第152話 正義と情熱が交差する時
「おい、どうした? 返事をしろ!」
気がついたときには、夜明け前の屋外から舞台のド真ん中に戻ってきていた。静寂からざわめきのあふれる空間に戻ってきたのだ。あっちに行ってる間は時間はほとんど止まっていたはずだが、俺の意識が戻る前に時間の流れが元に戻ってしまったのかもしれない。あくまでグレートも借り物の力だったから、サヨちゃんほどの精度を持ってなかったのかもしれない。
「勝てるぞ。俺達は。」
「しばらくボーッとしてやがると思っていたら、今度は勝利宣言か? たった今、俺達の最大の切り札を打ち破られたばっかりだってのに。」
「俺にもよくわからんが、俺達が勝つための方法を教わったんだ。」
「……は?」
本当に夢化現実かよくわからない。でも見て、聞いて、感じた事は紛れもない本当の記憶だ。夢だったとしても、これほどハッキリ覚えている事なんて今までなかった。だから現実だと思うことにした。
「何を言ってるかわからないかもしれないが、体験したありのままを全部話すぜ!」
「馬鹿野郎! 今そんな事をしてる場合か! 手短に言え!」
(ドッッッッッッッ!!!!!!!)
そこで観客席から笑いが巻き起こる。今のやり取りが演出だと勘違いされてしまったらしい。緊迫感あふれる戦闘を繰り広げ、窮地に陥り、コメディ的な展開が挿入されたと思ったのだろう。俺はふざけていないが、おかしなことを言っているのは分かっている。でも、本当のことなんだ……。
「じゃあ、もういいわ! お前はさっきみたいに俺に合わせて技を繰り出してくれればいいから!」
「それはもう効かないことは実証されただろう? 無駄な行動をさせるな。」
「いいから! 変更箇所は俺が請け負う部分だけだから。あの技をもう一度使うことだけを意識して行動してくれ!」
「それじゃ意味がわからん! 説明を要求する!」
「手短にしろって言ったのはお前の方だろうが!」
(ドッッッッッッッ!!!!!!!)
また笑われた。どう見てもこのやり取りは二人組の漫談ショーでしかない。ひどく滑稽に見えるが、観客が勘違いしてくれているのは幸いだろう。真実を知ったら大混乱の阿鼻叫喚の地獄絵図と化すのは目に見えている。状況を利用させてもらうしかない!
「俺が新技使うから、シャイニング・イレイザーをそれと組み合わせるんだ。そうすればツープラトン技二号が爆誕するから!」
「何だよ、それは? 納得がいかんぞ!」
「もういいから、おとなしく従ってくれればいいから!」
ファルはまだ疑っているようだが、そこで俺を見てハッとして動きを止めた。フッ、と短く笑って、何かを決心したような、何かを理解したかのような表情になった。
「思い出したぜ。今のお前があの日ヴァルを倒した時と同じ目をしていることをな。」
「あの時と……?」
「そうだ。お前がそんな目をしたときは大抵何かをやらかす時だ。もちろんいい意味でな。」
「やらかし?」
いい意味でのやらかし。あのときもそうだったのか。ヴァルへの最後の一撃を決める前、何故だか、閃いた事を実行したくなった。あの時は普通に八刃を繰り出せばよかったはずなのに、魔が差して勇者の一撃とミックスさせるアイデアが俺の頭に降りてきたのだ。
理由はわからない。あの時、余裕がなくて切羽詰まっていたし、残り体力的にもギリギリ限界だった。その追い詰められた状況が思いがけない軌跡を起こしたのだ。未完成だった八刃では勝てなかったのかもしれない。足りない部分を直感で補完したのだ。だからこそ、今、俺はここにいる。
「やるぞ! 勝って、この公演を成功させるぞ!」
「決めるぞ、俺達の新技を!」
「何をごちゃごちゃと! 往生際の悪い奴らめ!」
「同じだ。もう一度、貴様らの技が無力なことを証明してくれる!」
敵までが同じことをやろうとしていると勘違いしてくれているのは幸いだった。完全に余裕をかまして、優越感に浸ってくれていることは、大きなチャンスだった。直前の失敗がフェイントとして機能してくれているのだ。これは完全に勝てるパターンだ!
「行くぞ! シャイニング……、」
「バーニング……、」
「……イレイザー!!!」
打ち合わせ通り、ファルはタイミングを合わせて技を繰り出してくれた。一方、俺はぶっつけ本番でもう一つの勇者の奥義、勇者の豪撃を繰り出した! 通常は勇気を正義の心を振り絞る感じで繰り出すが、豪撃のマインドセットは違う。悪を焼き尽くす怒りの奔流を込めて繰り出すのだ。一度見ただけだが、その印象だけで全てを理解していた。
「食らえ、破魔の陽光、スパーキング・グレイシャー!!!!!!」
「なんだそれは? さっきと大して変らんではないか!」
「ははは、無様だな! 勝ち目が無くなってトチ狂った行動に出……!?」
(ギュワワワワワン!!!!!!!!!!!!!)
激しい閃光とそれを飲み込もうとする一点の光も差さない漆黒の暗闇が激突した! あまりにも強すぎる両者の力が弾け合い、凄まじい音となって会場全体に響き渡る! 一見、互角にも見えたが、ジワジワと暗黒が収縮していっている。障壁が維持できない程のダメージを与えているのがハッキリとわかった。
「Ms.リーマン! 手を抜くな! 力が弱まっているぞ!」
「あなたの方こそ何をしているのだ! このままでは私達は……!?」
(ギョワワワワワワッ!!!!!!!!!!!!)
暗闇は完全に消え失せ、次はそれを作り出していた二人を閃光が飲み込み、姿を見えなくした。その光景は夜闇の終わりを告げるために現れた太陽、希望の夜明けを連想させる曙、そのものだった。まるで直前に目にした光景と同じだった……。




