表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/410

第143話 結局、ご都合云々より思い出補正


「くぅぅ〜! 涙がちょちょぎれるでヤンスぅ!!」



 アイリ達の公演は終わった。そのクライマックスの直前からタニシとメイちゃんが号泣していた。二人の目には涙がとめどなく溢れ、滝のように流れ続けている。タニシなんて同時に鼻水も垂れ流している。さすがの三大悲劇といったところだが、タニシの泣く姿がその感動を台無しにしてしまいそうなくらい、顔がグジャグジャになっている。俺はそれを見てドン引きしているので泣けない……。



「二人共、俺と違って何回か見たり、読んだりしてるんでしょ? そこまで泣くのは大げさすぎない?」


「不死鳥さんが救われないので、何回見ても絶対泣いちゃうんですよ。」



 メイちゃんは割と人情話とか悲恋をテーマにした物語とか演劇とか見たりしているらしい。普段のちょっとした感動を見たり聞いたりしたときでも泣くというくらいである。彼女はそれくらい涙脆いのだ。



「ふしちょうるふぅ!! ブベギギャボボfんえjghjんtjm!!」



 ちょ……タニシ何言ってんのかわかんない。涙と鼻水で不適切なノイズを発生させている。タニシもこの通り感動の名作で涙を流すほど、感情表現が激しい。メイちゃんのようにしょっちゅうではないが、時々、名作を楽しんだ後は余韻に浸りすぎて、涙と鼻水の大洪水状態を引き起こすのだ。まあ、ぶっちゃけ、きちゃない!



「宿敵、オメガの騎士の正体が主人公の兄だったとはね。しかもほぼ相討ちになって主人公が廃人になるなんてホントに救いがない話だな。」


「だからこそ三大悲劇の最高峰とも称されているんだ。劇作家ゾーク・ラテスも徹底してご都合展開を廃して仕上げたからこうなったらしい。」


「ご都合主義を失くした? 希望的な展開が無くて、胸糞な鬱展開ばっかりだったのはそのせいか。」


「しかも、本人は当時、鬱病を煩っていたと言う説もあるくらいなんだ。スポンサーからの要求は常に”誰もが感動できる大作”だったからな。常にそんなのを作り続けていたから、次第に心を病んでしまったらしい。徹底的に希望の一点もない悲劇を仕上げたそうだ。」



 なるほど。作家自体が心を病んだ末に作り上げた作品なのか。あまりにも無茶な要求と作家の創作意欲がぶつかり、精神が歪んだ結果、自暴自棄で書き上げたに違いない。”誰もが感動”の要素を”誰もが泣ける、絶望する”に変換した上で作ったのだろう。意味的には逸れていない。”感動”に対しての解釈を変えたという感じがした。



「でも、ご都合主義を廃した事になってるけど、いい意味でのご都合だけだろ?」


「は? どういう意味だ? 何が言いたい?」


「いやさ、悪い意味のご都合は全開じゃないの? 徹底的に悪い方向に話は進んでいるし。」


「そういうのは”ご都合”とは呼ばないのさ。ご都合主義ってのはあくまで見てる側がら、捜しのために作り出したクレーム要素みたいなもんだからな。そういうこと言ってりゃ、通ぶれるていう風潮が作り出した用語だ。」


「ふーん。ひねくれたマニアみたいなのがいるんだな。メンドクサイ奴らだなあ。素直に物語を楽しめばいいのに。」


「こじらせたら、そうも言ってられないのさ、連中は。きっと奴らのプライドがそれを許さないんだろうぜ。」



 なんか食通の話と似たような感じだな。下手に舌が肥えてしまうと質の悪いものが許容できずに食べられなくなるみたいな? なんか食材の良し悪しだけで料理の質が決まると考えるようになると。



「でも結局、作家先生も最終的に丸くなって作風がマイルドになるんですよね?」


「あぁ? 何の話をしてるんだ、お前は?」



 そいでもって、至高とか究極(親子喧嘩)だの言って争い合うようになり、てっぺん取る(食戟)ために奮闘したり、最終的には|思い出補正《〇〇さんの鮎はカスや!》には勝てないという結末に終わる。……アレ? 何の話だったっけ? 思わず思考が脱線しておかしな世界に行ってしまいそうになってしまった。



「あと気になった事があるんだけど、オメガの騎士とかオメガ一族って実在したんか?」


「ああ、奴らか? 由来については謎だな。魔族とは異なる闇の力を使う一族。歴史上での存在は証明されていないが、世界各地に似たような連中の伝承は残っている。あくまで脚色、演出を盛り上げるためにでっち上げたフィクションだろうよ。」


「なんだ? 俺としては蚩尤一族みたいなのが他にもいるんかと思ってしまったじゃないか。」


「んなわけないだろ。天空から凶星(メテオ)を召喚してそれを大地にぶつけようなんて真似が誰に出来るんだよ? そんな大それた魔術はこの世に存在しない。」



 クライマックスで追い詰められたオメガ一族が星を落下させて世界を破滅させようとする描写が入る。その星はそもそも連中の要塞として利用されていたようだが、負けそうになり発狂して道連れにしようとした結果、そういう展開になったのだ。


 落下阻止を巡って主人公とオメガの騎士が最終決戦を行うことになり……悲劇的な結末を迎えたのだ。世界滅ぶし、主人公は命を取り留めるも、心は壊れ、異次元世界に放置されたままになるわで、色々やるせない。まあ、世界が壊れずに残っているからフィクションなのだとわかるんだけれども。でもオメガ一族のモデルになった奴らは少なくともいるんじゃない?と思ったわけだ。



「あくまでご都合主義を極限まで廃した結果、そうなっただけだ。本当のことを知りたきゃ、歴史を勉強するんだな。」


「ですよね〜!」



 まあ、そりゃそうなんだが。ごもっともです。とはいえ、所詮、歴史もあくまで後世の人が編纂した記録でしかない。真実とは異なる可能性がある。だって実際に見た人は誰も生きていないんだし。ん? 一部いるか? 石に閉じ込められた賢者とか、古竜族のロリババアとか。知り合いに何人かいるの思い出したわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ