第157話 どこかで見たことのある、アレ。
「おいおい、どうするよ? 見てるうちに有象無象の連中が次々と乱入してきてるぞ!」
「完全に俺達は空気になってしまっているな。まさか、聖女まで登場するとは思わなかった。俺もこれは想定外だった。」
てんやわんやの劇場の舞台に開いた口が塞がらなかった。処刑隊は想定の範囲内だが、聖女様がまさかの登場を果たし、謎の剣士ヒュポグリフとやらまでもが参戦する結果となった。
「処刑隊は……やはり不可視の鎌のリーダーが出てきたな。」
「アイツがそうなのか?」
「そうだ。ブレンダン・クラッドバスター。処刑隊の断頭台って異名を持つ実力者だ。」
あの筋骨隆々な男がリーダーのようだ。背中には先端が扁平な形の巨大な剣、右腕がゴツい義手になっているのが印象深い。しかもあの形は……タルカスが使っていた武装腕、狂殺の鈎爪とかいうヤツにそっくりだった。
巨大なかぎ爪の中心部に杭打ち機を備えた殺意マシマシな武装だ。あんなインパクトのある武器を見間違うわけがない。タルカス以外にも使い手がいたなんて……。
「もう一人がキリー・ザ・グラスホッパー。恥の仮面の異名を持つ男だ。」
観客席から乱入してきた二人に注目してみた。小男の方がこの前の狙撃犯で、俺の所へ単独で警告をしてきた奴だと思われる。見た目的にはオッサンと言っても良かったが、顔は童顔でとっちゃん坊や的な印象を受ける。耳が尖っているので亜人族なんだろうか?
「なんか老けた子供みたいな外見だけど、あの人エルフなのか?」
「違う。あいつらは草原の民、グラスランナーという種族だ。俺らエルフと親戚みたいなもんだが、少数民族なんで知ってるやつはあまりいない。お前みたいにエルフと勘違いする人間もも多いのさ。そんな事を言ったら、侮辱されたと思って喧嘩を吹っ掛けてくる事も多いから気をつけな。」
まだまだ俺の知らない種族が世界にいるんだな。色々と情報を知ったところで、その二人がこちらに睨みを効かせてきている事に気付いた。小男の方がこの前言ってたように、リーダーさんは俺に興味津々らしいらしいからな。狙いはアイリよりもこちらにあるのかもしれない。
「一杯食わされたが、まあいいさ。そんならここでちょっと味見をさせてもらうとするかな。」
処刑隊の二人はプリメーラ達を素通りして舞台端にいる俺達の前にやってきた。その間にチンピラみたいなメンチを切りながら接近してきたが、迫力がチンピラってレベルじゃない! 何かこう、肉食獣のような、いや、それどころかベヒーモスみたいな魔獣みたいなド迫力だった。
「よお! テメエか? 噂の勇者とか言う奴は?」
「いやあ、人違いじゃないですか? 私、女なんで?」
「おうおう、内面まで女々しくなっちまいやがったのか? だが、俺の目は誤魔化せねえ。」
「はて? な、何のことでしょう?」
流石にこんな迫力の相手を目の前にしてビビリ心を隠せるわけがなかった。ここまでのヤツはそうそういない。ヴァル・ムング以来かもしれない。ある意味、魔王以上の迫力がるかもしれない、この男!
「俺は見ていたぜ。さっきの戦いをよ。あんだけ強けりゃあ、合格ってことよ!」
「何が合格なんすかね?」
「もちろん、俺と戦う資格が、って意味だよ!」
(……ゴッ!!!!!!)
その時、ものすごい勢いで俺に迫る気配があった。それに伴う強烈な殺気を感じた俺はとっさに後ろへ飛び退いた。俺が元いた場所にはあのゴツい義手の姿があった。間違いない。アレが振るわれたんだ! しかも、完全に回避したと思っていたのに、衣装の一部が切り裂かれていた。掠っていたようである。
「なかなかいい反応速度だ。女のグロいミンチが現れなくてホッとしたぜ。」
「ハハ、そりゃよかった。グロ注意なんて注意書きなんてしてなかったからね、この演目。」
怖ろしい奴だ。完全に殺すつもりで振るった攻撃だった。少し掠っただけでもこの威力。喰らっていれば、間違いなく跡形もなく粉砕されていただろう。タルカスと同じ武器を使っただけなのにここまで脅威の度合いが違うとは……。
「しかし、なんでアンタがそれを持っているんだ? それはゴーレム用に作られた武装じゃないのか?」
「ああ、これか? 勘違いしてもらっちゃあ困るぜ。これは元々、お人形のための物なんかじゃあないんだぜ?」
「何が言いたいんだ?」
「実はこっちが本家だ。お前が見た、ゴーレム用とか言うのは量産型、コピー品ってことよ!」
「ゲーっ!? アレは量産型だったっていうのか!?」
まさかの事実を知らされた! タルカスが決起するために用意していたものだと思っていたが、それよりも前に、この男が使用していたということになる。いや、でもそんなことより、タルカスとコイツとのつながりは一体どこにあるんだろう? 処刑隊とインスティチュート・ソサエティ、全く出自の異なる組織は裏でつながっていたというのか?
「今、テメエはコレの出所について考えているな? いいぜ、少しヒントをやろう。コレを作った連中とは付き合いがあるのさ。技術を提供する代わりに被験体、モニターになれという取引に応じたのさ。この世には死の商人ってのが存在するんだぜ?」
「死の商人……!?」
タニシの父ちゃんやサンディのオッサン、ミスター珍みたいに何人かの大商人のことは知っているし、後者の二人には実際に会ったことがある。彼らがそういう商売をしているとは思いたくないが、中には武器や兵器を売って利益を得ている商人もいるということか。
俺も武器とかを使わせてもらっているから、文句は言えないが、正直複雑な気分だ。武器を手に入れることが出来たからこそ、タルカスをあのような行為に走らせてしまったのでは、という考えが頭をよぎるからだ……。