第144話 7万8千ゴールドになりまぁす♪
「ちょ!? なんか出入り口に鍵かかってるんすけど!!」
「フハハ、甘いな勇者よ! 王の間からタダで出れると思うたか? このアホウの鍵を使わねばならぬぞ? どうする、コマンド?」
とうとうリーダー不在のまま、俺達のユニットの公演が始まった。冒頭部分の王宮でのやり取りは、俺が勇者、王様はタニシという配役で進められることになっている。我がパーティーのアホアホコンビが観客を笑いの世界へと誘う!
「く、くそう! 騙された! その鍵を下さい!!」
「7万8千ゴールドになりまぁす!!」
「ちくしょー、足元見やがって!!」
(ドッッッッッッッ!!!!!!!)
涙する人たちで溢れていた劇場は一転して笑いに包まれていた。悲劇の後に喜劇を上演するなんて、ある意味、相当無茶な事をやっている。幸い、この公園の前に昼食タイムがあったおかげで多少はインターバルを設けることが出来ていた。一応ウケてはいるが、声の度合い的にややウケな感じがする。まだ序盤だ。これから巻き返して笑いの渦に巻き込んでやる!
「竜帝を倒しに行く前に借金を背負わされるとは! しかも、支給された武器が竹竿って、どういうこと!!」
(ドッッッッッッッ!!!!!!!)
「あああ!? それ加えて、なんかアホウの鍵が手から離れない! 呪われてんじゃないか?」
「ホウホウ、若い人、お困りのようですな? ここは私が呪いを解いて差し上げましょう!」
続いて場面は城下町へと移り、メイちゃん演じるおばあさんが登場した。本来ならカットする予定のあった場面だが、プリメーラ不在の影響で勇者のセリフを少しでも減らすために採用される結果となった。勇者の出番は減ってないが、代わりに勇者の独り言パートのシーンを減らしている。やらなくて済んだけど勇者の独り言が続くって、どういう演劇なんだよ……。
「ムムッ!? あなたはいずれ竹竿に人生を救われる事になるでしょう! ……こんなん出ましたけど?」
「の、呪いは? それってただの占いじゃないの?」
「当たるも八卦、当たらぬも八卦ネ!」
(ドッッッッッッッ!!!!!!!)
ここでミスター珍の口癖を取り入れてみた。本来なかったセリフだが、メイちゃんのアイデアで採用した。打ち合わせや稽古中でメイちゃんがたまに言って、俺らを笑かしてきたので面白いと思ったのだ。なんか珍から聞かされて以降ツボに入って気に入ってしまったのだそう。メイちゃんにもひょうきんな一面があることに驚いたもんだ。
「いじめないで! ぼく、悪いスライムじゃないよ!!」
『スライムはベゴラマの呪文を唱えた! 勇者に999のダメージ! 勇者は死んでしまった!』
「ほげぶーーっ!!??」
「おお、勇者よ! スライムにいじめられて死んでしまうとは情けない!」
(ドッッッッッッッ!!!!!!!)
観客にはバカウケのようだが、なんかよくわからないシーンだ。ベゴラマとかいう魔法もそうだが、スライムって何? 出くわしたことがない怪物なので想像がつかない。なんか雫状のゆるいキャラクターみたいなのに一方的に屠られる場面なのだが納得がいかない。実在するんなら絶対に出会いたくないモンスターだな。
「ピア港連続殺人実験の調査をしています! 事情聴取にご協力願えないでしょうか?」
「いや、今、急いでるんで!」
「そこをなんとかお願いします! こっちもクビがかかってるんで!」
「ああもう! こっちは世界の命運を賭けた闘いをしてるんで!」
「いや、協力して下さい! こっちは何人か死にかけてるんで!」
「いやだから、世界が滅んだらもっと人が死ぬかもしれないんですよ!」
(ドッッッッッッッ!!!!!!!)
なんか頻繁に連続殺人実験の下りが出てくるんだな? ファルが扮する謎の匿名捜査官と押し問答を繰り広げるシーンだ。三者会談のときだけかと思ったら途中で言及されるなんて。ファルも案外ガチな剣幕で食いかかってくるので、俺の演技にも思わず力が入る。稽古ではサラッと流していた部分だったが、本番ではこの通り。ビックリだよ。
「じゃあ、もういいですよ。あなたがボスでもいいですよ? どうします、ボス?」
「なんでお前の上司にならないといけないんだぁ! こっちは急いでんの! 遊んでる暇なんてないんだよ!」
「あ? そんな事言うんだ? だったら、ネタバレしてやる! 犯人はヤス!!」
「あああ!? なんてこと言うんだ! 取り返しのつかないことを! 冒険の書が消えたときくらいの喪失感だわ!!」
(ドッッッッッッッ!!!!!!!)
最早何度も出てくる謎ワード、”犯人はヤス”。連続殺人実験の犯人とされる人物だが、エニッコス伝説にはよく登場する人物らしい。原点であるⅠでは謎の匿名捜査官として登場する。毎回、顰蹙物の行動を取ることで有名らしい。
Ⅰではネタバレ発言だが、Ⅱでは誰にもわからないような所に重要アイテムを持って隠れているらしいし、Ⅲでは屍のふりをしてスルーしようとしたりで、なんかイラッとくる性格となっているようだ。
「フフ、お取り込み中のようだけど、邪魔をさせてもらうわよ!」
ここで謎の女の声! 何か魔術師風の格好をした男女二人組が舞台袖から現れた。たしか、ここでモンスターとの戦闘をするシーンが始まるはずだが、打ち合わせの内容と違う。役者が足りないのでハリボテの貧乏神の騎士が現れる手はずとなっていたが、アイリの提案で役者の助っ人を出すとは聞いていたが……? しかも、女の方はどこかで見覚えがあるような? はて?