第125話 その勇気は共鳴する!
「えっ!?」
アイリ達の戦車を追い越した時、〇〇子ちゃんが悲鳴みたいな声を上げた。なんだろう? 嫌な予感はするけれど、おかしなトラブルなんて起こるはずがない。すれ違う前にロアンヌとアイリが戦っているのは見たし、どちらかといえばアイリが劣勢に立たされているように見えたから心配ない!
「よくもまあ、だいそれた真似をしてくれたわね! 貴女達もただでは済まさないわよ! 惨めで屈辱的な敗北を味あわせてあげるわ!」
振り向くとアイリがいた。戦車の荷台に飛び移ってきた……? ロアンヌが引き付けていたはずなのにどうしてここにいるの? 信じられない光景に高鳴る鼓動を抑えられずにいた。どうしよう、大ピンチだ!
「プリメーラさんには手出しをさせません!」
「フン、貴女ごときが相手になると思って?」
〇〇子ちゃんはアイリへ果敢に挑もうとしていた。普段使っている錫杖を構えている。私が御者をしている関係上、そうするしかない。対するアイリは武器を手にしていない。レイピアはどこへやったんだろう? 素手で勝てると思っているの?
「そっちは武器を持っているのに随分と消極的ね? 無防備な相手に手を出すのは気が引けるのかしら?」
「ううっ!?」
アイリは素手で何も武器がないのに〇〇子ちゃんが気圧されている! 確かに今のアイリはすごい気迫がある。近づくのも怖いくらいの迫力がある。コイツにここまでのことが出来るなんて……。おかしい。なんだか私の知っているアイリではないみたいになっている。
「やる気が出ないなら、出るようにしてあげましょうか?」
アイリは不敵な笑いを浮かべながら、両手の平に魔力のオーラを噴出させて何かを形作ろうとしていた。細く長く伸ばして、剣のようなものを目の前に出現させた。
「ミラージュ・ブレイド。これは私のとっておきの秘技よ。ホントは貴女達ごときにはもったいないくらいの魔術だけれどね。武器を壊したロアンヌさんがいけないのよ?」
魔術で作った幻影のレイピア? そんな高等な魔術を使えるだなんて聞いてない! そんなこと出来るのはファル様くらい。あのお方と同等の魔術を使えるだなんておかしい! 私と天と地ほどの差があるじゃない!
「さあ、どうする? これで私を倒さないと貴女達二人とも大変なことになってしまうわよ!」
アイリは凄んで〇〇子ちゃんに切りかかる。目にも止まらないほどの素早い突きで翻弄し始めた! なすすべもなく、あっという間に〇〇子ちゃんが傷だらけになっていく!
「そら、そら! 早く降参しないと、更に目も当てられない無残な姿になってしまうわよ!」
なんだかドサクサに紛れて、〇〇子ちゃんの悪口まで言ってるような気がする。それよりも、このままだと〇〇子ちゃんが死んじゃう! どうにかしないと! もう戦車レースなんてどうでも良くなってきた!
「やめろ、バカ!!」
(ギィィィン!!)
考えている間に自然と体が動いた。腰に下げておいた剣を引き抜き流れるような動作で前に飛び出しつつこなしていた。そのまま、自分でも信じられないくらいの動きでアイリの剣を受け止めた。自分とは思えないような動きが出来てしまった。
「私の攻撃を受け止めるとは! 貴女、いつの間に剣術なんて覚えたの?」
「し、知らない! なんかやろうと思ったら出来たんだもん!」
本当にわからない。なんで自分に出来たんだろう? 私はただ〇〇子ちゃんを守ろうと、ロアンヌや勇者エニッコスみたいにやろうと思ったら出来てしまった。自分でも理由を知りたい! そんなことが何故出来たのか。
「みんな揃ってふざけた真似を! 絶対にただでは済まさない!」
わけのわからない理由でブチ切れたアイリは私に向かって剣を繰り出してきた。私じゃ絶対避けられないような攻撃をなんとか躱している! 直前まで見えてなかった動きが手に取るようにわかる。
「おのれ! こうなったら、私の秘技を見せてやる! ウッチェッロ・イルジーノ!!」
その瞬間、自分の目を疑った。アイリが6人になった! 6人に分身した! もうどうしていいかわからない! もうどうにもならない! 私ではどうしようもない!
「食らえ、私の秘技を! 思い知れ、私の真の力を!!」
(ザザザザザザザザザッ!!!!)
「うわああっ!?」
「きゃあああっ!?」
まるで蜃気楼のように映し出された虚像のような出来事だけど、はっきりと目の前で起こっている現象だった。痛い! そして動けない! なんだかもう意識が朦朧としてきた。でも、何か目の目で一筋の光が指したように見えた。導かれるままに剣を繰り出す!
「シャイニング・イレイザー!!!」
「グアっ!? バカな!? フィアンマ・イルジーノ!!」
私が勇者の一撃を繰り出すと同時にアイリも目の前に炎を出現させて爆発を起こした。その衝撃で私と〇〇子ちゃんは吹き飛ばされ、戦車から落下した。落下する途中でおかしな物を見てしまった。アイリの顔が半分……鳥のようになっていた……。