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第148話 何かがおかしい?


「貴様がどれほど(うそぶ)こうと、倒してからじっくり解析すればいい。そうすれば貴様の正体だけでなく、賢者の石の製造方法を知ることも出来るはずだ。」


「出来たらの話だろ? テメエ如きでは不可能な話だ。」


「これを見ても同じことが言えるかな?」


(ブォボボボッ!!!!)



 炎邪は手のひらを上に向けて腕を前に差し出し、炎を出現させた。懲りない男だ。炎の魔術を使って俺を倒そうなど……何だ? 何か違う? この違和感は何だ? 先程の炎の鳥に比べればランクの落ちる魔術だというのに、俺の勘は警戒しろと告げている。



「アイローネ様から授かった力を思い知るがいい!」


(ブアアアアアッ!!!!)



 巻き起こした火炎の奔流を俺に差し向けてきた。一見、何の変哲もない魔術の炎だが、違和感を感じる。炎と風の元素の動きがまるで感じられないのだ! 正体のわからない攻撃に対して、今は回避に専念するしかない。



「クッ!?」


「フハハ! どうした? 先程のように風の元素を操って炎を弱めたりしないのか?」



 出来ない。元素の働きが見られないにも関わらず、炎の熱量は感じる。触れられていなくとも、あらゆる物を一瞬で焦がしかねない熱量だけはジリジリと皮膚の痛覚を刺してくる。これが炎であることは疑いようがない。



「ちょこまかと避けやがって! だったらこれをお見舞いしてやる!」



 炎の奔流が細く絞られ蛇や猛獣の尾のごとく、しなやか動きを見せた。これは”フレイム・ウイップ”! 文字通り炎を鞭のごとく操って敵を捉え、纏わり付いたと同時に相手を焼き尽くす魔術だ。火炎弾を撃ち出す魔術よりも射程の面で劣るが、近接戦闘では高い効果を発揮する。今いる舞台のように限定されたスペースでは回避が困難で厄介だ!



「随分と達者な鞭さばきだな!」


「フハハ、思い知ったか! 貴様を捉えるまで後少しだ。捉えた暁には、貴様を生焼けの半殺しにした上で調教してやる!」


「相変わらず趣味の悪い男だな!」



 振るわれる炎の鞭は複雑な動きを見せ、俺の体を捉えようと蛇のように唸り、撓る。ただの炎の奔流のときは回避するのは容易かったが、鞭はギリギリで避けるのが精々だった。その度に身を焦がし俺の体や衣装に痕跡を残す。そろそろこちらも攻撃に移って牽制しなければ、捉えられるのも時間の問題だ。



「”疾風の魔弾(アロー・シューター)”!!」



 細く絞った空圧の鏃を指先から放つ! 相手に当たりはしなかったものの、頬をかすめ鞭の動きが一瞬鈍った。その隙に乗じて、追撃の魔弾を何度も放った。相手は躱しきれずにそのまま被弾しているが、一発目と違い傷一つ付いていなかった。



「こんな低級な魔術で俺を殺そうなど、百年早い! こんなちゃちな魔術など効かぬわ!」


「”熱波障壁(バーニング・コート)”か!!」



 ヤツの周りには高温の空気の対流が渦巻いていた。高度な熱のバリアで空圧を四散させ威力を落としたのだろう。展開速度の速さといい、熱量もかなりの効果を持っているようだ。腐っても炎属性の扱いだけは達者であるらしい。



「俺の”熱波障壁(バーニング・コート)”はあらゆる属性の魔術をも防ぐ! 貴様の風属性や、地属性の岩塊、水属性の水流であろうと瞬時に溶解、蒸発させることが出来るのだ!」


「水属性もか……。少しは相方のことくらい立ててやれよ。」


「俺の方が格上だ。おれは特級の魔術師集団DLCのリーダーだぞ? 並ぶものなど滅多にいないのだ!」


「ああ、はいはい。そりゃ御大層なことで。」



 ヤツは自身の魔術の腕に酔いしれている。その間につい先程の流れを分析していた。またしても違和感を感じた。ヤツ程の腕の持ち主が炎の鞭を使って防御行動に移らなかったのは何故だ? 例え、攻撃中であっても、炎の鞭で対象が風属性ならば俺のときとは逆に魔弾を四散させることは出来たはず?


 わざわざ”熱波障壁”を展開するのは意味があったのだろうか? どうも無駄な行動に思えて仕方がない。タダの馬鹿だと考えればそれまでだが、違和感を感じる。もしや、炎の鞭を始めとした攻撃に使用している魔術は、別の魔術なのでは?



「おい、大将、さっきの炎尾の鞭で来いよ! 今度は俺がテメエの攻撃を無効化してやる。」


「ちょこまか逃げ回るだけだったヤツが大きく出たものだな! お望みとあらば俺の魔術で火炙りにしてやる!」



 相手は俺の挑発に乗ってきた。後は俺が無効化するだけだ。精神を研ぎ澄まし、目を閉じて攻撃を待ち構える。こうすれば真の姿が判明する。元素の揺らぎが生じない炎の魔術のトリックを打ち破ってみせる!



「馬鹿め! 目を閉じ微動だにしないとは! とうとう観念したか!」


(ビュウっ!!)



 炎の鞭が振るわれた。心の目を凝らし、その実体を見極める。炎のイメージは徐々に消え去り、魔力のエネルギーによる鞭の姿へと変わった。やはり、当たりだ! これは炎の魔術ではなく、幻術による攻撃だったのだ!



「な、何!? 鞭で捉えたというのに、焼けないだと?」


「いい加減猿芝居はやめたらどうだ? タネは分かった。お前のこれは幻術だろう?」


「ぬううっ!? どうしてわかった?」


「色々おかしいと思ったんだ。元素が揺らがない上にさっきの防御方法だ。おまけにお前自身が発していた言葉もヒントになったぜ。」


「お、おのれ!」



 正体は”火幻術”。幻術とはいえ対象を焼き尽くし、本物の炎のように見える。幻であるが故、元素の少ない場所でも効果を発揮し、通常では不可能な水中での発火現象を引き起こすことも可能だ。だが幻であるが故に、対象が人などの生物でなくては効果を発揮しないのだ。


 あたかも燃やされるという思い込みを発生させることで、その効果を現実にすることが出来るのだ。逆にそう思わなければ、何の効果も成さない。所詮、幻ということだ。魔力による抵抗を試み、精神を研ぎ澄ませれば防御は可能。浸透滅却すれば火もまた涼し、これを実践すれば恐るるに足らない。



「これで終わりだ、シャイニングイレイザー!!」



 魔力の鞭を振りほどき、風斬り羽を出現させた俺は、勇者の一撃を放った。相手が魔族なら下手な魔術よりも効果を発揮すると考えたからだ。ヤツは閃光に飲まれ、その姿を次第に消滅させていった……。

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