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第122話 何かお忘れ物が多いんじゃないかしら?


「あらあら、何かお忘れ物が多いんじゃないかしら?」


「な、何よ! 別にどうだっていいじゃない! そっちは試合ができれば文句はないでしょ!」



 俺が遅れて入場してくると、アイリが俺らの戦車の不自然な部分に疑問を投げかけていた。うん、まあ、想定通りだし、ツッコミどころ満載なのに突っ込まないほうがおかしいだろう。むしろ、逆にしれっと流される方がキツイかもしれない。それに対して、「文句あっか!」という強気な態度で受け答えしている。



「戦車の馬が一頭足りないのでは?」


「別に必ずしも4頭じゃないといけないってルールはないはずよ!」


「規定よりも多ければルール違反だけれど、減らすという発想はなかったわ。でも、それでは不利なんではなくて?」



 アイリの言う通り、減らせばその分、馬力が減るためスピードが出せないだろう。戦車を軽量化し乗る人数を減らすことで、軽量化と運動性を向上させる事も出来るだろうが、俺らはそういう理由で減らしたわけではないのだ。



「減らす? 減らしたというわけではないから!」


「馬もそうだけれど、ロアンヌさんが戦車に乗っていないのはどうしてかしら?」


「減らす? 減らしたというわけではないから!」


「さっきと受け答えが同じになっているわよ?」


「減らす? 減らしたというわけではないから!」


「……。」



 なんか、プリメーラが壊れたゴーレムのように同じ言動を繰り返している。確かに俺は余計な質問には答えるなと言っておいたが、そんなアホっぽい行動を取れとは言ってない。アイツに戦略的な行動を取らせる事自体が間違っていたのかもしれない。



「気になるか? 気になるだろう?」


「どうして乗らずに……? 遅刻、もしくは乗りそこねたというわけではないのでしょう?」


「さあね? あせらなくても、すぐにわかるんだからいいじゃない。」



 追いついて戦車のスタート位置までやってきた俺は、アイリの質問をのらりくらりと躱しつつ、スタートの準備をし始めた。念入りに準備運動をしておかないといけない。チーム内では俺が一番、せわしなく動き回らないといけないからな。



「……? あなたは何をしているの?」


「別に。俺は俺自身の役割を果たそうとしているだけさ。」



 一見すると、正気を疑う行動をしているのはよくわかっている。本来、その役割をするものを一枠減らしてまでその試みをおかなおうというのである。ある意味、ふざけていると見られかねないし、狂気の領域に足を踏み込んでいると言えるかもしれない。



『おーっと!? どういうことでしょう? ブレイブ・シスターズチーム、戦車の馬が一頭少ないと想ったら、その枠にロアンヌが入ろうとしている! 何をしようとしているのでしょうか!?』


「貴方、まさか……!?」


「そのまさかさ!!」



 戦車を引くための器具を特別に用意したベルトにつないでいく。本来、馬用に作られている物を人間用に調整した物だ。こんなことをするのは戦車戦史上、前代未聞の出来事だろう。



「そうだ! 俺が四頭目の馬になるのさ! これぞ、ウマ娘だっ!!」


「一体何を考えて……、」


『まさかの展開です!! しかし、ルール上は特に反則というわけではありませんので、試合開始に移りたいと思います!!』



 アイリは唖然としている。だが、そんな反応をよそに、予定通り運営が試合開始に移ろうとしていた。試合開始前のサプライズとしては想定通りの効果をもたらしているようだ。俺が乗ると馬が止まってしまうからこそ思いついた苦肉の策だ。乗れないなら、馬の代わりをすればいいじゃない!



『最終試合、レディー……ゴーーーっ!!!』


(ドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!!!!!!!!!)


『うおおおおおおおおっ!!!!!!!』



 戦いの火蓋は切って落とされた! 同時にスタートはしたが、アイリたちが早速、俺達よりも前へと出ていった。何しろ馬力が違うのだから、加速力で負けて当然なのだ。最も、同じ条件だったとしても負けていた可能性は高い。それは直前の試合を見ていればわかることだった。だがそんなことは想定済み。俺達の作戦には何ら問題はない。



「うぉりゃー!! 走れ走れ! もっと加速しろぉ!!」


「いてていて! こら、そんなに鞭で叩くな! 痛いだろ!」


「うるさい! つべこべ文句言ってないで、馬車馬のように働けぇ!!」



 全く……。プリメーラは俺が馬役なのをいいことに必要以上に鞭を打ってきている。手加減というものを知らないのだろうか? 鞭は意外と痛いんだぞ? 打たれたあとが残っちゃうじゃないか!



「作戦はこれまで練習してきた通りにするんだ。抜いて先を越されても問題ない。勝負は周回遅れで追いつかれた時だ!」



 そう、この作戦が真価を発揮するのは追い越されそうになった時。その時、相手は恐るべき事態を目の当たりにするだろう……。

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