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第147話 天破奥義、”波紋震倒”。


(ニュルルルッ!!)


「ぬおっ!?」



 水蛇が俺に向かって来る。俺の体を巻き込み捉え、締め付けた後に頭から噛み砕く。そんな嫌な未来のイメージから逃れるため、必死に体をよじって、時には跳んで躱す。まるで本当に生き物であるかのようにねちっこく俺を追い回してくる。まるでその主の性格を体現しているかのようだった。



「あいも変わらず、珍妙な体術でよく躱す! 二週間前に毒で死にかけていた人間の出来る動きかっ? 聞いていた情報は真実だったのか?」


「アンタら魔術師とは鍛え方が違うんだよ! 多少不調でも闘いを生き抜けるのが流派梁山泊の極意だ!」



 まだ少し不調なのは相変わらずだった。普段の生活や公演の演技には支障が出ない程度には回復しているが、全力で戦えるほどの体調とは言い難い。少し踏ん張ろうとすると、体に痺れが走る。今は極力そうならないように、拳覇の体術を応用して回避に努めている。蛇身寧行(じゃしんねいこう)、蛇の動きを体術として昇華し、組技で絡め取られた体を逃すための技。それを通常の攻撃を回避する手段に応用している。これはつまり、極端派の新技とも言えるムーブなわけだ。技名を考えとかないとな。



「いつまでもふざけた事が通用すると思うなよ!」


(ゴパパッ!!)



 水蛇が螺旋状にうねりながら、こちらめがけて突進してきた。このまま受けようとしても勢いを殺せずに吹き飛ばされるだろうし、下手に躱そうものなら、うねる体に巻き込まれ絡め取られてしまうだろう。広い場所ならともかく、舞台の上では動きが制限されてしまう。ここは広い戦場でないのだ。しかも観客を巻き込む危険すらある。こうなったら……、



「絶空八刃!!」



 体は不調で額冠を付けていない今は完全に効果を発揮できるとは言えない。だが、やらねば負けて、魔神の企みが成功してしまうことになる。それだけは絶対に避けないといけない事態だ!



(バシャアアアアッ!!!!!)



 俺の放った見えざる刃で水蛇は切り裂かれ、元の水塊へと変わった。水塊を伝って術者であるアンネにも斬撃が浸透し、ダメージを与えた。その衝撃からか、切り口から次第に体が崩壊しようとしていた。おかしな壊れ方だ。アンデッドだからこんな結果になったのだろうか? 何か引っかかる……。



「ぎゃああああっ……、」


「あああっ……なんてな!!」



 正面の離れたところで崩壊していっていた……はずだが、急に断末魔の叫びが背後のすぐ近くで聞こえ始めた! 気付いたときにはすでに遅く、背後から羽交い締めにされてしまった。どういうわけか、アンネが背後にワープしていたのだ!



「ハハハハッ、騙されたな! あちらにいたのはダミーの体だ! 私の本体は先回りしてお前の背後にいたのだ!」


「くそう! あっちは偽物だったのか!」



 なにか壊れ方がおかしいと思ったら……泥が崩れるかのような壊れ方だった。アレは泥人形だったんだ! 忘れてたよ、この女、水属性だけじゃなくて地属性も使いこなす魔術師だった!



「見事なイリュージョンだったろう? これもあのお方、アイローネ様のお力添えがあったからこそ実現した妙技だ! 一級の幻術師の手にかかれば勇者でさえも欺けるのだ!」



 アイローネは幻術に長けた魔神だという。学院の探知も掻い潜り、聖都の聖なる結界すらすり抜けるという。存在、気配すら欺ける恐るべき魔神なのだ。その眷属にもその力を分け与えるほどの実力者なのだろう。手強い相手だ!



「フハハハっ! 動けまい! 今の私は貧弱な人間から超越した水邪へと生まれ変わったのだ! アンデッドだと勘違いしているようだが、そんなものとは一味も二味も違う! 私はデーモンの眷属になったのだ!」


「ありゃりゃ、それはご愁傷さま。とうとう人間やめちゃったんだ?」


「人間の体に未練はない。こんなにデーモンの力は素晴らしいのだからな! 女の私でも貴様を捕縛し動けなくするほどの腕力を有しているのだからな!」



 確かに凄まじい腕力だ。逃れようとしても、まるで岩がくっついているかのようにビクともしない。剛力の大男とかゴリラ(ハハッ、ゲイリー!)を連想させる力強さだ。でも背中に伝わってくる感触は女のままだけどな。



「あのさあ、早く放してくれないと困るんだけど?」


「それは良かったな。丁度いいではないか。これから命を失うのだから、困る必要などなくなるだろう!」


「こんな事してると、疑われるんだよねえ。他の女とベッタリくっついてるって知られたら、後のフォローが大変なんだぜ?」


「この後に及んでふざけたことを! 二度と口を聞けないようにしてやる!」


「そうなるのはそっちの方だぜ?」


(パシュン!!)



 アンネの体に振動が伝わった。それと同時にアンネの腕の力が抜けていった。一足遅かったが、十分に波動が伝わったようだ。……絶空八刃の斬撃の。



「かはっ!? 馬鹿な!? 何をしたのだ? 優勢なのは私だったはず?」


「あのときの斬撃の余波が遅れて伝わったのさ。武器や術を伝って波動が伝わる。一度食らったら、絶空八刃からは逃げられない!」



 これはこの前、黄ジイから教わった天破奥義だ。絶空八刃はその名の通り、空をも切り裂く奥義だ。その勢いの波動を極限まで行き渡らせ、効果を永続させる事が出来る。それが、”波紋震倒(はもんしんとう)”の極意だ!

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