! そんな戦いがどれだけ通用するのか確かめてやんよ!」
相手はその一言と共により一層強い力で振りかぶった一撃を見舞ってきた! こんなのを喰らったらひとたまりもない。だが、それはチャンスの到来でもあった。じっくり引き付けてから、最小限の動きで躱した。
(ズウゥゥゥゥゥン!!!!!)
勢い余って床に剣が深く突き刺さった。コレを狙っていた! この状態を見計らい、剣を踏み場にして相手の頭上へ跳躍した!
「峨龍滅睛!!」
「ムウっ!?」
脳天を狙った一撃だったが、既のところでその攻撃は義手によって阻まれてしまった! 防がれたことを悟り、再び相手の剣を踏み台にして飛び退いた。
「ケッ! さっきまでへばってた奴がやってくれるじゃないか!」
「そう簡単にやられないのが極端派の真骨頂だ!」
本来なら早くプリメーラの所に早く駆けつけないといけないはずだが、思わぬ強敵の出現でそういうわけにはいかなくなった。でもまあ、大丈夫か? アイツの側にはあの剣士がいる。何者かはよく知らんが、今は任せておく他の選択肢はなさそうだ。それよりもコイツはどうやって倒す? 舞台がメチャクチャになるぐらいの勢いで戦わないと倒せそうにないな……。