ルネと元騎士団長の逃避行
企画用に書いた作品です。よろしければお読み下さい。
夜のスラム街。汚くて人通りの少ない道を、一人の男が歩いていた。
「おい、来てやったぞ」
銀髪を無造作に束ねた男は、そう言ってある建物の一室に入った。すると、既に部屋にいた黒髪の男が笑顔で男を迎え入れた。
「やあ、ジャン。よく来てくれたね」
「全く、急に呼び出しやがって……」
ジャンと呼ばれた男は溜息を吐くと、ふと部屋の隅に目を向けた。
そこには、十歳にも満たないような少女が座っていた。首の辺りで切りそろえられた金髪が美しい。
「……何だ?この子は。今回の仕事に関係あるのか?」
「うん。実は、この子の護衛をお願いしたいんだ」
黒髪の男――リオンの話によると、金髪の少女の名はルネ。ある事情で命を狙われており、彼女の親戚がいる田舎まで護衛しながら逃がして欲しいとの事だった。
「事情は詳しく聞かない方がいいんだな?分かった。……しかし、何故俺に依頼を?」
「この子の両親は既に殺されているし、腕が立って且つ裏の仕事を引き受けてくれそうなのが君だけだから」
ジャンは昔騎士団長を務めていたが、王家に逆らった事で騎士団を辞め、三十五歳の今は飲み屋で用心棒のような事をしている。ジャンより十歳若いリオンは、ジャンに裏の仕事を紹介してくれる。
「というわけで、宜しくね」
報酬や送り届ける場所等を詳しく伝えると、リオンはそう言って笑った。
「ああ……おい、嬢ちゃん、明日の朝早くここを出るから、しっかり寝ておけ」
ルネは、無言で頷いた。
翌朝、ジャンとルネは幌馬車に乗せてもらい、田舎へと向かった。
「嬢ちゃん、お腹がすいただろう。これを食っとけ」
ジャンは、パンを一つルネに渡した。ルネは頷いてそれを受け取る。その後、何も会話がないまま二人は馬車に揺られた。
やはり、無精髭を生やしぶっきらぼうなこんな男とは仲良く出来ないのだなとジャンは思った。
しばらくすると、馬車が急に止まった。「うわっ」という御者の声が聞こえる。ジャンが前を見ると、盗賊らしき男が何人も馬車の前に立ち塞がっていた。盗賊の一人が御者を斬りつけようとする。
「ちっ!」
ジャンは舌打ちをするとヒラリと飛び出し、盗賊を次々と斬っていく。致命傷は与えない。
そして最後の一人を斬ろうとしたが、盗賊のボスと思われるその男はジャンの剣戟を交わす。そしてジャンがもう一度男を斬りつけようとした時、男は軽々と避けると、ジャンの腹部を斬りつけた。
「ぐっ……!!」
ジャンの腹部に血が滲む。
「俺はこう見えても腕が立つんだ。急ごしらえの護衛には負けねえよ。そこのお嬢ちゃんの命は貰うぜ」
「させるかっ……!」
ジャンは力を振り絞ると、今まで以上の身のこなしで男に迫った。ジャンと男の剣が交わる。
「あんた、いくら貰ってるか知らないが、命を懸けてまでその嬢ちゃんを護る意味があるのか?死んだら割に合わないだろう」
「酒もタバコも知らない歳で死なせるのは不憫でなあ!それに、俺は死ぬつもりは無い!」
ジャンはそう言うと男の剣を弾き、素早く男の腹部を斬った。
「……俺がいなくなった所で……安心できると思うなよ……」
そう言って、男はその場に倒れ込んだ。
その後数日かけて、二人はようやくルネの親戚の家に着いた。そこで親戚から聞いた話は、驚くべきものだった。
ルネは、国王と平民の女の間に生まれた子だというのだ。今国内でクーデターが起きており、国王一家は惨殺された。国王の血筋を残しては反乱分子になると考えた革命軍はルネの命も狙った。ルネの母親は自らの命を犠牲にしてルネを逃がしたらしい。
そんな子を引き取ったら自分の身も危ないと、ルネの親戚はルネの引き取りを拒否した。
親戚の家を出て静かな道を歩きながら、ルネはチラリとジャンの方を見た。ジャンは腹部がまだ痛むらしく、腹部を手で押さえている。
「あの……ごめんなさい。私のせいで……怪我を……」
か細い声ではあったが、ジャンは初めてルネの声を聞いた。
「ああ、気にするな。仕事だからな。それよりお前、これからどうするんだ?」
「……」
ジャンは、無精髭を撫でながら考えた。この子を引き取ってくれる優しい里親なら見つけられるかもしれない。しかし、この子は命を狙われている。ただ優しいだけじゃなく、この子を護れる力のある者が見つかるだろうか。
「……お前、俺の子になるか?」
ジャンと手を繋いだルネは、無言で頷いた。しかし、その顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。
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