第100話 ワタシ、何でも知ってるアルね!
「珍さんよ、本格的なモンが揃ってるのはわかったから、肝心の香辛料を出してくれよ。」
「しょうがないアルね。出すアルよ。その代わり、オススメの品も使ってみるヨロシ。」
「だから、使ったら大騒ぎになるんだってば。」
ミスター珍は明らかに残念そうな素振りを見せて、渋々、香辛料を取りに行った。その間に店内をじっくり見渡してみる。店先同様、ありとあらゆる骨董品、美術品の類が陳列されているが中にはさっき見たゲテモノ以外のキワモノが並んでいることに気付いた。蛇とか蜥蜴とかちょっと大きめのヤツは普通に並んでいるようだ。初見だと絶対に卒倒しそうなヤツばっかり……。
「勇者さん、あそこにな、な、な、何か豚さんの頭のようなものが……!?」
「ああ、豚の頭だね。アレもおいしく頂ける定番の食材だよ。」
「ひ、ひーっ!?」
今度はメイちゃんまで気絶してしまった。イカンかったか? こっちでも豚肉自体は定番の食材のはずでは? 頭は食べないのだろうか? たしかサヨちゃんの本にもそういう料理がこの辺にも存在していると書かれていたんだけどなぁ。メイちゃんには馴染みがなかったようである。
「アイヤーッ!? お連れさん、二人ともお休みになってるアルね! 何があったアルか?」
「この店の商品は刺激が強すぎたみたいなんだよ。」
まだあんなのは序の口なんだけどな。犬猫やは虫類、虫はともかく動物の○○○とかも食材だからな。アレはぱっと見何かわからんから、まだマシだろう。冬虫夏草とか目にしたら、どんな反応をするのか見てみたいところだ。
「で、持ってきてくれた?」
「コレアルよ!」
様々な香辛料というか、一部漢方薬なものも含まれているものの、ある程度主要なものは揃っているようだ。狙いの八角や花椒はきっちりあるのが確認できた。
「じゃあ、コレをいくらかもらえるか? 値段はいくら?」
「これくらいアルね。」
「な、何……!?」
そろばんを使って値段を提示してきたが、さすがにお高い……。ここら辺の一流店でフルコースが何回か食べられるくらいの金額だ。トホホ……。
「お客さんさすがに困ってるアルね? ココはワタシに一つ提案があるアルよ。」
「な、何? 学割というか聖歌隊割とかしてくれんの?」
「それに近いアルよ。アナタ聖歌隊で三本勝負するアルね?」
「な、何故、それを知ってる!?」
驚くべき発言が出た! 内部の人間しか知らないであろう、例の三本勝負の件が外部の人間が知っている? どこから情報が漏れたんだろう?
「ワタシ、何でも知ってるアルね。知り合いのパン屋の人から聞いたアル。知ってるから、アナタに提案したいアルよ。」
まさかとは思うが、情報源は“パパンがパン!”の店主だろうか? あの人は東洋かぶれみたいだったから、このオッサンと知り合いだったとしてもおかしくはない。東洋文化もこのオッサン経由で知った物かもしれないし。
「まあいいけど、何を提案するつもりだ?」
「ワタシ、前から飲食の店、出したい思ってたアルよ。今度の対決でアナタ出す料理を看板メニューにすれば、商売繁盛間違いないアルね!」
「まさか、スポンサーになるから広告塔になれというのか?」
「そういうことアル。お客さん、物わかりいいアルね。」
ただでスパイスを提供する代わりに、パン対決で使ったメニューを店で販売するというのか? たしかにイベントには人が大勢集まるし、宣伝効果は大きいと言えそうだ。確かに今まで聖歌隊を広告塔にした商品展開は今まで何個か目にしたことがある。聖歌隊の絶大な影響力を考えれば、効果は大きいだろうな。
「いいよ。その提案に乗った! その代わり色々手を貸してもらうからね。」
「嬉しいアルよ。この国での商売の足がかりになりそうアルよ。」
交渉は成立した。相手はトップアイドルだから、これくらいの策は講じないと勝てそうにない。しかも、俺と同朋の人間なら尚更心強い。コレで中華パワーの実力を見せつけてやろう。
「仲良くなったところで、お客さんに食事を提供したいアル。食べていくアルか?」
「え? マジで? 食べてく、食べてく!」
俺はよろこんで店の居住スペースへと案内されて入っていく。何が食べられるのかはわからんが、久々の祖国の料理だテンションが上がる! そういうのを口にすれば新しいメニューのアイデアも浮かぶかもしれない。
「ちょっとワタシの知り合いも来てるアルから同席になるアルよ。」
「うん? まあいいけど……?」
食卓には先客がいた。なんか見覚えのある背格好、怪しい変装……ってミスター?X! いやそうじゃない! プリメーラじゃないか!
「おいいっ!? なんでお前がここにいるんだ!」
「ゲーッ!? 見られた!? バレた!? なんでこんな所にまで出没するのよ!」
「それはコッチのセリフだぁ!」
ミスター?X改め、食いしん坊将軍! 正に神出鬼没! 食べ物の匂いを嗅ぎつけ、こんなマニアックな店にまで足を運ぶとは……。正に食いしん坊バンザイという展開だった……。