表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/410

第137話 アイツが行きそうな場所は?


「どこへ行ってしまったんだ?」



 俺は飛び出していったプリメーラを探すために、あちこちを彷徨い歩いた。痺れの残る体にムチ打ちながら奔走する。焦るが一向に見つからないので、気持ちが空回りするだけだった。



「アイツが生きそうな場所は……?」



 記憶を頼りに色々思い浮かべてはみるが、すでに回った場所ばかり。そして、その候補があまりにも少ないことに気付く。よくよく考えてみたら、俺らって出会ってから一月も経ってないじゃないか。思い出の場所とかそういうのを築く関係性というにはまだ早すぎる段階だ。まだそういう仲間意識を形成する仮定にいるのだということを思い知らされた。



「とはいえ、アイツが仲間であることには違いない。誰からどう言われようと、俺の仲間なんだ。」



 アイツから嫌われたとしても、後輩扱いされようと、共に戦う仲間であることには違いない。仲間が苦しんでいるときに本気で助けられないんなら、勇者を名乗る資格はないと思っている。それはヴァルと戦う時、エルを救う時、ミヤコを説得しに行った時、困難が立ちはだかる度に自分に言い聞かせてきたことだ。知り合ってから日が浅かろうと、責任は果たさないといけない。



「無理だなんて思えても、諦めるわけにはいかないんだ。」



 今まで聖歌隊として過ごしてきた日々を思い浮かべ、それに関連する場所ばかり探していた。でも今、そこを探したのは間違いだったのでは、という考えが頭によぎった。今駆け出していってしまったアイツは聖歌隊である自分を捨てた行動を取っているのではないか?



「そういえばアイツは時折、息抜きを兼ねてお忍びであっちこっちに遊びに行ってたんだっけ?」



 初めて会ったときもそうだった。ふざけた変装にもなっていない仮の姿で好物を食べに来ていた。後からロレンソに聞いた話だと、アイツは何か不都合な事実に出くわすとほぼ必ず宿舎をこっそり抜け出し遊びに行っていたのだという。とすれば、今回もそういう場所に行ってるのではないだろうか?



「ガツ森……? それもあり得るかもしれんが、あそこは遠い。とっさに感情的になって飛び込んでいける距離じゃないな。」



 だとすればどこだ? 他にも何件か行きそうな場所をロレンソから教えてもらってはいるが、そのどれもが他の街だったり、場合によっては他の地域だったりする。そこを手当り次第当たるには時間がなさすぎるし、もし仮にそうだったとしても、現在は移動中だろうから見つけるのは難しい。それに歩いていくわけにもイカンからファルに転移魔法や俺の異空跋渉を使わないといけない。



「近場でこっそり何かを食べに行けそうな場所は……?」



 口に出したところで、一つだけ思い当たる場所があった! ロレンソですら思いつかない場所……。それは……ミスター珍の店だ! 考えている途中からすでに路地裏に向かって足が動いていた。直感的に体も反応しているらしい。これは確実に的を射ている事の前兆だ。そうと決まれば、後は店に行くだけだ。



「英雄来る。やはりそういう結果になったアルね。」



 店先には待ち構えていたかのようにミスター珍が立っていた。走る俺の姿を見つけて呟いた。なんか来ることを予感してた様な感じだ。来ると思って待っていたのだろうか?



「単刀直入に聞くが、プリメーラは来ているか?」


「もちろん、来てるアルよ。今は中で一心不乱に食事してるアルよ。」


 ヤッパリ当たりだった。アイツがストレス抱えて駆け込んで隠れた上でヤケ食い出来る場所なんてここくらいしかない。俺が最初に来たときもプリメーラがしょっちゅう来ていると、ミスター珍が話していたしな。



「どうしてわかった?」


「占いの結果で知っていたアルよ。ワタシの占いは良く当たるネ。当たるも八卦、当たらぬも八卦ネ。」



 なんだかよくわからんが、予知されていたようだ。確か昔、占い師の婆さんもよく俺の行動を予知していたな。占い師という人種はだいたいそんなもんなんだろうか? それはともかく、プリメーラに対面する必要があるので、珍に案内してもらった。



「いた!」


「むぐっ!? なんでアンタがいるのよ!」



 ちょうど麻婆豆腐を口に掻き込んでいる所だった。一気に掻き込んで食べるような物じゃないが、刺激的な物を一気に食べて気を紛らわせようとしていたのかもしれない。



「こんなところまで追って来て、私をどうするつもり?」


「もちろん、説得しに来た。」


「無駄よ。私はもう決心したから。」


「じゃあ、戻ってくるのか?」


「違う! もういいの! 私は聖歌隊をやめることにしたの!」


「な!? 何言ってんだ、お前!!」



 ついさっきまで泣いていたんだろう。目とその周囲が赤く腫れている。そして、その瞳には何かを諦めたような、決心したかのような光が宿っていた。迷いのない目だが、その光には何か大切な物が失われてしまったかのように感じられるのは、俺の氣のせいだろうか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ