第104話 もうすぐ本番です!
「とうとう、本番が来てしまったか。思ったより緊張するな。」
控え室代わりの天幕の中、思わず本音を口走る。あっという間に一週間が過ぎ、イベント当日を向かえる事になった。準備は万端だが、聖歌隊としての活動に自信が持てない。何しろ、女の子として大衆の面前に出るのは初めてだから……、
「緊張しているな! アンタのデビューを華々しく飾って、緊張なんかぶっ飛ばしてやろうぜ!」
プリメーラは先輩風を吹かして、俺の緊張をほぐそうとしている。口ぶりからもなんか男らしいというか何というか、豪快な感じを醸し出している。ホントに女の子の憧れの仕事をしている癖に結構その本性は違う。見た目はかわいらしいのに、男よりも男らしいの人間ばっかりな感じがした。連中と一緒に過ごしていて判明したことだ。
「ぶっ飛ばしてどうする! 相手は影も形も無いんだぞ。」
「細けぇ事を言うな! そんなん気にしてるから、緊張なんかするんだよ!」
ああもう……。気合いとか、ぶっ飛ばすとか、細かいとこは気にしないとか。なんかノリが軍隊とか武家みたいな感じだな。それ、もう戦士の発想だから。
「僕、そんなに豪快な性格じゃないんで……。」
「それでも勇者か、お前は~っ!」
勇者ですが、度々、勇者の印とも言える額冠取られたり、まともに言葉を話せなくされたりとかしてるからね。今回、とうとう性別まで変えられちゃったんですが? 俺から勇者権を剥奪したいヤツなんてゴロゴロいるわけですよ。
「ボクっ子……。なんかそそられる物があるでヤンしゅ!」
「こら、そこ! 勝手に萌えるな!」
なんかもう、俺が性別反転しただけの人間だということを忘れてないか? どんどん、日に日に、俺を見るタニシの目がいやらしい物に変わってきている感じがする。なんかそのうち、セクハラとかされるかも。下手したら襲われかねない。このエロ犬め!
「フフフ、相変わらず愉快な人達ね。」
「ああっ!? アイリ!?」
「なんだ? 敵情視察のつもりか?」
「まあ、人聞きの悪い。ちょっと挨拶に来ただけよ。」
不敵な笑いと不貞不貞しい堂々とした態度でアイリがやってきた。さすがにイベント前ということもあり、煌びやかな衣装を身に纏っている。若さと色気を両立させて神々しさを際立たせていた。何か色々、露出とかギリギリを攻めている。これがトップ・スターか!
「今日の対決、楽しみにしているわ。どんな物が飛び出すか、楽しみで仕方ないわ。」
「フフン! コッチはアンタが負けるところを見るのが楽しみで仕方ない! 必ずギャフンと言わせてやるんだから!」
「ギャフン。これでどうかしら?」
「うおぉい!? 自分で言うなぁ! 自然と言わせるのに価値があるんだろうがぁ!」
「ギャフン。」
「だから言うな! 二回も言うなぁ! 親にも言われたことないのに!」
最早、意味がわからない。アイリ自ら、本当にギャフンと言ってしまうとは。プリメーラもプリメーラだ。あくまで例えの話だと言うのに本当に言わせる事だと思っているようだ。やっぱり正真正銘のアホなのかもしれない。
「言って欲しいのならいくらでも言ってあげるわ。ついでに言っておくけど私のパンメニューにはもう一つサプライズ的な物を用意してあるのよ。」」
「な、何!? 例の卵のヤツ以外にも用意していると言うのか?」
「そうよ。そちらも何品か出すようじゃない? そのつもりなら対抗しないとね?」
「なんでそれを知っている?」
「さあ、どうしてかしら? 風の噂とか虫の知らせという物が自然と入ってくる物なのよ。私ほどの者となればね。」
公開したつもりはないが情報が漏れているようだ。メニュー開発する上で関わった人なんてたくさんいる。その何人かから情報を聞き出したりしたに違いない。対策していなかったこちらも悪いが、油断も隙もないヤツだな。気を付けないと。
「どうやら、勇者さんは同朋の人をバックに据えたようね。おかげで本格的な物を召し上がれるのだけども。」
「どこまで知っているんだ?」
「どこまでも。貴方の知らない事も知っているわ。それに貴方自身も私のスポンサーについてもご存じなのでしょう? オオタニ社長のことを。」
ミスター珍の事もとっくにご存じなのだろう。もしかしたらサンディーのオッサンからも情報がもたらされているのかもしれない。学院の時もどこからともなくタガメおじさんの動きを知ってやってきたわけだしな。