第128話 このエルフ美少女は誰ですか?
「それが三本目の勝負の内容か……?」
俺はチャリオット対決の末に、狙撃されそうになったアイリを庇って何日も昏睡状態が続いていた。目覚めたのはほんの少し前。その後に状況を聞かされ、次の対決の事を聞かされていたところだ。更なる難題を吹っ掛けられた事に唖然としていたのだ。内容? それは……、
「演劇って……どうすんだよ? 俺、そういう経験一切ないんだけど?」
そう、次の対決は演劇の催しとなったそうだ。決着はチャリオット戦で決まったのかと思いきや、アレは引き分けという判定になったらしい。狙撃の件もあるし、アイリ側も勝ちとなるのは納得がいかないからということでそういう流れになったらしい。なので、一敗一分けということで三本目の対決で決着をつけることになったのだ。最終対決は勝利すれば2ポイントということになっており、俺らにもチャンスがあるということだ。
「何を隠そう、私もよ!」
「隠さんでもわかるんだが?」
「ナニソレ! どういう意味!!」
普段の様子を見ていたらそういう事はよくわかるんだが? 特に正体隠して変装しているときなんか特にそう! ミスターを名乗っているのに女そのままでいるし、途中で変装しているのを忘れて、素の状態に戻っているわで、演技なんて出来るとは思っていない。当然、俺も無理よ。
「経験がないって、普通に言ってますけど、まだ絶対安静ですからね?」
「ああ、いや、そうじゃなくて、もしやれてたとしたらという仮定で話しているので……。」
「なんかその自覚がないように聞こえますけど?」
「はは……。さりげなく演技の練習をしてみたんですよ。」
「……。」
メイちゃん、めっちゃ睨んできてる! 冗談は通じないらしい。とはいえ、安静にしとけというのはわかる。俺の体にはまだ毒の後遺症が残っている。まだ、頭が重くて働きが鈍いし、体なんて痺れが残っていて思うように動けないのだ。それがあるからこそ安静にしてないといけないんだと思う。
「とにかく言われた通りにしておけ。お前に出来る最善の行動はそれ以外にない。」
いきなり部屋に入ってきて話に割り込んできた人がいた。クールな佇まいの金髪が印象的な美少女。しかも、長く尖った耳。一目でエルフの美少女だと誰もが思う容姿だが、誰かな? こんな子、聖歌隊にいたっけ? 啓蒙活動で各地を飛び回っている売れっ子だというならわからんでもないが、そんな子の噂なんて聞いたことない。しかも、初対面なのに馴れ馴れしくない?
「あの……? どなた様ですか?」
「だいたいなお前みたいなモンが演技をしたところで大根程度が精々だ。後は俺やプリメーラに任せておくんだな。」
「プリメーラ? お前、こんな友達いたんか? 動けない俺の代理人の助っ人でも読んだのか?」
「私、こんなエルフ美少女知らないんだけど……。」
プリメーラが読んだ助っ人でもないらしい。じゃあ、他は? メイちゃん、タニシの顔を見ても、呆然とした表情を浮かべているだけで知っているという雰囲気ではない。メイちゃんは口元を押さえて目を見開いているし、タニシは口をパカッと開いてアウアウ言ったままになっている。彼女の美貌に目を奪われている様な感じだ。でも、解釈を変えるとこの子の正体を知っているから驚いているとも見れる。どっちなんだろう?
「あのさ? 君、誰? なんで俺らの事情にやたらと詳しいの?」
「で、どうするんだ? 演目の候補は決まっているのか?」
なんかこの子、人の話を聞こうとしない。聞いてるけど、聞こえていない振りをしている感じ。それでも、俺の声を聞くたびに長い耳がピクッと動いているので聞こえているのはまず間違いない。あれ……? こんな仕草はどこかで見たような気がする? 割と身近にいたような気がするが……?
「候補は……まだ決まってなくて……アイリたちは❞不死鳥の騎士❞をやるつもりらしいけど。」
「なるほど。演劇脚本の傑作を持ってきやがったな。こっちもそれなりのやつにしないと、張り合えないぞ。」
❞不死鳥の騎士❞? ナニソレ? また知らない単語が出てきたぞ。そんな有名な話という割には俺は一度も聞いたことがない。みんな知っている様子でエルフ美少女の話に耳を傾けている。しかし、いきなり知らん人が場を取り仕切っている事に違和感を感じないんだろうか? 俺はこの子のことが気になってしょうがないんだが? いや確かに見た目からして引き込まれてしまうけども!
「ちょ! みんな待ってよ! この子が誰なのか、気にならないの? 初対面のクセに仕切ってるっておかしくない?」
「……うるさい。俺が誰だって別にいいだろうが! それよりも演目はどうするんだよ!」
「……!?」
え? そのなりで一人称、❞俺❞? まるで俺みたいじゃないか! そんなのは元々男だから許されるのであって、こんなかわいい美少女が言っていいはずはない! まあ、ちょっと短髪なのでボーイッシュに見えなくもないから、似合わなくもないんだが……? え、でも、、待てよ? 元男……? ん?
「まさかと思うが、もしかしてファルちゃん?」
「なんだよ! 今頃気付いたのかよ! 別にいいだろ! お前がそんなんだからいけないんだよ!」
『何ぃーーーーーっ!!!!!!??????』
俺とプリメーラは顔を見合わせて叫んだ! その意外な、ありえない正体に驚愕した! 嘘だろ? 俺だけでも十分なのに、ファルまでもが女の子になってしまうとは……。