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第126話 天破奥義、跋渉歩法


「チクショウ! どうすりゃいいんだ!」



 アイリの幻術に嵌められ、俺だけ置いてきぼりにされてしまった。相手方の戦車も完全に止まってしまったので、あとは走って追いつくか、俺らの戦車が周回してこの場所に戻ってくるの待つしか手立てがない。



「異空跋渉を使うか? いやアレは合流に使えない……。」



 あの技は定点に移動する目的に利用できるだけだ。常に動き回っている人や馬、馬車などの乗り物を目標にして転移するような真似は出来ない。対象の場所をイメージ出来るからこそ可能なのだ。



「戦車を使うのはどうだ?」



 今は相手の戦車に乗っている。これが使えるんなら、俺らの馬車に追いつくのはさほど難しいことではない。馬は規定通り四頭繋がれている訳だしな。だがそれは俺が動かせることが出来たらの話だ。



「やれるのか? いや、やらなくてどうするんだ。」



 今、プリメーラたちがどうなっているのかわからない。聞こえてくる司会の実況からすると、大分追い込まれている事をうかがい知ることが出来る。俺のミスが招いた窮地なのだ。俺が責任を取らなくてどうするんだ? 俺は勇者なんだぞ?



「やれなくてもやる。それが俺の信条じゃないか! 仲間のために体を張らなくて、何を守れると言うんだ?」



 確かに俺は馬との相性が悪い。俺には無理かもしれない。俺以外の誰かの力を借りるんだ。プリメーラが戦車を操る姿はこの一週間ずっと側で見てきた。あの姿を思い浮かべて、それを再現するんだ! |勇気の共有《Cling Together》の力を使うんだ!



「さあ、お馬さん達、力を貸してくれ!」


(ペシッ!!)


「ブヒヒン!!」



 馬は不機嫌そうな素振りを見せて、言うことを聞いてくれなかった。そう簡単に都合良くはいかないか? 普段やっていることは自分個人で完結できる問題だが、今は違う。自分以外に馬が関わっているからうまくいかないんじゃないか? 人とは違い言葉で話して医師の疎通を図れるわけではないのだ。



「頼む! 頼むから力を貸してくれ!」



 気持ちは焦るが、一向に事態は好転しなかった。今すぐに仲間二人を助けに行かなくちゃいけないのに! 思いとは裏腹に現実は何も変わらず、気持ちだけが空回りするだけだった。



「自分で走るしかない! 変わらないことを言い訳に指を咥えてるだけじゃ何も変わらないじゃないか!」



 情けない自分に対してブチ切れてやった! 今は考えるよりも行動だ! こんなしょうもない事でみんなが犠牲になるような事はぜったいにさけないといけないんだ!



「間に合え! 間に合わなくとも、この勝負には絶対勝つんだ!」



 ここで負ければ、三本勝負は負け越しで終わってしまう。そうなれば何よりもプリメーラに迷惑がかかってしまうのだ。ここは絶対に勝つ! 走りながら、考える。瞬間移動みたいに早く移動できればいいのに! 瞬間移動……? そうか! 目的の場所に直接移動出来ないんなら、目に見える範囲で何度も瞬間移動を繰り返して近づけばいいんだ!



「跋渉……歩法!!」



 実践する段階で思い出したことがある。黃ジイの事だ。あの爺さんが異空跋渉を繰り返して打撃力に帰る技を披露していたことを。たしかその技の名前が、跋渉歩法だった。俺のじゃ、爺さんのには遠く及ばないが、これを洗練すれば正式な技として完成するに違いないと思う。あの超人絶技をここで再現するんだ!



「見えてきた! すぐに追いつく!」



 しかし、その目線の先には悪夢のような光景が写っていた。アイリが多重に分身し、プリメーラとメイちゃんを襲っている。一方的に雨あられの攻撃の連打を浴びせているのだ。このままではまずい!



「……ニング・イレイザー!!!」



 攻撃を受け続ける中で、プリメーラは起死回生の一撃を放った! しかも、その技はシャイニング・イレイザー、そのものだった! 同時にアイリも火球のようなエネルギーを炸裂させていた!



「……フィアンマ・イルジーノ!!」


(バァァァン!!!!)



 両者の技がぶつかり合い、プリメーラとメイちゃんが戦車の荷台から弾き飛ばされた。命に別状はないだろうが、阻止する事が出来なかった! 間に合わなかった! だが、何としてでもアイリは倒さないといけない!



「追いついた! 間に合わなかったけどな!」


「ぐっ!? いつの間に? しぶとい人は嫌われるよ!」



 アイリは片目を抑えながら悪態をついた。分身は全て消え、本人も負傷している。プリメーラのシャイニング・イレイザーで被った傷は深いようだ。試合が続行出来るとは思えない姿だ。今すぐ降参を求めないと大変なことになる。



「もうやめとけよ。無理はするな! そんな痛々しい姿でファンが喜ぶと思うのかよ!」


「降参しろと? バカをおっしゃい! このまま引き下がれるもんですか!」



 その時、アイリの背後、観客席の辺りから何かが光ったような気がした。アイリが狙われている? 俺はとっさにアイリを庇うように倒れ込んだ!



「あぶないっ!!」


「な、何を……!?」



 アイリを押し倒した瞬間、肩口に鋭い痛みを感じた。やはり誰かがアイリを狙って狙撃したんだ! その確信を感じたと同時に意識が遠のいていく。視界も狭まっていく。俺、死んだかな……?

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