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第142話 遡ること千年、暗黒と評された時代


「うーむ、やっぱ、いかにもプロの劇団がやるみたいな空気感が漂っているな。」



 今回のイベントの公演順はアイリたちからだった。一本目は俺達から、二本目は直接対決という形だったので、エキシビションという形で先に前座試合をしたのでアイリたちからだった。今回たまたま、向こうからだったのでプリメーラを待つことが出来ているのだが、公演の内容を考えればちょっと不利だと言える。


 先に評判のいい公演をされてしまうとこちらがやりにくくなるのは目に見えている。ただでさえあちらは公演の経験を積んでいるのだ。ほぼ素人だけの俺達ではクオリティに差があるのは明白だった。それでも敵さんの事が気になるので、俺達も客とは別席のところでその様子を見ている。



「ところで不死鳥の騎士っていつ頃の話なの?」


「設定上は今から約千年前ってことになっている。中世期の暗黒時代が舞台なのさ。」


「あ、暗黒時代? そんな物騒な時代があったの?」


「魔王軍との闘い、遊牧民族による侵略、疫病の流行が重なった時代だ。今よりも遥かに物騒で荒んだ時代だったと言うぜ。この演目はその時代を象徴する逸話だったと聞くな。」



 千年前か? その時期といやあ、俺の故郷でも、とある大国が衰退期に入っていたし、遊牧民族が大暴れして侵略を仕掛けてきたというのは共通の出来事なようだな。うちらの国は西方の国に侵略していた連中とは敵対関係にあったようだが、その隙を狙ってうちらの大国を侵略し、南方へ追いやる結果になった。


 その後、百年に渡って統治していたがライバルの民族に逃れた大国ともども滅ぼされる事になった。その時代は世界全体が荒れていたんだな。そりゃ暗黒とか言いたくなる。……とはいえ、流派梁山泊の前身となった組織はその頃に設立されたらしいけどな。そう考えると胸熱な時代だったともいえる。



『……兄上が死んだ今、僕はこれからどうして生きていけば良いというのだろう? 不死鳥よ、僕を導いてください!』


「えぇ……!? 主人公の兄、ここで死んでしまうん? なんかこれから兄弟愛で色々乗り越えていく展開だと思ってたのに!」


「ハハ、この話はひたすらに陰鬱な展開が続くぞ。伊達に三大悲劇を名乗っちゃいないよ。こんなのはまだ前座に過ぎないぜ。」



 正直、ドン引きしそうになる展開だった。主人公の国が魔王軍の侵略によってt台な打撃を受け、父王があっけなく戦死、兄が奮闘し、主人公を守り抜くも、強敵と相討ちになり息絶えた。その後、主人公が不死鳥の力に目覚め、敵軍を敗退させたが国の滅亡は防げなかった。幼い主人公は全てを失ってしまうのだった……。これでもまだ話の序盤らしい。こんなん悲しすぎやん……。



『僕も亡くなった兄上と同じ年になった。様々な困難を乗り越えてきたが、兄上の様な立派な騎士になれたのだろうか?』


「いきなり話が飛んで主人公が大人になったッ! こっからどうなるんだ?」


「ここから、ライバルとも言うべき拳王が登場するぜ。」



 なんか主人公の前に肉襦袢でマッチョな体を再現した演者が登場した。恐らくこれが、拳王と言うヤツなんだろう。こういう役も聖歌隊の女の子がやるのね……。顔はキレイなのに不自然に筋骨隆々な肉体。すごくヘンな仮装にしか見えないが、演技の腕で不自然さはある程度解消できている。あの子、演技力半端ないな。



『ヒョロいお坊っちゃんよ! そんなヤワな体で俺に敵うと思うなよ!』


『体格で敵わずとも、切磋琢磨した剣技と不死鳥の加護があるッ! お前には負けないさ!』


「あのマッチョ、魔法使えんの? それともこれはタダの演出?」


「いや、一応記録上の拳王も地属性魔術の使い手だったと聞くぜ。徒手空拳で戦う分、武具の代わりに嵒鐵外装(ストーン・スキン)を体に纏わせていたらしいぞ。」


「記録上って、実在の人物なんか?」


「ああ。拳王って異名の由来はコロッセオでの拳闘技チャンピオンだったからなんだ。常勝無敗の、まさに王者だったんだぜ。」



 実際の出来事を脚色したのがこの演目らしいのだが、割と架空の人物が多い中で重要ポジな拳王は実在の人物がモデルになっているらしい。なんかワクワクする話だな。



『兄さん? アンタが兄さんなのか? こんな所で出会えるなんて!』


『どうやらそうらしいな? 俺も知ってビックリだったぜ!』


「これどういうこと? 拳王が兄って? 見た目、最初に出てきた兄と人相違い過ぎるやん?」


「冒頭の奴とは別人だ。つまり他にも兄がいたってことだ。あの二人には異父兄弟説があってだな、その言説を設定として採用してるんだ。実は元の兄も異母兄弟なんだな、これが。」


「つまり、主人公の母って、ビッチってこと?」


「まあ、昔の話だからな。主人公の母は各地でいろんな有力者と子を成したという逸話がある。ホントかどうかは証明されていないが。」



 ヤバイなあ。まさかの展開がボンボン出てくる。そりゃ三大悲劇にも数えられるわけだ。色々やるせない設定が出てきて、見てる人間をハラハラさせる。この後はどんな展開が続くんだろう? あれ? なんか女性の人物が登場したぞ。しかも耳が尖っている!


「おい! あれ、エルフ美少女じゃないか! アレ、もしかしてヒロイン?」


「いや、あの女は拳王の惚れた女だ。逆に本人は主人公に惚れちまって見事に拳王の恋敵となってしまうわけだ。」


「あれも実在の人物?」


「さあな。架空の人物だろ。」



 ファルは興味なさそうに話を切った。容姿とかはまさに今の、美少女になったファルとイメージが重なっている。これで実在の人物ならご先祖様だった、と言っても違和感がなさそうだ。でも、本人は否定している。所詮フィクションってことか……。

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