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第139話 日が堕ちる前に


「なによもう! 言いたい放題好き勝手言ってくれちゃってさあ!」



 ミスター珍のところでヤケ食い祭りを終えてから、外へ飛び出し、これからどうするかを考えていた。でも、なんか、アイツのことばかりが頭に浮かんできて腹が立ってきた。地面に落ちていた小石を蹴っ飛ばし、アイツの顔だと思って遠くへすっ飛ばしてやった。



「なんで私の隠れ家に来ちゃうのよ! お前はストーカーか!」



 ロアンヌが私の居場所を突き止め、連れ戻しに来た。誰にも見つからない場所を選んだのに! なんで分かったの? アイツ、ただの馬鹿のクセに妙に勘がいい。普段は空気が読めなかったりで、場違いなことしてばっかなのにさ!



「しかも後輩のクセに人生の先輩ヅラしやがって! ムカつく! 次に会ったら絶対にぶん殴ってやる!」



 なんかさあ、必死に仲間ヅラしようとしてるのに、結局、上から目線だったのがムカつく! 何が「信じてる」だ! お前にそんな信頼なんかされてたまるか! お前にはまだ十年、いや、百年早いんだよ!



「でも、もういいや。私には関係ない話なんだし。もっと楽しいことを考えよう。」



 もう聖歌隊はやめたんだ。もう関係ないことは考えないでおこう。ムカつくだけだし、思い出すのは時間の無駄にしかならない。もう私は自由になったんだ!



「自由なんだ! 私の邪魔をする奴なんて誰もいない。」



 一人になったんだから、何をしたって構わない。でも何をしよう? 私は何をしたかったんだっけ? 自由になった途端に何も思い浮かばなくなっちゃった。やりたいことはたくさんあったはずなのに。



「自由になった途端に自分を見失ったか? 考えなしの感情に任せた行動が引き起こした矛盾だな。」


「だ、誰?」



 いきなり私の独り言に嫌なツッコミを入れてきた奴がいた。振り向いて姿を見ると、見覚えのある姿だった。声が似てると思ったら、アイツだった! 勇者が私の前に現れた!



「なんでアンタが? 結局、私を強引に連れ戻しに来たの?」


「お前は何か勘違いをしているようだな。私はお前が知っている、あの男ではない。」


「え? 何を言って……!?」



 姿と声はほとんどアイツそのものだった。でもなんか声は少し老けている感じがする。枯れた声というか……。それに雰囲気がまるで違うような気がした。何か凄い堂々としているというか、コレが本当の正真正銘の勇者という感じがする。アイツのなんか偽物臭い感じが全く無い。



「私は|ブレイブ・ザ・グレート《偉大なる勇者》。私はヤツの影武者とも言うべき存在だ。」


「影武者? そんな話聞いたことがない! 勇者はこの世に一人しか存在しないはず!」


「所詮、影であるが故、語られぬ存在よ。私は世界が危機に瀕した時、勇者一人だけでは対処できぬ問題が起きた時のみ姿を見せるのだ。」



 聞いたことないから怪しいはずなのに、語る言葉の全てに謎の説得力があった。そして、影とは言っているけど、その言葉とは対象的に、漂っている雰囲気は太陽そのものだった。真っ赤に燃える情熱が形になったような存在だった。



「話をお前自身の物に戻そう。お前は今、自分を見失っているな?」


「何よ、もう! 初対面の人間に対してそんな話するの失礼だと思わないわけ?」


「そんな物は百も承知だ。だが、お前をこのまま引き下がらせるわけにはいかないのだ!」



 初対面なのに、人のプライベートな部分に足を突っ込んでくるなんて! なんか馴れ馴れしいというか、全部最初から見ていたかのような口ぶりだ! こんなわけわかんないオッサンに何がわかるの!



「お前は今、真実から目を背けようとしている。困難から逃げようとしている。」


「う、うるさい! 別にいいじゃない! 私の人生なんだから!」


「そうか。本当にそう思っているのなら、何故、今の状況に罪悪感を感じているのだ? 見捨てた仲間、支える人々に対してわだかまりを感じているのではないか?」


「他人の事なんて関係ないもん! もう勝手に期待されたり、信用されたり、人から一方的に恋愛感情持たれたりするのがイヤになったの! みんな気持ち悪い! 大っきらい!」



 まただ! アイツと同じようなこと言ってくる! みんなして、なんで私に期待なんかするの? 私は私自身のなりたいものになるの! 誰かが思う何かなんかになりたいわけじゃない! 私にベタベタした思いなんかぶつけるな! 気持ち悪い!



「お前は元々、勇者やトップスターを目指していたのではなかったのか? お前は都合の良い部分だけに憧れ、負の側面を直視しようとしていない。」


「別にいいじゃない! 夢を見たって! 誰も汚いものなんて見たくないよ!」


「人の上に立つには、人から注目を浴びるためには、お前の言う汚いものを見る必要もある。それに対して正対出来てこそ、真のカリスマだと言えるのだ。」


「何よ……そんな嫌な事ばっかりしてたら、心が腐っちゃうよ! 嫌な人たちの汚い心に汚されちゃうだけじゃない! そんなの絶対、イヤ!!」


「ならばそれに負けないだけの強い心を持てばいいのだ! 何が何でも成し遂げる強い意志を! それが覚悟というものだ!」

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