表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/410

第146話 姉なんていましたっけ?


「ゆけ!、炎の鳥よ! 舞台もろとも焼き尽くすのだ!」



 相対した謎の魔術師は魔力で作り出した炎の鳥で俺を豪火に包もうとする。公演の真っ最中に観客を巻き込みかねない危険な魔術を躊躇いなく使用している。これは演出だと誤魔化しが効かないレベルの魔術で事故を装って俺達を始末するつもりなのだろうか? だが、俺がユニットに加わっていた事を計算に入れていなかったようだな?



真空(ブオート)!!」


(バシュウウウウウンッ!!!!)


「な、何!?」



 俺の魔術の行使によって炎の鳥は勢いを失い、次第に収縮していった。限定的に真空状態を作り出し、炎の元素の力を弱めたのである。炎と風の属性はそれぞれに影響を与えうる相互関係を持っている。風の元素を炎の元素に食わせれば炎の勢いは強くなり、風の元素の供給を断てば、弱めたり消したりすることも可能なのだ。うまく組み合わせれば互いの効果を強めたり弱めたりすることが出来る。



「貴様! 風の魔術師か! よくもやってくれたな!」


「今頃気付いたのかよ? 戦う前に相手の属性を見極めるのは基本だろう? テメエ、本当に魔術師か?」


「フン! 見極めずとも、圧倒的な我が魔力の前には如何なるものもひれ伏すのだ! 相手の属性を探るなど二流、三流のすることよ!」


「その割には三流如きに魔術を無効化される間抜けな一流がいるんだな? 一流の喜劇役者と間違ってるんじゃないか? 転職することをおすすめするぜ。」


「な、なにを〜っ!?」



 ステレオタイプな炎属性の魔術師だな。魔術師の間では大抵、希少が激しく派手好きで思慮が浅い者が多いと言われている。ただの偏見、レッテル貼りではあるが、見事にこの男はそれに当てはまっている。これほどおめでたい奴とやり合う羽目にあうとは、もしかしたら本当に喜劇役者なのではないかとも思えてくる。



「風の魔術師……? エルフ……? 貴様、まさか、フェルディナンドの血縁者か?」


「勝手な憶測はよしてもらいたいものだな。風属性を操るエルフ魔術師なんて、そこら中にいるだろう?」


「いいや、俺の勘は当たっているはず。貴様にはあの男の面影がある。」


「他人の空似だろ?」



 思慮が浅い三流の割には妙に勘だけは良い奴だな? たしかこの男……ファイヤーバードとか呼ばれていたな? コイツは例のフェルディナンドの弟子だったDLCとかいう連中か? たしかそんな名前の男がいたはずだ。あの男の過去を知る数少ない生き証人と言ったところだろう。まあ、すでに死んでいるがな。



「さては貴様……フェイシア・A・シオンだな?」


「な……!? 何故、お前がその人の名前を知っている?」


「フェルディナンドの周辺情報を漁っていたときに偶然発見してな。ヤツの資料、特にヤツが本来の肉体を持っていた頃の物には頻繁に出てくる名前だった。初めて見たときは驚いた。」


「趣味の悪い男だな。他人のプライベートなんぞ探るようなもんじゃあないぜ。」


「フェイシア……あの男の実の姉だ。しかも大層なシスコンだったようだ。あの男の恥ずかしい一面を見たときゃあ、腹がよじれて死ぬんじゃないかと思った!」



 もちろん、俺はフェルディナンドに姉がいたことは知っている。シオン一族のごく一部の人間、当主候補の人間しか知らない情報だ。彼女に纏わる逸話についても……。



「あの男の不老不死研究のルーツを知っているか? いや知っている筈だよな? その研究の成果である、貴様がここにいる事でそれを証明しているのだからな。」


「……。」



 今よりはるか昔に仲の良い天才魔術師の姉弟がいた。暗黒と呼ばれた時代に様々な困難を乗り越え、名を馳せていた。同時代の英雄たちとも肩を並べ、共に戦い抜いたという。しかし、それも長くは続かなかった。姉の方が闘いの末に命を落とすことになったのだ。


「奴め、ついに不老不死研究の果てに死者蘇生復活を成功させていたのだな!」


「そんなわけあるかよ……。」



 姉の死、それがフェルディナンドを狂わせる結果になったという。その事件がトリガーとなって、奴は不老不死研究に明け暮れた。いや、正確には賢者の石(スカーレット・コア)”を作り出すための土台作りだと言ったほうが正しい。



「おのれ口惜しい! 俺達の成果を元手に得られた産物をつまらん目的に使いやがって! 我らDLCデッド・ランド・カンパニーならば、理想の世界を作り上げることも出来たというのに!」



 生命を運命を操り、創造する手段として”賢者の石(スカーレット・コア)”を生み出す事を考えたのである。神となり、魔術師にとっての理想の世界を作り終えた末に、姉を再び現世に呼び起こすことを考えていたのだろう。これはあくまで推測に過ぎないが、本人と相対した結果、それが目的なのだと悟ったのだ。世界を犠牲にしてまで最愛の姉を追い求めようとしていたのだ。まったくもっておぞましい事実だ。



「つまらん目的に使ったことを非難するのには同意するぜ。だが、テメエも大して変わりないぞ。」



「ええい、黙れ!」



 フェルディナンドの弟子たち、奴らは様々な分野の魔術のスペシャリストだ。この世の理すら変革するとも言われる”賢者の石(スカーレット・コア)”。それは様々な次元を極めた魔力の結晶ともいえる物質だ。太古の魔術師が作り出したそれは、後の時代に世界の命運を変えることにもつながった。

 

 それは時代を経て、”デーモン・コア”と呼ばれる事になる。この話は我が一族に伝わる世界の極秘事項 トップ・シークレット だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ