第106話 決定的な格差
『うおおおおっ!!!!! アイリちゃぁぁぁぁん!!!!!!!』
俺達の出番が終了し、今はアイリ達“儚き蜻蛉”のパフォーマンスが行われている。会場は割れんばかりの盛況に包まれていた。俺達の時も決して声援が少なかったワケではないが、明らかにその倍くらいの盛況ぶりだった。
「これがトップの実力というヤツか! 俺達のような付け焼き刃ユニットじゃ全然刃が立たない!」
あちらの方が断然華々しいというか、演出も派手で、プロのパフォーマンスという感じがする。それに比べると俺らのは、素人じみた演芸披露にしか見えないだろうな。
「ちくしょー! アイリのヤツ、タイアップとか言っといて私らを踏み台にしやがったな! 訴えてやるぅ!」
「誰に?」
「当然、聖女様に決まってるじゃん!」
「聖女様に泣きつくんかい!」
プリメーラも負けと感じたのか、散々悔しがり地団駄を踏んでいる。ライバルに差を見せつけられているのを目の当たりにして、今はただ黙って舞台袖で見ているしかない。競い合うとは言っても互いのパフォーマンス自体は個別だからこういう時は何も出来ない。
「くうう!? どうするんだ? 今後はよっぽど策を絞らないとますます差を付けられてしまうぞ! 犬P?」
こちらも黙って見てるだけじゃダメだ! 今のうちから作戦考え始めないと! そう思ってタニシの姿を探すが……いない? どこへ行ったんだ?
「ええと、勇者さん、タニちゃんはあそこに……。」
「……え!?」
メイちゃんが指差す方向を見ると、そこは観客席。その最前列にちっこい茶色の犬畜生がいた! タニシが何故か職を放棄して、あり得ない場所にいるではないか!
「ワっひょおおおおっ!!!!! アイリしゃあああああんっ!!!!!」
「うおおおいっ! お前がそこにいてどうするんだぁ! この裏切り者! 薄情者! 犬畜生めぇぇっ!」
Pなのに敵陣営に与してどうする! 完全に虜にされ、周りのファンと同様に声援を送っている。Pがこの有様では今後、俺達に勝ち目がないではないか!
「ふむむ! うちらはメンバーが少ないのがいけないんじゃ? メンバーを増やした方がいいんじゃないの?」
メンバー増強ねぇ? 確かに向こうは五人組で活動して、今もその連携で相互作用して盛り上げているように感じる。俺らの連携もへったくれもない噛み合わないパフォーマンスでは比べるまでもなく、劣っているのがハッキリわかる。プリメーラの歌だけでなんとか保っていたようなものだ。
「んなこと言っても、誰もいないだろ? お前の過去の仲間は仲違いとかして出て行ったんだろ? 出戻りとかあてになるようなヤツはいるのか?」
「ふっふっふ! 私の人望をご存じないようね?」
「じゃ、じゃあ、いるのか?」
「私に人望なんてあるわけないじゃない! あっはっは!!」
「人望ないことを自慢げに話すなぁ! あっはっは、じゃねえよ!」
ダメだ。コイツは男気と歌以外はてんでダメだ! あてにしようとした俺がバカだった。ああ、そういえば大食いとかもあったな。いやいや、それもメンバー集めるのには役に立たない。どうすれば……?
「あーっ!? 人望がない私にも数少ない友達がいることを忘れてた!」
「は? 誰だよ? お前に友達なんていたっけ?」
聖歌隊に入ってから何人もの女の子達に会ってきたが、プリメーラと仲が良さそうな子は一人もいなかったような? 新ユニット結成ということでプリメーラに挨拶しに来たのだと思ったら、ただ単に物珍しさで俺に会いに来ただけだった。プリメーラの根は悪いヤツではないのだが、我が儘で破天荒な性格のため敬遠されがちな性格なのだ。恐らくは下手にメンバーを組むよりはソロ活動向きかもしれない。だが聖歌隊ではそういうわけにもいかないようだ。
「ここにいるじゃない!」
「……へ?」
ここにいると言って直近の方向を指差した。その先には……メイちゃんがいた。そうか! 盲点だった。本人はサポートのつもりで俺に付いてきてはいたが、メンバーに加えるという発想はなかった。しかし、引っ込み思案な彼女が承諾するだろうか?
「わ、わ、わ、私がどうかしたんですか?」
「マルマル子ちゃん、ユニットのメンバーに加わって!」
「む、む、む、無理だよ! 私、聖歌隊なんて絶対入れないと思うし……。」
「私が聖女様に掛け合ってみるから! 元々、治療院のヒーラーだったら資格十分なはずだよ! 治療院でスカウトされた子も結構いるし!」
なるほど。神官出身の子もいるワケか。元々聖歌隊に自ら志願してきた子ばかりではなく、そういう入隊ルートもあるのか。だったらそれでもいいような気がする。俺のサポートだけではもったいない気もしてたから、メンバーに引き入れる価値は十分あるだろう。