第136話 許容できるかできないかは、その人次第。
「もしかして聞いてた?」
プリメーラは答えない。でも、様子からして、アイリの件は耳にしてしまった事は間違いないだろう。目をカッと見開き、俺を睨みつけるような目付きで見ている。その目には怒りが宿っているのは明らかだった。
「どうして……どうしてアイリのことを疑うの!」
「いや……アイツはアイドルって割には異様に強いよねって話てただけだから……。」
「じゃあ、魔神とか処刑隊とかって言ってたのは何? おかしいよね? まるでアイリが人間じゃないみたいな話ししてたじゃない!」
「そ、それは……、」
入ってくる直前の少しだけ聞いてたとかじゃなくて、少なくともアイリに対しての疑惑の話は聞かれてしまったかもしれない。下手に誤魔化すとプリメーラから不審に思われてしまうかもしれない。どうしよう……?
「あくまで疑いがあるってだけだから、確定ではないぞ。もし本当なら大変だよね、どうしようかって話をしてただけなんだ。」
「嘘だ! 完全にアイリが魔族って前提で話ししてたじゃない!」
「ううん、まあ、ここは魔族であることを前提として行動しとかないと、向こうがなにか行動を起こしたときに対応できないじゃない? 被害者も多く出るのを防ぐために対処しようとしてるんだ。」
「ひどい! ライバルだけど、アイリとは聖歌隊に入ったときからの親友なんだよ? ずっと私はあの子の事を見てたし、努力してたのも知ってるもん!」
ずっと新人時代から苦楽を共にしてきた間柄だから、お互いのことはよく知っているのだろう。もしアイリが魔族であったとすれば、その過去、思い出が偽りのものと化してしまう。そのことを恐れているのかもしれない。
「もういい。ここからは俺も思っていることを正直に話す。このバカの言ってることは気にしなくていい。」
「ちょ、おま……、」
「ファル様までアイリの事を悪く言うの? ひどいよ!」
「別にひどいと思ってもらってかまわん。俺はそういう男だ。変に隠し事をしようとしたことだけは謝る。だが、聞いてしまったからにはお前にもそれ相応の覚悟はしてもらうつもりだ。」
ああ、もう! 俺が穏便に説得しようとしてたのに、ファルのヤツが開き直ってぶちまけやがった! 俺のやり方もうまくいかなさそうだったから仕方がないが、プリメーラは真実を受け止めきれるのか? こんな荒療治みたいなやり方では心に傷を追わせてしまうぞ!
「実際どうなんだ? お前もアイツが人間じゃないって疑いを持ってるんじゃないか?」
「そ…そんなこと……、」
うわぁ! いきなりヤバイ切り出し方しやがった! プリメーラにも疑いの気持ちの有無を聞くだなんて! プリメーラ自身はどう思っているのかは知らないが、疑惑の共犯に仕立て上げるかのような行いだ。ようやるわ、コイツ!
「少なくとも、つい最近、アイツの正体が怪しいって事実を垣間見たんじゃないか?」
「べ、別にそんな事は……、」
「あったよな? お前が勇者の技、シャイニング・イレイザーを使った時、何を見た?」
「……!?」
プリメーラは黙ったままだが、この一言にかなり動揺しているのは明らかだった。俺が戦車に追いつこうと奮闘している時、俺は夢を見ているものかと錯覚する出来事が起こった。あの時、プリメーラはシャイニング・イレイザーを放った! その時の彼女の額には輝く何かが顕現していた。あの輝きはおそらく……勇者の額冠だ。多分そうだ。そうでなければあの技を使うことは出来なかっただろう。俺との絆を通して勇気の共有現象が発現したから可能になった奇跡のはず!
「あの瞬間、紛れもなくお前が勇者になっていたのは疑うことの出来ない事実だ。お前の仲間を守りたいという強い思いが奇跡を呼び起こしたんだよ!」
「アレはただ無我夢中になって勇者の真似事をしてみただけだよ!」
「お前の思いだけじゃないさ。あの力が発現したのは相手が圧倒的な驚異、魔神だったからこそ発現した能力だ。ただの人間、邪悪な心を持った相手というだけではあんな軌跡は起きるはずがないんだよ。ましてや、お前が額冠の継承者じゃないのなら尚更だ。」
発現したからにはその条件が揃っていたのだという証拠が伴うはず。通常の相手なら光の力は必要ではない。相手が魔神だったから、その対処手段である勇者の技が必要になったのだろう。額冠が必要と判断したからこそ、その力を振るう資格のあるプリメーラに顕現させたんだと思う。
「嫌だよ! 例えそうだったとしても正体が悪魔だなんて思いたくない! 親友を信じたいの!」
「お、おい!」
(バーン!!!)
プリメーラは扉を勢い良く閉め、部屋を飛び出していってしまった。イカン、ヤバイ! すぐに後を追わねば! あんな状態で放おっておけば何をしでかすかわからない。なんとか説得して落ち着かせないと……。