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第154話 勇者、再び。


「勇者が二人も! これは一体、どういう事だ!」



 まっとうな疑問だった。演目の真っ最中とはいえ、同じ役柄の登場人物が二人も舞台にいるのである。こちらの都合ではあるが、観客を戸惑わせる事態になっている。プリメーラは体調不良で休演していることになっているのだ。しかし、戸惑ってはいるものの、観客たちも喜びを隠せないようだ。待っていましたと言わんばかりに、プリメーラへの声援を送っている。



『プリメーラちゃーーーん!!!!!!!』



 今までの俺達への喝采は本気ではなかった事を感じさせるくらい、観客の期待と盛り上がりはこれまでで最高潮の域に達していた。ウケていたとはいえ、主演がいなかったのだから当然と言えるかもしれない。



「バ・ゴーンよ、勘違いしているようだが、実は私はモョモトではない! 私の正体は……、」



 手を回して自分の衣装に手をかけるとグッと一気に引っ張り引き剥がした! その下からは別の衣装が現れ、全く別の役柄だとハッキリとわかる姿になった。服装も青色の勇者服から緑を貴重とした神官戦士風の物になっている。



「もしや、貴様はサマー・ウォーリアの王子!」



 まさかのエピソードⅡからのゲスト出演設定だった! サマー・ウォーリアの王子、通称、サマウォの昼行灯! 本名はスケッサ・アーサー・クッキン・コナンドⅢ世とかいう長ったらしい名前である。 ファンの間ではヤスと同レベルで戦犯と称されることも多いキャラである。



「その通り! 貴様の企みを察知し、同じく未来から勇者を助けに来たのだ!」



 初対面時はさんざん登場を匂わせる展開が続くがしょうもない理由でニアミスを連発するエピソードで有名だ。目的地に行き違いになる、よく似た地名に間違えて向かっていたなどの無能ぶりを発揮している。中でもギャンブルに夢中になりすぎて話しかけても無視してくる話はファンの中でも語り草になっている。



「貴様はただの昼行灯と呼ばれるに過ぎない、無能王子ではないか!」



 とはいえ、勇者エニッコスを邪教四天王べアルリの捨て身の攻撃から救い、消息不明になるエピソードはファンの中でも人気が高いようだ。しかも、真のラスボス、邪神ジャシーンとの闘いで窮地に陥った勇者を助けにさっそうと現れるシーンもあり、ヤスとは違い人気を獲得することに成功しているようだ。今の急展開はそれのオマージュかな? プリメーラならやりそうなことである。



「それはタダのフリだよ。ある男から必殺技を授かって、この場にやってきたのさ! 登場に遅れたのはそれの特訓をしていたからだ!」



 特訓? そんなエピソードあったっけ? 特訓とかの下りなんて一切なかった気が?……いや、待てよ? これは役柄の事を説明しているのではなくて、プリメーラ本人のメタ的な発言のあのでは? 今まで行方をくらまし、ギリギリまで出てこなかったのは謎の特訓をしていたことを示唆しているのかもしれない。



「本当か? では、試してやろう。貴様の実力とやらを!」



 アイリ扮するバ・ゴーンは優雅な仕草で指をパチンと鳴らし、舞台に複数の影を作り出した。その影からゆっくりと直立した人骨が現れる。骸骨剣士だ! だけど、アンデッド特有の黒々した闇の力の気配は感じない。これはアイリ得意の幻術によるものか?



「お前たち、やっておしまい!」


「おのれ、バ・ゴーン! 返り討ちにしてくれる!」



 プリメーラは敵に向かって行く前、俺達に手のひらで制止するような仕草をし、得意げな様子でウインクをした。これは……手を出すな、ということか? アイツ自身で全て対応することを宣言しているようだった。



「トアーッ!!!」



 剣を抜き骸骨剣士達と切り結んでいく。その姿は到底、素人とは思えない動きだった。刀身に反りがあり護拳が付いた、サーベルという種類の武器を振るっている。そんな剣術を習得してなんて聞いたことがない。エニッコス以外に美剣士ヒュポグリフという剣士に憧れているとか言っていたが、まさか、それなんだろうか? どこで誰に習ったのだろう? 謎ばかりで目の前の出来事に集中しきれなかった。



「やるな! いつの間にそんな力を?」


「つい最近だよ。いや、そうとも言い切れないかな? 体感一ヶ月くらいは特訓したようなもんだからね。」



 プリメーラは骸骨剣士を全て斬り伏せ、意味深なことを言った。体感一ヶ月だと? そんな事、可能なのか? あり得るとしたら、あの方法しかない。仮想空間……!? でも、一体誰が? サヨちゃん? いや、他にありえるとしたら……!?



「そこにいる勇者といい、お前さえも想定外の動きをしてくるな?」


「救世主が、真の勇者が助けてくれたんだよ。私を勇者に仕立て上げるためにね!」


「そこにいる勇者とは別人か? まさか……!? あの男か!? ブレイブ・ザ・グレート!?」



 アイリは俺と同じ結論に行き着いたようだ。いや正確にはアイリではなく魔神アイローネだろう。学院禁断の迷宮で暗躍するアイローネの前に現れ企みを阻止したもう一人の勇者。それがブレイブ・ザ・グレートだった!

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