第129話 かわいいは正義
「待望のエルフ美少女が……、」
俺が意識を取り戻し、一時間も立たないうちに大事件が発生した。前代未聞の珍事と言うべきかもしれない。これって、俺の中ではエルと初めて会ったときと同じくらいの衝撃かもしれない!
「キターーーーっ!!!!!」
タニシが体を震わせ溜めを作った後、一気に放出した! タニシは待っていましたと言わんばかりに煩悩を放出したようである。俺やプリメーラと違い、入ってきた時点である程度正体を察していたようだ。なんか妙なリアクションをしていたからおかしいと思った。それはメイちゃんも同じだった。話の流れで確定になった途端に解禁したのだろう。
「……でヤンス!! 苦節二十年、待望の、理想の美少女があっしらの目の前に現れたでヤンスぅ!!」
「うるさい。キモいことをいうな! ぶっ飛ばすぞ!」
「むしろ進んでぶっ飛ばされに行くでヤンス!! オナシャす!!!」
「ええい、寄るな! うっとおしい!!」
タニシはまるで飼い主に久しぶりに再会して歓喜する飼い犬のようになっていた。しっぽがグルングルン、今にもちぎれ飛びそうな勢いで回転している。興奮しすぎ! やめろよ! 俺も便乗して興奮したくなるだろ!
「あのさあ、どうして女になろうと思ったの?」
「だからお前が動けないから代わりに入ろうと思っただけだ! それよりもそのブサイクな面でニヤけるのをやめろ!」
「グヘヘ! いいじゃん! 別に女の子同士なんだし!」
「俺らの中身はどっちもオッサンだろうが! 見苦しくなるからやめろ!」
今は毒のせいであまり動けないが、なんともないのならべったりスキンシップしてやるのに! なんか俺、急にエルフ少女フェチになってきたかもしれない。なんかよくわからない性癖が開花してしまったようだ。
「プリメーラ、お前もなんとか言ってやれ! こんな事で弛んでて、次回の対決に勝てるのか、とな!」
「……。」
なんか、プリメーラは気の抜けたような惚けた顔を晒していた。目尻は垂れ下がり、だらしなく半開きになった口からは若干、よだれが漏れていた。ダメだ! コイツ、俺やタニシよりも重症かもしれない。
「もう勝てなくてもいいです……。」
「何を言ってるんだ! 因縁の相手に勝てなくてもいいっていうのか! しっかりしろ!」
「もう……ファル様の圧倒的大勝利で終了にしていいと思います! アイリもそれで納得すると思いましゅ!」
ま、ましゅ? ダメだ完全に壊れとる! 顔だけじゃなくて精神も崩壊しているようだ。崇拝していた男が理想の美少女に変貌してしまったことがあまりにもショックだったのだろう。かわいそうに。
「おい、しっかりしろ! お前がそんな事でどうするんだ! チームリーダーはお前だろ!」
「もう、リーダーの座はファルしゃまに禅譲しましゅ! かわいいは正義! かわいさの前には全てがひれ伏すのでしゅ! かわいいは全てを解決するのでしゅう!」
「ダメだこりゃ……。」
リーダーの座を譲るどころか、ファルだけを全面に押し出せば何でも解決するとまで考えている。正気の沙汰ではない。この壊れっぷりはヤバイ! タニシ以上にヤバイ変態が爆誕してしまった。これはちょっと某変態マスターに匹敵するレベルかもしれない。
「俺を矢面に立たせただけで解決すると思っているのか! 冷静になれ! お前はアイリとの誓いをわすれたというのか!」
「もういいでしゅ。それよりファルしゃま。私と結婚してくだしゃい! お願いしましゅ!」
「ええい、落ち着け! 気でも狂ったか!」
「むしろ、今までの方が狂ってたんでしゅ! 私は覚醒したんでしゅう!」
「なんかプリメちゃんが百合に目覚めてしまったでヤンしゅ。」
同性愛に目覚めてしまったか……。俺とは違う意味で……。ここまで人の性癖を歪めてしまうとはファルの奴は魔性の女の素質があったようだな。変なところで才能が発覚してしまったな。
「それはそうとして、演目に関してはあっしにいい考えがあるでヤンしゅ!」
「おっ!? とうとうPとしての本領を発揮するときが来たか!」
プリメーラがファルにデレているのを見て冷静になった俺とタニシは演目についての話を再開することにした。どうやらタニシは何かアイデアを持っているみたいだ。今までPとしての力を発揮しきれずにいたのが、ここに来てやっと活躍の機会を得たのだ。次は演劇だから思う存分活躍してもらいたいものだ。
「それは……勇者エニッコス伝説をやるでヤンしゅ!」
「何? あの傑作喜劇とやらを俺達でやるというのか?」
「しかも、あの、伝説のエピソードⅠをやるんでヤンしゅ!」
伝説のエピソードⅠ……? どんな話だっけ? 思い出せない。確かⅪまではこの前の話で語られていたと思うが、Ⅰだけは語られていなかったような? まあ伝説の、というからには何か事情があるのだろう。一体どんなエピソードなのだろう? 気になるところだ。




