第117話 因縁の相手
「ホント、客入り多いよなあ。」
チャリオット・フェスタは大盛況で賑わっていた。本来の聖歌隊ファンだけではなくチャリオット競技ファンも多く訪れているため、前のイベントとは比べものにならないくらいの客が入っているのだ。
「今回は戦車道がメインだから、通常の啓蒙活動は少なめなんだから、アンタ的にはやりやすいでしょ?」
「まあ、そうなんだけどな。」
普通のイベントとは違いパフォーマンス自体は少なめの構成にしているらしい。チャリオット競技自体激しいものなので体力的な問題があるかららしい。戦車を使い大きな競技場借りてまで行う一大イベントだ。だからこそ競技自体に力を入れる事にも納得がいく。
「というか、どこのユニットもいつの間に練習してたんだってくらいに、動きがこなれてるな。」
今、俺達は出番を待ちつつ、他のユニット達が交戦する様を見物している。それを見ながら俺も取り入れられる事柄があれば、参考にしようと観察している。俺らとアイリ達の試合は大トリになっているのでじっくり見ていられるのだ。
「そりゃそうよ。各地を啓蒙活動で回りつつ、スポンサーに場所を借りて合間を見て練習してるとこ多いよ。」
メッツの協力で何度か戦車道部のメンバーと模擬戦は出来たが、彼女たちの戦法しか見れていない。ユニットごとに様々な戦術があるからだ。魔術が得意なところはそれを多用するし、戦車にカラクリを仕込んでいるところもあるとメッツは話していた。
「だから、本番まで相手がどう出るかは始まるまでわからないんだな。」
「この日にかけて色々準備をしているものなのよ。」
基本、一ユニット、一試合が原則となっているため、多くのユニットがこの大会に参加している。なので普段宿舎で見かけないような売れっ子の連中がほとんどだ。忙しくても、この大会が重大なアピールの機会になっているため、有力なユニットほど力を入れて挑んでいるという。
「大体、昔から因縁のあるユニットを相手に選ぶことが多いよ。ライバルに直接挑める良い機会だからね。」
だからこそ、プリメーラもアイリに挑戦状を叩きつけられたのだ。普通は格下から格上に対して挑戦するのが恒例になっているらしいが、その定番を打ち破ったのが今回のアイリの行動だ。なのでいつもよりも注目が集まっているのだという。
「はは、他にもアイリ達に挑みたいユニットはいたんだろうな。そういう子らを蹴ってまでお前とマッチしたいと言えるなんて、トップだからこそ出来る特権みたいなモンか?」
「それもあるだろうけど、私とアイリは元々そういう関係だからね。アンタは知らないでしょうけど。」
そういや、聖歌隊入隊当初からのライバルだと言っていたな。古くからの腐れ縁というヤツか? 立場に差が付きまくって、微妙な間柄になってからのお誘いってのは中々良い試みだとは思う。俺にはそういう存在がいなかったので羨ましく思う。目の上のたんこぶ的な存在はいたが……。
「お互いにてっぺん目指す、って誓い合った仲だからね。人生の節目節目で立ちはだかる様な生き方しないとね、とか話し合ったモンよ!」
「話し合ったモンよ、ってなんかオッサンの昔語りみたいだからやめとけよ。」
「誰がオッサンか! うら若き乙女に対して言うような事じゃないわよ!」
「だったらもうちょい普段から乙女っぽい振る舞いをしてくれ。普段から男気溢れまくってるぞ。」
「あ、あふれてないもん!」
そういやミヤコとも競い合う間柄とか言ってたな? どういう形でどういういきさつでそうなったのかは知らないが、どっちも自己主張が激しいのは似ている。過去に出会ってなくとも、いずれは生きている内に出会ってしまう運命なのかもな。
「アンタにはそういう関係の人はいないの?」
「え? 俺? いると言えばいるし、いないと言えばいないかな?」
「なによ、その微妙な答えは!」
そんなに聞きたいのか? しょうがないなあ。強いて挙げるなら……なんか梁山泊時代のいやな思い出が蘇ってきた。ことあるごとに俺や師父に対して突っかかってきたヤツがいたことを……。いや、さすがにそれを話すのは憚られるので、無難にファルやヴァルの話をしておこう。
「相手から一方的にって意味では……ヴァル・ムングとか、ファルとかかな?」
「何ぃ!? ファル様だとぉ! アンタと全然釣り合ってないのにおこがましいにも程があるぞ! このダボがぁ!!」
「そんなこと言われても……。」
いや、明らかに次の勇者の座を狙ってるし、そういう関係なんだけどなぁ。因縁のある相手といえば……アイツか。思い出したくなかった相手を思い出してしまった。秦青龍の事を……。