表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/408

第140話 陽はまた昇る


「何が覚悟よ! そんなのただの大人の理屈じゃない! 納得できないよ!」



 汚れた世の中なんて自分には関係ない。こんな嫌な思いをするだなんて知っていたら、勇者になりたいとか、トップスターになりたいなんて思わなかった!



「お前は逃げると言うのだな? 自分の夢、理想から。そして、仲間や助けを求める親友からも。」


「……!?」



 もう夢とか理想とかはいらない。でも親友……? 助けを求めている……? 誰の事を言っているのだろう? ロアンヌとか〇〇子ちゃん? いや、違う。あの二人は私に助けを求めるような人たちじゃない。助けられているのは……いつも私。じゃあ、誰?



「お前と夢を誓い合った親友は今、皮肉にもお前とは対極の位置にいる。」


「……。」


「どういう切っ掛けかは知らぬが、彼女は悪魔と契約してしまった。その結果、聖歌隊のトップへと上り詰めることになった。それと引き換えに身も心も悪魔と同化してしまった。」



 アイリの事を言っているのは間違いなかった。聖歌隊入隊直後から夢を一緒に話し、共に目指そうと約束して、厳しい訓練聖時代も頑張ってきた。私達二人はスタートも同じだったから、何もかも同じで差はないと思っていた。でも、彼女はいつも自分には才能がないと落ち込んでいる事が多かった。必死に私は彼女を励ましながら、辛うじて続けていくことは出来ていた。その日々を続けているうちに、いつの日か、あの子は豹変してしまった。



「周囲の人間が気付かない中、お前だけは彼女の変化に気付いていたのではないか? 共に苦難を歩んできたお前だからこそ、わかるものがあったはずだ。」



 何か急に決意を決めたというか、あの日を境にあの子は落ち込んでクヨクヨすることがなくなった。逆に私が叱咤激励されることのほうが多くなったんだ。急に意識が高くなって強くなったとかそういうのじゃなくて、何か狂気みたいなものに取り憑かれているんじゃないかと思えるようになった。怖かった。次々とトントン拍子に上達して実績も出して、私とは違う世界に行ってしまったような気がして、次第に疎遠になっていった。



「なんで私の昔のことを知ってるの! 勝手に人の思い出を覗かないでよ!」


「すまんな。でも、これは仕方のないことなのだ。互いに勇者であるからには避けられない現象なのだよ。」


「……!? 勇者!? アンタ、何言ってんの?」


「わからぬか? お前は紛れもなく勇者としての素質を持っている。だからこそ起きる現象、勇気の共有が引き起こした必然なのだ。」



 もう意味がわからない。私の記憶を読み取った言い訳を始めたと思ったら、私には勇者の素質があるとか言い出した! 私をおだて上げて、上機嫌にさせた上で逃げ切ろうとしてない? これだから大人は汚いんだ! コッチがまだ子供だからって馬鹿にするのにも程がある! 許せない!



「フフ、お前は今、疑っているな? 私が虚言で誤魔化そうとしてると思っているな?」


「……!?」


「まあいい。そう思うのならそう思うが良い。だが、お前はそれを裏付けする出来事を体験しているはずだ。しかもつい最近とも言える時期にだ。」



 最近のこと? 何のことを言っているの? 思い返しても、勇者らしい事をしたなんてちっとも思い浮かばない。そもそも、そんな事が出来てるんならアイリとの勝負に一勝ぐらいは出来ていそうなものなのに!



「いいや、体験しているはずだ。その証拠に数々の者が目にしてもいる。そして私以外の者にも同じことを言われたのではないか?」



 もしかしてファル様に言われたことを言ってるの? あのときも言ったけど、無我夢中で真似をしただけだった。自分の思い描く理想の勇者像を思い浮かべながら、友達を守ろうとしただけだった。



「心から仲間を守りたいという思いが形になり現実にその奇跡を巻き起こしたのだ。あの技は素質がなければ放つことは出来ない。技のフォームは不完全とはいえ、発動させることが出来た。お前は光の力を体に宿しているのだ!」


「光の力? 私が?」


「もちろんそういった奇跡だけが証拠なのではない。あの男、ロアを初めて見た時、どう思った?」


「なんか、冴えないヤツが勇者の真似事してるな、と思った。」


「それこそが勇者の素質だ。額冠の効果を自然と跳ね除けている。魔術の心得がないというのにその現象が起きているということは紛れもなく、お前も勇者であるという証拠なのだ。」



 は? それが証拠だなんて言われても実感がわかない。もう何を言ってるのかわkらなくなってきたけど、不思議とこのオッサンが言ってることは嘘だと感じない。



「その素質を正しく使え。その力を使って親友を救ってやれ。後戻りが出来ない今、お前が手を下してやるのがせめてもの救いだ。悪魔や邪なる企みを持つ者共の動きをお前の手で阻止するのだ!」



 なんだか、よくわからないけど、私がやらないといけない気持ちになってきた。私はアイリの親友であることから逃げようとしていた。昔みたいに励ましてやらないと。そうしてやらないといつもおかしくなってしまいそうだったから……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ